自己啓発本の読みこなし方
自己啓発本はエナドリだ
最近発売された本で面白かったものに、『なぜ働くと本を読まなくなるのか』というものがあります。たしかに、読書量は圧倒的に減ってるな…と納得しながら読んでいたのですが、自己啓発本は労働を煽る道具だとして批判的に描かれていることについては、少しだけ、むむ?と思いました。
というのも、自己啓発本というのは”本”だったり”文化”とはまた違ったジャンルにあるのか?と思ったからです。タイトルからも分かるように、ここで我々が読まなくなっている「本」の中に、自己啓発本は含まれていないようです。
たしかに、他の本たちと比べると、自己啓発本はその効用が分かりやすく、もっと実用的なように思います。自己啓発本を読んだ後は、なんだか自分もできるやつのような気がしてくる…と考えると、自己啓発本は労働のためのエナドリのような役割を果たしていると言える気がします。
とはいえ、エナドリは(健康に悪いのかなと薄っすら思いつつも、)必要な時のガソリンとして飲んじゃいますよね。同じように、自己啓発本にも、頼り切りになってはいけない面と、とはいえ便利なので有効活用するべき側面があるのではないかなと思います。
大事なのは、自己啓発との適切な付き合い方なんじゃないかな、と。
そこで、自己啓発とどう付き合うべきか?をテーマに書いてみました。
自己啓発は役に立たない?
まず、私たちはどんなタイミングで自己啓発本を読むのでしょうか。
などと、困ったことがあったら、その問題について自己啓発本を読む…
というのがよくあるパターンなんじゃないかなと思ってます。
でも、あなたが抱えている問題っていうのは、実は本を読んで実行すれば解決するというものでもないんじゃないかな、と僕は思います。
というのも、一般的に言って、ある現象は世の中の様々な理由がからみあって起きているからです。
例えば、「給料があがらない」といった場合。ここには、
・そもそも日本経済が縮小している
・あなたの職種が飽和状態で給料を上げにくい
・上司へのアピールが足りてない
などなど、たくさんの理由があると考えられます。
もちろん、あなたのパフォーマンスが悪いということもあるでしょうが、多数ある理由のなかの1つでしかないですし、それが本当にクリティカルな理由であるかは疑問の余地があります。
世の中はそこまでシンプルじゃない。からこそ、「自分が変われば成果が出る」というのは単純化でしかないのではないでしょうか。
自責って本当にいいもの?
ところが、多くの場合では第一に自分を変えようとすることが多い気がします。困ったことがあれば”自己”啓発本を読もうとするのもこういう態度で、ビジネス用語だと「自責」などといったりします。なにか課題や問題があったときに、「自分が悪かった」と考えるやり方です。
自責がダメなのか?というとそうではありません。むしろとても大事といえるでしょう。ただそれは、自責が問題を解決するのに効果的だから…というと不正確です。
ではなにかというと、現状を変えるためにもっとも動かしやすい変数が「自分」しかないからこそ自責が便利なのではないかな、と思います。
正しく書き直すとすれば、「自分が変わったら問題が解決する…かは分からないけど、それでも自分を変えて、なんとかやっていくしかない」といった方がいいのではないでしょうか。
自責でも他責でもなく
とはいえ、自分を変えようとして行きづまるケースもあるように思います。
悩みごとが個人的なトラウマにつよく結びついていたり、身体的な制約があったり。色々手を尽くしてるんだけど効果がない、ということもあり得るでしょう。そんな時、自己啓発は無力です。
じゃあどうするか?を考えたいのですが、その前に、単に社会のせいにするだけでは何も解決しないよね、というのは気を付けておきたいです。これはビジネスの文脈では「他責」とか言ったりします。
自責しても行きづまってしまい、他責は何も解決しない。すると、自責でも他責でもない、第三の「責」の在り方を考える必要があるんじゃないかなと思います。
例えば、以下のエピソードを考えてみましょう。
「他責」の考えからすれば、これは電車の事故、下手なタクシー運転手、渋滞が悪い…となるでしょう。「僕は悪くない」ってことは伝わりますが、遅刻するということは改善されません。
「自責」の考えからすれば、こういったリスクを考えずに行動した自分が悪い、となります。だからこそ、15分前ではなく30分前に着くようにすればよいとあなたは考えます。これは手っ取り早い解決のように思われます。
一方で、第3の「責」では、自分の問題はみんなの問題、かつみんなの問題は自分の問題、と考えるんじゃないかな、と思います。
どういうことか。このケースをまっとうに考えれば、遅刻したのは交通システムが原因でしょう。しかし、「交通システムが悪い」で満足してしまうのではなく、「自分が交通システムを改善してやる」と考えるのがこの「責」の態度です。
いちど他責したうえで、その問題を自責して引き受ける、と言ってもいいかもしれません。こういった「責」のあり方を、ここでは「共同責」と呼んでおきましょう。
例えばこんなケースが「共同責」になるのかなと思います。
社内の手続きのため無駄な時間がかかるのがストレスなので、自分で関数を組み作業を自動化した
給料が足りないと思っていたが、調べてみると業界水準に比べても我が社の給与水準が低いことに気づき、労組を立ちあげた
ダイエットしても痩せられないという人が、太ってるからこその美しさを追求するため、ボディ・ポジティブ運動に参加した
ここで気づいたかもしれませんが、共同責するのってけっこう大変です。自責した方が格段に楽です。単なる自責ではどうしようもないなって思った時に初めて共同責が必要になるって温度感がいいのかな、とも思います。
ただ、社会がまったく動かないというわけではありません。例えば、「女性は家のことに集中し、夫に尽くすべき」という時代で全員が自責だけをしていたら、現代のようなジェンダー平等の運動は生まれてこなかったでしょう。自分の抱える不満に対して、「社会こそが間違っている!」と主張する人々がいたからこそ、今の私たちにはより暮らしやすい社会ができているのだと思います。
自分を責めるんじゃなくて、仕組みを変えるアプローチが存在すること、そのアプローチは自分でも可能なのだと知っておくことが大事なのではないでしょうか。
実践編:実践に困ったら自己啓発本を
じゃあ具体的にどうやるの?ということで、「共同責」のために重要だろうステップを以下のように3つに分けてみました。
自分がなにに困っているのか、整理する
困りごとをいろんな視点から捉え直す
問題に自分なりに取り組んでいく
そして、各ステップを上手く進めていくために、ここでやっと自己啓発本の出番となります。役に立たない?などと言ってきましたが、著者の知見や体験が詰め込まれているだけあって、自己啓発本はかなり便利だと思っています。行動のためのヒントも、勇気も得られるように思います。頼りきりにしてしまうと危ういけど、必要に応じて使いこなしていきたい。
ここからは、1~3の各ステップを簡単に説明していこうと思います。併せて、「参考にするなら例えばこんな本」を軽く紹介するので、参考にしてみてください。
1.自分がなにに困っているか、整理するための本
これまでも見てきたように、「共同責」ってすごい大変な考え方だからこそ、自分が本当に困っていることじゃないと難しいのかな、と感じます。
しかし、まじめな人ほど、抱えているもやもやが上手く言語化できなかったりするんじゃないかなと思います。そんな時に、考えを整理したり、自分のモチベーションはなにか考えたりするのが一つの取っ掛かりになるかもしれないです。
…正直なところ、本を読むよりも、色んな経験を経たり、人と話したり、書いたりしていく中で少しずつ見えてくるものなのかなーという気はします。100%の確信がなくとも取り合えず次のステップに進むのもありだと思います。とはいえ、本を参考にするとしたら、例えばこんなのがいいんじゃないでしょうか。
『世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方』八木仁平
『イノベーションオブライフ』クレイトン・クリステンセン
『アイデンティティのつくり方』森山博暢/各務太郎
2.困りごとをいろんな視点から捉え直すための本(=脱自責)
困ってることが分かったところで、じゃあどうすればいいのか?というとあまり明らかではありませんよね。個人的な意見ですが、まじめな人ほど自責的に考えてしまうため、「自分が改善しないといけない」以外の原因を考えだすのが苦手なように思います。
このステップでは、困りごとを、客観的にいろんな視点から捉え直すことが重要になります。たしかに、困りごとの原因の一端は自分にあるかもしれません。しかし、それ以外にも、仕組み的・社会的なものなど、様々な要因が絡み合っているはずですし、それらに目を向けることが重要になってきます。
このステップのためには、関連する論文や研究を参考にするのも効果的かと思います。自己啓発本というよりビジネス本に近いですが、参考になるかもしれない本としては以下を挙げておきます。
『イシューからはじめよ』安宅和人
『解像度を上げる』馬田隆明
『ハック思考』須藤憲司
3.問題に自分なりに取り組んでみる(=脱他責)
さて、私たちは「自責」から抜け出て、社会のどういうところに問題点があるか明らかにできたとしましょう。
しかし、社会の問題にしてしまうとどうも話が大きすぎて、自分にはどうしようもないなと思ってしまう気がします。そこで、問題点を上手く言語化したり、仲間を巻き込んだりして、実際に行動するところまで進まないといけないでしょう。
そんな時にこそ、自己啓発本の活躍チャンスでしょう。アウトプット術、コミュニケーション術、時間管理術…など挙げればキリがないほどです。実行する中で、必要に応じて参考にするのがよいでしょう。
あくまで私見ですが、いくつか良さそうな本を置いておきます。
『考える技術・書く技術』バーバラ・ミント
『人を動かす』デール・カーネギー
『推される技術』bamboo
まとめ:自己啓発との付き合い方
これまで、自己啓発本に安易に頼らず、うまく読みこなすための方法を自分なりに考えてきました。自己啓発本の使い方を3つのステップに分け、それぞれ例となる本も紹介してきたつもりです。
簡単にまとめると、以下のようになるでしょう。
▶ダメなパターン:
何か問題や困りごとがあったときに、安易に「自分が変わればいい」と自己啓発本に飛びつき、元気を得ている。
▶よいパターン:
困りごとの原因を客観的に理解した(=脱自責)上で、仕組みを自分なりに改善しようとしている(=脱他責)。そして、そのためのツールとして適切に自己啓発本を参照している。
ただし、いい本というのは読む人やその状況によっても大きく変わるものです。本文でもいくつか紹介しましたが、あくまで僕なりのオススメですので、自分にあった本をその時々で参考にするようにしてください。
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