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OR逆転裁判 第二話「難航逆転不落」2日目法廷前編

【ヒツグリ】
(‥‥うう‥‥まさか私が、
ユーリのベンゴをするだなんて‥‥)
【アワテル】
「‥‥おはようございます。
今朝はねむれましたか?」
【ヒツグリ】
「うん。15分くらいは‥‥」
【アワテル】
「‥‥ただの“仮眠”じゃないですか‥‥」
【ユーリ】
「おはようございます!!」
【アワテル】
「‥‥おや、おはよう。
今朝はねむれたかな?」
【ユーリ】
「うん。10分くらいは‥‥」
【アワテル】
「‥‥ヤッパリ、ただの“仮眠”じゃないか‥‥」
【ヒツグリ】
「うう、寝不足で
てるくんが3人くらいに見えるよ‥‥」
【アワテル】
「‥‥今日の相手は、あの“魔術師”ですよ。
ひつぐりさんが3人いたって、苦戦しますぜ」
【ユーリ】
「まじゅつし?
いったいナニを出してくるんだろう‥‥」
【ヒツグリ】
「ハトじゃないかな」
【アワテル】
「ハトで済めばいいですけどね‥‥」
【ユーリ】
「ねえちゃんだってテンサイだよ!!
だってホラ、ベンゴシだし!」
【ヒツグリ】
(なんのなぐさめにも
なっていない‥‥)
【ヒツグリ】
「”魔術師”の法廷‥‥。
手ごわい“ステージ”になりそうだな‥‥」
🔴🔴🔴🔴🔴
【サイバンチョ】
「それでは、火継利 優里の
審理を開廷します」
【ヒツグリ】
「弁護側、ジュンビ完了しております」
【ミトウ】
「検察側。うたかたのユメに
裁きを下す覚悟あり‥‥」
【ヒツグリ】
(‥‥法曹界の“天才”‥‥。
まさか戦うことになるとは‥‥)
【サイバンチョ】
「あなたなら心配はいらないでしょう。
‥‥水冬検事。《冒頭弁論》を」
【ミトウ】
「被害者は泥鱈 景(どろだら けい)。
屋上から転落させられた、悲劇の主役‥‥」
【ミトウ】
「そして、今宵はもうひとり悲劇の主役がいる。
親愛なる被告人に、今より裁きのテッツイを‥‥」
【サイバンチョ】
「‥‥スバラシイ《冒頭弁論》でしたな。
これ以上なくシンプルです」
【ヒツグリ】
(‥‥シンプルすぎて、具体的なセツメイが
マッタクなかったぞ‥‥)
【ミトウ】
「この世は波だ。押し寄せ、引いてを繰り返す。
‥‥今は“押しどき”さ、刑事」
【ユカイ】
「後藤 愉快。波のような人生に
悩み、迷う‥‥イッピキの刑事です」
【ミトウ】
「この事件の真相だけは、悩むことも
迷うこともなく、《証言》できるハズだ」
【ミトウ】
「“迷わない人生は、物語の中にしかない”。
‥‥さあ、ササヤカな“悲劇”の幕をあけよう」
【ヒツグリ】
(‥‥“悲劇”なんかにしてたまるか‥‥!)
🔴🔴🔴🔴🔴
【ユカイ】
「事件は学校の屋上で起こりました。
被告人が、被害者を投げ下ろしたのです」
【ユカイ】
「屋上は高さ5メートル。
被害者は助かりませんでした」
【ユカイ】
「校舎に入るのに必要なパスワードは、
教員の落とした“端末”で知ることができた」
【ユカイ】
「校舎と屋上の入口のカメラには、
被告人のスガタのみがキロクされていた」
【ユカイ】
「カメラに死角はない。屋上に行った人物は、
被告人以外に存在しないのです‥‥」
カメラに死角なし
表口から入れないカギあけられたコンセキもなし
受信機ではいった
🔴🔴🔴🔴🔴
❌【サイバンチョ】
「《屋上》へ行くには、“監視かめら”を
かならず通るのでしたな」
【ミトウ】
「世の中には、さけては通れぬものがある。
‥‥今から行う《尋問》も、その1つです」

🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
【サイバンチョ】
「現場にいたのは被告人のみ。
なるほど、“死角”のない《証言》でしたな」
【ユカイ】
「被告人が学校の屋上に行き、
被害者を《転落》させ、そのまま校庭に埋めた」
【ユカイ】
「《転落》させて、《埋めた》。
そしてその“通り道”には、カメラがあった」
【ミトウ】
「そう。殺劇の舞台にあがる少年の“花道”を、
このカメラだけは見届けていた」
【ミトウ】
「“死角”なき《尋問》をキタイするよ。
キミは、カメラより目玉が1つ多いのだから」
【サイバンチョ】
「その充血した目玉に、
ビタミンが行き届いていれば‥‥のハナシですがね」
【ヒツグリ】
「‥‥“見る”だけでは、見落としは防げない。
カメラにはない脳ミソで、せいぜい考えますよ」
【サイバンチョ】
「それでは、そのカメラより多い目と
カメラにはないクチで、《尋問》をおねがいします」
カメラに死角なし
表口から入れないカギあけられたコンセキもなし
受信機ではいった
「‥‥目玉がひとつ多くても、
“死角”がないとはかぎりませんよ」
🔴🔴🔴🔴🔴
【ユカイ】          【●◯◯◯◯】
「事件は学校の屋上で起こりました。
被告人が、被害者を投げ下ろしたのです」
【ヒツグリ】
「屋上はサクが高かったハズです。
投げ下ろすのは、ムズカシイのでは?」
【ユカイ】
「“ムズカシイ”‥‥。
そんなコトバに、なんのイミがありましょう」
【ヒツグリ】
「‥‥‥‥え」
【ユカイ】
「むずかしくたって、やればできる!!
ユカイが試験に、ギリギリで受かったように!」
【サイバンチョ】
「根性論はともかく、被害者は
やせぎすの大男‥‥すなわち軽かった」
【サイバンチョ】
「被害者の抵抗を考えなければ、
“可能”と言えるのでしょうが‥‥」
【アワテル】
「被害者の“抵抗”‥‥。
水冬検事、ここになにか隠してますね」
【ヒツグリ】
「とにかく! サクの高さは
精神論で解決できるハナシじゃない!!」
【ヒツグリ】
「いまのテキトーなセツメイは、
とうていユルされるものではありません!」
【ユカイ】
「うぐ!! ら、来月の給与査定が‥‥!」
【アワテル】
「ギリギリなんでしょうね。
給与も地位も、シゴトも何もかも‥‥」
【ヒツグリ】
(刑事から“転落”する日も、
そうとおくなさそうだな‥‥)
【ユカイ】
「とにかく! ユカイの給与とちがって
ゲンバの屋上は高かったのです!」
【ユカイ】          【◯●◯◯◯】
「屋上は高さ5メートル。
被害者は助かりませんでした」
【ヒツグリ】
「5メートルの高さでアタマから落ちると、
やはりキビシイのでしょうか?」
【ユカイ】
「うちどころがワルいですからな。
ユカイにもケイケンがありますぞ」
【サイバンチョ】
「なんと! 5メートルの高さから転落して
殺害されたケイケンが‥‥!?」
【ヒツグリ】
(あそこにいるユカイ刑事は、
ユーレイじゃないと思うけど‥‥)
【ユカイ】
「いえ、係のヒトに背中を押されたのです。
あのヒモがなかったら、死んでましたぞ!!」
【ヒツグリ】
「いや、バンジージャンプは
そういうモノだと思いますけど‥‥」
【ミトウ】
「これ以上ムダ話をするつもりなら、
刑事のシゴトからも、飛びおりるコトになるよ」
【ユカイ】
「ぐはぁぁぁぁぁッ!!
それだけはカンベンを! どうかイノチづなを!」
【ヒツグリ】
(‥‥いまの“忠告”‥‥。そうとう
うちどころがワルかったようだ‥‥)
【ユカイ】
「とにかく、被害者を殺すには
もうひとつ、必要なものがあったのですが‥‥」
【ユカイ】          【◯◯●◯◯】
「校舎に入るのに必要なパスワードは、
教員の落とした“端末”で知ることができた」
【ヒツグリ】
「ヒドイ学校ですね。
なんというか、カンリがずさんで‥‥」
【ユカイ】
「パスワードを毎日変えたって、
どうせみんな投げ出すのですよ」
【ヒツグリ】
(‥‥説得力がすごい‥‥)
【ミトウ】
「“端末”からシステムにデンワをかけると、
その日のパスワードを受信できる」
【ミトウ】
「事前に学校でタンマツを拾えば、パスは知れた。
‥‥キミもはやく、有罪判決を“受信”することだね」
【ヒツグリ】
「いえ、ケッコウです。
第一法廷はデンパがとどかないんですよ」
【ユカイ】
「ザンネンながら、デンパが届かずとも。
このカメラが、“有罪判決”を伝えてくれますがね」
【ユカイ】          【◯◯◯●◯】
「校舎と屋上の入口のカメラには、
被告人のスガタのみがキロクされていた」
【ヒツグリ】
「マチガイないんですか!?」
【ユカイ】
「被告人ひとりを数えるだけですぞ。
むしろ、まちがえようがない!」
【サイバンチョ】
「ワタシのかすんだ目でも、見落としませんな。
弁護人の充血した目ならともかく‥‥」
【ヒツグリ】
(裁判長より下か?
わたしの視力‥‥)
【アワテル】
「ビタミンが足りないなら、
目玉にレモンでも吹きつけておくといい」
【ヒツグリ】
(ナミダでよけいに
見えなくなりそうだな‥‥)
【ユカイ】
「とにかく。ワレワレにとっても、
カメラにとっても、“見落とし”はあり得ない!」
【ユカイ】          【◯◯◯◯●】
「カメラに死角はない。屋上に行った人物は、
被告人以外に存在しないのです‥‥」
【ヒツグリ】
「‥‥死角のないカメラなんて、あり得ません!!」
【ユカイ】
「“死角がない”というのは、屋上に行くには
カメラをさける方法がない‥‥というイミです」
【ミトウ】
「カメラの背後はカベだからね。
ガケっぷちのキミとは、ハナシがちがうのさ」
【サイバンチョ】
「‥‥背後がガラあきですからな。
夜道を歩くときは、気をつけるといいでしょう」
【ヒツグリ】
(こんどから、おうちに帰るときは
てるくんを背中にくっつけておこう)
【アワテル】
「マスコットみたいに使わないでください」
🔴🔴🔴🔴🔴
【アワテル】
「カメラは屋上の入口だけ見張ってれば
いいですけど。ワレワレはちがいますよね」
【ヒツグリ】
「‥‥もっと視野をひろく持てってコト?」
【アワテル】
「視野をひろく‥‥。あるいは、
やわらかく持ってみても、いいと思います」
【アワテル】
「被告人がゲンバにいたことを否定できないなら。
発想を逆転させればいいんですよ」
【ヒツグリ】
(‥‥ナニをどう逆転させれば
いいんだろう‥‥)
🔴🔴🔴🔴🔴
異議あり!!《カメラ》《落男》
【ヒツグリ】
「‥‥このカメラに“死角”はない。
つまり、カメラはウソをつきません」
【ユカイ】
「ユカイだってウソはつきませんぞ!
ユカイの誠実さは、署内イチ!」
【ヒツグリ】
「でも、“死角”はあります。
あなたは、被害者を見落としている」
【ユカイ】
「ユカイが被害者の“存在”を見落とした!?
そんなハズはないですぞ!!」
【ヒツグリ】
「そうでしょうね。あなたが見落としたのは、
被害者の“不在”なのですから」
【ユカイ】
「えっ!!
被害者が、不在‥‥?」
【ヒツグリ】
「アタリマエですが、ゲンバにいない被害者を
殺すことはできません!!」
【サイバンチョ】
「静粛に! ‥‥被害者がゲンバにいない‥‥
そんなコトはありえません!!」
【ミトウ】
「この世は、脳ミソの“いたずら”にすぎない。
光と影とヒトの夢想が‥‥セカイを形作るのさ」
【ヒツグリ】
「なんですか、そのフワッとした反論は!!」
【ミトウ】
「‥‥今も、そう。“事件当日”のカメラの話から、
キミは‥‥おとぎ話をつむいだだけ‥‥」
【ヒツグリ】
「‥‥ならば、聞かせてもらえますか。
被害者が、現場にいない“ナゾ”について!」
【ミトウ】
「ノンノン。‥‥被害者は、現場に向かったのさ。
事件の“前日”に、ね」
【サイバンチョ】
「あ!! たしかに、事件“前日”のデータなら
カメラには残ってませんな!」
【ミトウ】
「‥‥このカメラは日付をまたぐ時、
今日を忘れて、明日を越える旅人になるのさ」
【ヒツグリ】
「残念ながら、死亡時刻を見てください。
‥‥被害者は《午前4時半》以降に死んでいます」
【ヒツグリ】
「被害者が前日に屋上に来たなら、
殺害まで、4.5時間以上の《空白》がある!」
【サイバンチョ】
「ひょっとして‥‥夜の学校にしのびこんで
一夜を明かすつもりだったのでは‥‥」
【ヒツグリ】
「‥‥1人きりでそんなイタズラをして、
なんのイミがあるんですか」
【ミトウ】
「ちなみに‥‥校内のカメラにも、
被害者のスガタは残っていない」
【ヒツグリ】
「つまり、被害者は4.5時間以上ものあいだ、
夜を《屋上》で過ごしたコトになる!」
【ヒツグリ】
「こんなの、どう考えても
不自然な状況です!!」
【ミトウ】
「‥‥では、弁護士さんはこれをご存知かな?
被告人と、被害者の“決闘”‥‥」
【サイバンチョ】
「はあ、ケンカですか‥‥。たしか、
被害者はアタマにキズがあったのですな」
【ミトウ】
「さて。‥‥アタマにキズを負った少年は、
なぜ夜が明けるまで、“屋上”にいたのだろうか?」
【アワテル】
「‥‥‥‥‥‥あ‥‥‥‥ッ!!
まさか、その時のケンカで‥‥」
【ヒツグリ】
「バカな!! ケンカが起きたのは
殺害時刻の半日ほど前ですよ!!」
【ミトウ】
「‥‥そう。被害者はその間ずっと、
”死んだように”キゼツしてたのさ」
【ヒツグリ】
「‥‥“死んだように”‥‥?」
【ミトウ】
「被害者の生活は不規則だった。“キゼツ”から
“スイミン”に移行すれば、半日も眠る可能性はある‥‥」
【ミトウ】
「さあ、ここで考えてみようか。
‥‥なぜ被告人は、被害者を殺したのか?」
【サイバンチョ】
「‥‥朝早く学校に向かって、屋上で
キゼツしている被害者を‥‥見つけたとなると‥‥」
【ミトウ】
「ノンノン。被告人が見つけたのは、
“死んだように”キゼツしている、被害者だよ‥‥?」
【ヒツグリ】
「‥‥“死んだように”‥‥?
‥‥‥‥あ、ああああ!! まさか‥‥!!!」
【ミトウ】
「被告人は《屋上》に来て、おどろいたハズだ。
‥‥自分が殴った相手が、まだ眠っているのだからね」
【ミトウ】
「“死んだようにキゼツしていた”被害者を、
“死んだ”と、カン違いしてしまったんだ!」
【ヒツグリ】
「それはオカシイ! すでに死んだ“死体”を、
なぜ‥‥もう一度“殺す”必要があったのですか!」
【ミトウ】
「‥‥殺すつもりじゃなかったんだよ。
ただ、死体を“処理”するつもりだったんだ」
【ヒツグリ】
「死体を、処理‥‥?
‥‥あ、あ‥‥‥‥‥‥ッ!!!!!!!」
【ミトウ】
「だって、その“死体”は自分が
ケンカの末に殺しちゃったんだよ?」
【ミトウ】
「‥‥だから、死体を《屋上》から落として、
“処理”しようとしたのさ!!」
🎵水冬のテーマ
【ヒツグリ】
「うわああああああッ!!!」
【サイバンチョ】
「まさにおどろくべき主張です!!
‥‥では、被告人の動機は‥‥!」
【ミトウ】
「‥‥“死んだ”とカン違いして、
生きた被害者を、“処理”してしまっただけ‥‥」
【ヒツグリ】
「しかし!! “死体処理”なら、わざわざ
屋上からの“転落”を選ぶ必要はない!!」
【ミトウ】
「‥‥ほかに有用な“死体処理”のルートが
あったとでも言うのかい?」
【ヒツグリ】
「あったと言うのです!!!
‥‥だって、校内を通ればイイじゃないですか!」
【サイバンチョ】
「あ‥‥!! たしかに‥‥ソッチのほうが、
死体の損傷もなく、安全ですな」
【ミトウ】
「‥‥この誠実なる“観察者”をお忘れかな。
校内には、《カメラ》があったんだ」
【ミトウ】
「もし、死体をかついで校内を降りれば
その映像がカメラに残ってしまう!!」
【ヒツグリ】
「‥‥あ‥‥ッ!!」
【ミトウ】
「そう! 被告人が“死体”を処理するルートは、
《屋上からの転落》しかなかった!!」
【ミトウ】
「被告人の脳内で“死体処理”だったそれは、
現実世界では‥‥“殺人”に他ならなかったのさ!」
【ヒツグリ】
「うわああああああッ!!」
【ミトウ】
「だから、最初に言っただろう?
この世は、“脳ミソ”のいたずらにすぎない‥‥と」
【サイバンチョ】
「‥‥スバラシイ立証でしたな。
弁護側、なにか反論は‥‥?」
【ヒツグリ】
「‥‥その、考え中です‥‥」
【ミトウ】
「ユカイ刑事。いまの主張をまとめてくれ。
‥‥弁護側が、《尋問》しやすいようにね 」
【ユカイ】
「心得ましたぞ、坊っちゃん。
‥‥さあカクゴするのだ、弁護士ども!!」
【ヒツグリ】
(うぐぬぬぬ‥‥スッカリ
勝ちホコられてるな‥‥)
【アワテル】
「マズイっスね。このままだと、
もう《有罪》が決まりますよ」
【ヒツグリ】
(考えろ‥‥!!
逆転のための、“一手”を‥‥!!)
🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
【ユカイ】
「被告人は被害者にメールをおくり、
屋上に呼び出したつもりだった」
【ユカイ】
「しかし、被害者は半日前からずっと屋上に。
キゼツした被害者は、”死んでいる”ように見えた」
【ユカイ】
「ゆえに、生ける被害者を“処理”してしまった。
屋上から転落させ、土に埋めたのです」
【ユカイ】
「事件前日の“ケンカ”が、被害者を半日の眠りに。
事件当日の“処理”が、被害者を永遠の眠りに」
【ユカイ】
「現場にいたのは、屋上で日をまたいだ被害者と
カメラに映った被告人のほか、存在しえない‥‥」
🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
【サイバンチョ】
「被害者を“処理”しようとして、殺した。
何度聞いても、おどろきの主張です!」
【ミトウ】
「ザンネンながら、何度も聞くキカイはない。
これがサイゴです」
【アワテル】
「“目撃証人が出るまでもない”。
‥‥そういうコトでしょうね」
【ヒツグリ】
「うう‥‥どうにかして、
水冬検事の主張をくずさないと‥‥」
【サイバンチョ】
「‥‥これなら迷う余地はありませんな。
弁護人。判決の前にヒトツお願いします」
【ヒツグリ】
「な、なんですか!!
ヒトの弟を、もう犯罪者だと決めつけて!!」
【ミトウ】
「どんな生き物にも罪はある。
‥‥それでいいじゃないか、弁護士さん」
【ヒツグリ】
(よくない!!)
「とにかく! 《尋問》に移らせてもらいます!」
【アワテル】
「イキナリですけど、ここを切り抜けないと
即《有罪》っスからね‥‥」
🔴🔴🔴🔴🔴
【ユカイ】          【●◯◯◯◯】
「被告人は被害者にメールをおくり、
屋上に呼び出したつもりだった」
【ヒツグリ】
「‥‥なんのために、被害者を
呼び出したのでしょうか?」
【ユカイ】
「もちろん、“ケンカ”の続きでしょうな。
早朝の屋上なら、ダレのジャマも入りません」
【アワテル】
「まあ‥‥屋上への呼び出しといえば、
“ケンカ”か“告白”でしょうからね」
【サイバンチョ】
「思い出しますな、彼女とはじめて会った日。
屋上でダレのジャマも入らず、ユビワを渡しました」
【ヒツグリ】
(イロイロと順序をすっ飛ばしすぎでは‥‥?)
【サイバンチョ】
「彼女にユビワをはめた手でなぐられて、
3時間の死闘の末に‥‥カタい友情でむすばれました」
【ヒツグリ】
(フられたのか‥‥。カワイソウに‥‥)
【アワテル】
「しかもユビワだけ取られてますね‥‥」
【アワテル】
「ユーリくんも、呼び出しは受けている。
カタチにのこらない、“デンワ”というカタチで」
【ヒツグリ】
(‥‥つまり、証拠としてはつかえない‥‥。
ユーリも呼び出しを受けたことは、主張できない‥‥)

【ユカイ】
「‥‥とにかく被告人は、ケンカの“第二幕”をキタイし
早朝の屋上に足をふみいれたのです‥‥」
【ユカイ】          【◯●◯◯◯】
「しかし、被害者は半日前からずっと屋上に。
キゼツした被害者は、”死んでいる”ように見えた」
【ヒツグリ】
「半日前から屋上でキゼツしていたなら。
解剖で、それらしい情報は出ないんですか?」
【ユカイ】
「胃の中の食べ物の状態からみて、
半日は食事をとってないと言ってましたな」
【ミトウ】
「それから、アタマのキズも深かった。
キゼツしても、おかしくないほどに‥‥」
【ヒツグリ】
(うぐ‥‥。ユーリの心証にも
深いキズが負わされてしまった‥‥)
【アワテル】
「この事件をいくら“解剖”しても、
“傷害”のツミは消えませんからね‥‥」
【ユカイ】
「ええ。被害者が生きていることは、
解剖でもしなければ‥‥気づけなかったのです」
【ユカイ】          【◯◯●◯◯】
「ゆえに、生ける被害者を“処理”してしまった。
屋上から転落させ、土に埋めたのです」
【ヒツグリ】
「‥‥屋上のサクは高かったですけど。
キゼツしていたから、投げ下ろせた‥‥?」
【ユカイ】
「被害者が抵抗しないなら、あとは
タンジュンに“重さ”のモンダイですからな」
【ミトウ】
「キミもムダな抵抗はやめることだ。
被告人のツミが重くなる前に‥‥ね」
【ヒツグリ】
(‥‥身長は高くとも、体重は軽かった。
投げ下ろすのはムズカシくない‥‥と)
【ユカイ】
「その“投げ下ろし”が“死”につながった。
つまり、ヒトコトで言うならば‥‥」
【ユカイ】          【◯◯◯●◯】
「事件前日の“ケンカ”が、被害者を半日の眠りに。
事件当日の“処理”が、被害者を永遠の眠りに」
【ヒツグリ】
「正直、半日もキゼツするほど
つよくなぐったのも、フツウに犯罪な気がします」
【サイバンチョ】
「ヤンチャもほどほどにしないと。
青春がまっ赤にそまってからでは、遅いのですよ」
【ヒツグリ】
「じゃあ逆に、裁判長は
ツミをおかしたことはないのですか?」
【サイバンチョ】
「わ、ワタシはありませんぞッ!!
ヒトのカネで“カケゴト”をしたことなど!!」
【ユカイ】
「ユカイだってありませんぞ!!
くじ引きをチョロまかしたコトなど!」
【ヒツグリ】
「言わんこっちゃない!! 法律なんて、
ダレだってチョロまかしてるのです!!」
【ヒツグリ】
(よしよし、今のは
サイコーの“エンゴ射撃”だったな‥‥)
【アワテル】
「弁護士としてはサイテーの発言ですけどね‥‥」
【ユカイ】
「でも、殺人のほうは重さがちがいますぞ。
‥‥そして、そのハンニンはひとりしかいない‥‥」
【ユカイ】          【◯◯◯◯●】
「現場に行けたのは、屋上で日をまたいだ被害者と
カメラに映った被告人のほか、いないのです」
【ヒツグリ】
「でも、わたしたちはゲンバに行きました。
これはアキラカにムジュンしている!」
【ユカイ】
「ケーサツが現場にふみこんでからの映像は、
そりゃカウントしてませんよ‥‥」
【ヒツグリ】
「たとえば、捜査中にコソコソと
逃げ出したハンニンがいたとか!!」
【ユカイ】
「いません」
【ミトウ】
「いるわけないだろう」
【サイバンチョ】
「いたら、証拠品として提出されるハズでしょう」
【ヒツグリ】
「うぐ!」(‥‥ケーサツの捜査にも、
最新の“セキュリティ”が導入されてしまったか‥‥)
🔴🔴🔴🔴🔴
【アワテル】
「“被害者は屋上で日をまたいだ”。
これが検事の主張の、新しいブブンです」
【アワテル】
「そこに目玉を向けましょうか。そうすれば
この裁判も、“屋上”で日をまたげるハズです」
【ヒツグリ】
(まずはムザイよりも、
《有罪判決》から逃げるのが先か‥‥)
🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
【ヒツグリ】
「‥‥ユカイ刑事。たしか‥‥
”この世は押しては寄せる波のよう”でしたね?」
【ユカイ】
「それ、坊っちゃんがいつも言ってますケド
ちっともイミが分からないのです‥‥」
【ヒツグリ】
「では、身をもって分からせてあげますよ。
‥‥今から、わたしが“押す”番です」
【ミトウ】
「波は嵐のように踊り、泡のように溶ける。
‥‥溶ける前に、その“論理”を聞いておこうか」
【ヒツグリ】
「カンタンな話ですよ。
‥‥現場には、《第三者》がいたかも知れません!」
【ユカイ】
「いやいやいや!! それはない!
だって、現場には監視カメラが‥‥」
【ヒツグリ】
「その監視カメラの《盲点》を、
ほかならぬ被害者が立証しましたよね?」
【ヒツグリ】
「屋上で日付をまたげば、
カメラに自分の姿は残らないと!」
【サイバンチョ】
「まさか!! 被害者とおなじ方法で
現場に入った《第三者》がいるというのですか!」
【ユカイ】
「いやいやいや!! どんな理由があって
そんなメンドウな“潜入”をしたのですか!」
【ヒツグリ】
「カメラに姿を残さず、被害者を殺せます!
‥‥そして、そのツミをユーリに着せられる!」
【ユカイ】
「いや‥‥証拠だ!!
ショーコはあるのですかな、ショーコは!!」
【ヒツグリ】
「逆に聞きますが‥‥《第三者》が
“いなかった”という証拠は、あるんですか?」
【ユカイ】
「え! ‥‥あいや、その‥‥」
【ヒツグリ】
「《第三者》の存在をヒテイできない限り、
ユーリに《有罪判決》は下せません!」
【サイバンチョ】
「静粛に! ‥‥ヘリクツじみていますが、
たしかにその通りです!」
【サイバンチョ】
「《第三者》がいる可能性が消えないなら、
被告人の罪を追求することは、できません!」
【ヒツグリ】
(お、おお‥‥。ひょっとしてわたし、
天才だったりするのでは‥‥?)
【アワテル】
「‥‥ひつぐりさん。向こうの“天才”を
見てください」
【ヒツグリ】
「‥‥遊んでるね。水冬検事」
【アワテル】
「‥‥遊んでるんですよ、水冬検事」
【ミトウ】
「‥‥ボクには、キミたちのほうが
遊んでいるように見えるけどね」
【ヒツグリ】
「!!」
【ミトウ】
「たしかに、《第三者》はカメラに映像を残さず
現場に行けたかもしれない」
【ミトウ】
「でも‥‥。どうやってカメラに映らず
現場から“帰る”コトができるんだい?」
【ヒツグリ】
「‥‥‥‥“帰り”‥‥あ、あ‥‥‥‥ッ!!」
🎵水冬のテーマ
【アワテル】
「日付が変わる前に帰れば、《第三者》は
カメラに映っても、データは消えるハズだ!」
【ミトウ】
「《解剖記録》を読むことだ。
‥‥殺害時刻は、《朝4時半以降》‥‥」
【アワテル】
「!!」
【ミトウ】
「つまり、被害者を殺した《真犯人》なら、
かならず、帰るときにカメラに映像が残るんだ!」
【ヒツグリ】
「で、でも!! カメラに映らないルートで
帰ったのかもしれません!!」
【ミトウ】
「もしかして、《真犯人》は
屋上から飛び降りたとでも、言うつもりかな?」
【ヒツグリ】
「う‥‥!!」
【ミトウ】
「もしそうなら、校庭で
その《第三者》の遺体が見つかってるハズだ!」
【ヒツグリ】
「カメラに映らないルートは、他にもあります!
‥‥《転落》がダメなら、《空》に逃げたのです!」
【ミトウ】
「もしヘリコプターが離着陸したなら、
近所の住民から、証言が得られるはずだ」
【ヒツグリ】
「‥‥なら、いっそ《真犯人》が
被害者自身だったとすれば!!」
【サイバンチョ】
「な、なんと! 被害者は《自殺》だったと
主張するのですか!!」
【ミトウ】
「‥‥残念ながら、《屋上》の手すりから
“指紋”なんか検出されなかったよ」
【ヒツグリ】
「指紋なんて、ダレにだって
拭きとれます!!」
【ミトウ】
「‥‥ゆいいつ現場に残った被告人が、わざわざ
指紋をふきとり、すすんで容疑者になったと?」
【ヒツグリ】
「‥‥う、うぐ‥‥‥‥!!」
(ダメだ‥‥さっきから歯が立たない!!)
【ミトウ】
「ちなみに、被害者は手袋はしてなかったよ。
‥‥そろそろ満足かい、弁護士さん」
【サイバンチョ】
「‥‥少なくとも、本法廷としては満足です。
あらゆる可能性がヒテイされたのですから」
【ヒツグリ】
(反論をしても、すべてツブされる‥‥。
どうすればいいんだ!!)
【サイバンチョ】
「もうギロンの余地はないでしょう。
カメラに残らず、屋上に行く方法はあった」
【サイバンチョ】
「しかし、屋上から飛び降りないかぎり、
カメラに残らずに“帰る”方法はなかった‥‥」
【ミトウ】
「カメラに残らない“道”は、
被害者にだけ許された、死への片道切符なのさ」
【サイバンチョ】
「この法廷も、《片道切符》です。
弁護側に異議がなければ、《判決》を‥‥」
【ヒツグリ】
「ええと、その!!
弁護側には、まだ検討すべき証拠が‥‥」
【サイバンチョ】
「‥‥あるようにはとても見えません。
あるなら、はやく提出しなさい」
【ヒツグリ】
「そ、それはその‥‥!!
ちょっと、あつかいのムズカシイ証拠で‥‥」
【アワテル】
「‥‥‥‥‥‥。‥‥やむを得ませんね」
【ヒツグリ】
(‥‥てるくん‥‥?)
【サイバンチョ】
「それでは、被告人・火継利 優里に
判決を言いわたします」
【アワテル】
「裁判長! 
まだ、ギロンすべきものは残っている!」
【サイバンチョ】
「‥‥《ヘリコプター説》まで検討したいま、
何が残っていると言うのですか‥‥」
【アワテル】
「モチロン、《目撃証言》です!!
検察側は、まだすべての情報を開示していない!」
【ミトウ】
「‥‥べつに《目撃証言》がなくとも、
現時点で“有罪判決”は求められるハズさ」
【アワテル】
「おや。 “ケッペキ症”のあなたが
証拠をかくしたまま、逃げるおつもりですか?」
【ミトウ】
「‥‥隠したんじゃない。必要ないだけさ」
【アワテル】
「さすがは天才検事。
証拠のインメツだけでなく、言葉遊びもお上手だ」
【ミトウ】
「‥‥証拠の‥‥インメツ‥‥?」
【サイバンチョ】
「言葉をつつしみなさい、弁護人!!
検察側の立証に、不足はありません!」
【ミトウ】
「‥‥‥‥侮るなよ、坊や。
このボクが‥‥目撃証言を“かくした”‥‥?」
【ヒツグリ】
「‥‥ダメだよてるくん!!
“坊や”って呼ばれてるよ、“坊や”!!」
【アワテル】
「‥‥見ててくださいな。
本当に“坊や”なのは、どっちなのかを‥‥」
【ヒツグリ】
「‥‥‥‥‥‥?」
【サイバンチョ】
「とにかく、これ以上の審理は不要と考えます!」
被告人・火継利 優里に、《判決》を‥‥」
【ミトウ】
「‥‥裁判長。検察側は
弁護人の挑戦を受け入れることにした」
【サイバンチョ】
「‥‥‥‥‥‥‥‥。え‥‥?」
【ミトウ】
「これより10分後。弁護側の
愛してやまない“目撃者”をお連れしよう」
【サイバンチョ】
「ななななな、なぜですか!!
いったい、なぜ!!」
【ミトウ】
「‥‥殺人事件の審理は、極刑もありうる。
この地に立つものは、ある“カクゴ”が必要だ」
【サイバンチョ】
「‥‥“カクゴ”とは‥‥?」
【ミトウ】
「時に、ヒトを殺すカクゴだ。
そこにケチをつけられた以上、戦う他あるまい」
【ミトウ】
「検察側は、弁護側をホネのズイの一滴まで
しぼりつくし、叩きツブす!」
【サイバンチョ】
「なんだか、よくわかりませんが‥‥。
検察側もそう言うのなら、いいでしょう」
【ヒツグリ】
「!!」(‥‥助かった‥‥のか‥‥?)
【サイバンチョ】
「それでは、検察側は目撃者を呼ぶように。
これより、本法廷は10分の休憩にはいります」
【ミトウ】
「火継利 三里‥‥」
【ヒツグリ】
「!!」
【ミトウ】
「逃げきれると思わないコトだ。
‥‥この法廷からも、真実からも‥‥」
【ヒツグリ】
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
【ヒツグリ】
(なにひとつ反論できずに、
法廷は‥‥休憩へと入ってしまった)
【ヒツグリ】
(わたしなんかに、“天才”のかけた
“魔術”を‥‥打ち破れるのか‥‥?)

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