髙橋健太郎

パリオリンピックバレーボール男子、日本が準々決勝でイタリアに3ー2で敗れた。とにかく男子の前評判はすさまじく、神7ならぬ神14(今回選抜を逃したラリー選手小川選手含む)とも呼ぶべき色鮮やかで実力のある選手たちが2024を狙い済まして集まってきた。それぞれ言葉を変えて語り尽くせるプレースタイル、名将ブランと絶対エース主将石川のうしろをカルガモのように付きながら、のびのびと個性を爆発させる若者が強い結束力を見せつけてくる。メダルを獲るなら今しかないと誰もが思った。

結果は敢えなく……であったが、私はメダルが獲れなかったことより、このメンバーがもう二度と見られないということに強烈な喪失感と寂しさを感じた。みんなもそうだろう。メダルは獲れたら嬉しいが、獲れたからといって、オリンピックが最終回なんて知っている。最初から別れは決まっていた。

最終回を迎え、ある選手が代表引退を決断した。
髙橋健太郎選手。

私の推し選手。推しと言っても、私はテレビで放送される全日本の試合をメインに見ているだけなので、本気で推している人と比べるべくもないのだが……一応、推しと呼ばせてほしい。
彼を初めて見たのはネクスト4として、柳田選手、石川選手、山内選手と供に鳴り物入りで男子バレー界に参入したときだ。すでにコートの中でメインを張っていた他三人と違って、健太郎選手はすこーし影が薄かった。出番がほとんどなく、20点台になったところでワンポイントブロッカーとして呼ばれるくらい。
ワーッと手を叩いて声を張り上げて飛び込んでくる若者に一瞬で一目惚れした。ひとりで大声を張り上げ、ニコニコニコニコしている。そしてブロック機会もさほどになく、五分と経たずして元気に帰って行く。

他の選手ができてないとかではないが、コートの中に入ったら何が大切か、何をすべきかというのを彼はよく理解し、ひとり懸命に実践していた。自分が主人公になるよりチームの調和と鼓舞に全力を注ぎに入ってくる。そこがとても好きで、顔もイケメンだったのでファンになった。これから注目しよう、応援しようとそのときに決めた。

それから数年。監督はネクスト4を発掘した南部さんから中垣内さん(と見せかけてブラン)に交代し、健太郎選手はミドルの中心人物として招集されていた。
声を張り上げて元気を与えるだけでなく、ミドルとして確実に実力を伸ばし、いつの間にか子宝にも恵まれていた健太郎選手に惚れ直す。
ところが……東京五輪を目前に控えたネーションズリーグ。ブロックもスパイクも申し分ないのに……サーブが入らない(泣)
壊滅的にサーブが入らない。なんで、なんでこんなにサーブが入らないんだよ。大量にミスってたら代表落ちしちゃうよと非常にやきもきした。それが原因かどうかはわからないけど東京五輪に健太郎選手の姿はなかった……がっくり……。

本当に申し訳ないが、ライトファンだったから「辞めるこの人」と思った。絶対引退する。私の推し(小川選手含む)はなぜ五輪を逃すのか。
でも、東京五輪終わって、また新たにチーム編成し直して(ほとんど変わらんが)、代表試合に健太郎選手がいて心の底から喜んだ。

サーブも変わってる!入らないジャンプサーブからゆるやかなフローターへ!

賢い人はプライドを捨てられる。健太郎選手はやはりコートの中において自分がどうするのがベストなのか考えられる人だった!
時代が進み、選手のインスタ活動などが活発になり、男子バレーの注目度が上がるにつれ、選手間の気持ちや関係性も伝わりやすくなった。健太郎選手がチームの精神安定剤のような役割を担っていることがわかった。とても面倒見の良い頼れる男。明るいムードメーカー。これはやはり、あの日手を叩いてひとりで大声を出しながらコートに入ってきた健太郎選手と地続きなのではないか。

そしてついに、五分も出番がなく、何が特徴なのかわかりづらいところから、誰もが納得するブロックを看板にしてのし上がってきた健太郎選手はついに自らの手で五輪の舞台を掴んだ。

頑張り屋さんなのにちょっぴり「持ってない」健太郎選手。せっかくの舞台で突然舌を青くするなどのアクシデントに見舞われながらも、一生懸命仲間を鼓舞して盛り上げる姿、鋭いスパイク、流麗なおとり仕草、常に頭を働かせ、仲間に共有しながら飛ぶブロック!やっぱりかっこ良かった!

五輪はどうでしたでしょうか。楽しかったですか。つらかったですか。膝が心配です。
ライトファンだから私が健太郎選手を見る機会はぐっと減るだろう。こころゆくまで現役で、そして面倒見の良さを生かしていつか次世代と供にまた前へ出てきてくれたら嬉しいな。

髙橋健太郎選手、お疲れ様でした。

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