つばめきたる


二十四節季でいうと清いに明るいと書いて清明(せいめい)。万物が清々しく明るく、美しいころだそうだ。確かに冬の少し寂しい景色を終え、様々な草木が芽吹き、生物が動き始める春は何をとっても美しく見える。

七十二候では、玄鳥至(つばめきたる)。南の国から燕が渡ってくる季節である。毎年八丈島にも姿を現わす燕だが、私はいつも心配になってしまう。八丈島はめっぽう風が強い。年間通して風は強いが、冬~春にかけては格別に強い気がする。キッチンの窓から見える木々は大きく揺れ、空はごうごうと嵐のような音をたてる日が何日も続く。わかりにくいお店の入り口を知らせるための小さな看板は、よく倒れてしまうので店内にしまいっぱなしになる。そんな春の暴風の中を燕たちはやってくるのだ。その小さな体には酷でないかと思う。

だが私の心配をよそに風の中、華麗にまいとぶ燕たち。よく飛べるなあ、と感心してしまう。もちろん、風のない日のほうが燕たちもいくぶん楽そうで、お店のわきの川沿いを元気よく飛ぶ姿が目にできる。燕は何種類かいるようだが、八丈島で繁殖することはめったにないようで、東京にいたころよく見かけていたかわいらしい燕の巣には出会えない。八丈は通過する過程で休憩する場所にでもなっているのだろう。と考えると、もしかしたら本土より燕を見ていられる時間は島のほうが短いのかもしれない。

島にもそんな渡り鳥のような人たちがいる。学校の先生だったり、駐在さんだったり、都の職員さんだったりと移動がある人たちだ。このころになるとお店でも「おや、観光の方かな?」と思って声をかけてみると「この春こしてきたんです」なんてやり取りが増える。街中でも「あ、あの人コートきてるなー。新しい人かな」なんて思ったりする。島に長くいるとだんだん上着を着無くなってくる。通年暖かいのもあるが、車生活なので着こんで外を歩く機会がめったにないのだ。

そんな感じで島内に新しい風が吹いてくるのを感じる季節でもある。数年たてば、島を旅立ってしまうのがほぼ決まっているので寂しくはあるのだが、私は色々な人に出会えるこの季節が好きである。人によっては、住み心地の良い場所ではないかもしれないけれど、島の色、匂い、音。毎日違う景色との出会いを、燕のように、どうか楽しんでいってほしいな、そう願ったりする。そして私は、島での滞在をより楽しんでもらえるようなことを日々作れたらいいなあ、と思うのである。
(2021.4.3放送分)

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