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「まいまいつぶろ」評

 17日は第170回直木賞の発表です。
ノミネート作品のひとつ、村木嵐さんの
「まいまいつぶろ」を今年最初の1冊として読みました。

 あの司馬遼太郎の家事手伝い、そしてみどり夫人の秘書というすごい肩書きで知られる村木さん。

 これまで「天下取」「にべ屋往来記」「せきれいの詩」「阿茶」を読んできましたが、間違いなく本作品がナンバーワンです。

 既に日本歴史時代小説作家協会賞作品賞や、本屋が選ぶ時代小説大賞も受賞しています。

 享保の改革で知られる8代将軍、徳川吉宗の息子の家重は、脳性麻痺による半身不随で言葉うまく話せず、「まいまいつぶろ(カタツムリ)」と家来たちからも揶揄されていた。

 9代将軍を巡っては、異母弟の宗武が有力視されていたが、最終的に家重が就く。その決め手となったのが、家重の口(通訳)となった大岡忠光の存在でした。あの「大岡越前」で知られる大岡忠相の親戚筋にあたる人物ですが、決して良家の出身ではありません。

 彼がその「通訳能力」を買われて抜てきされるのですが、嫉妬からの誹謗中傷などに遭いながらも、家重の「目や耳」にはならず、「口」に徹することで信頼を勝ち取る。

 そのストイックな主従関係で結ばれた2人の奇特な生き様をうまく描いています。

 思わず、先日、ドジャースへの移籍が決まった大リーガーの大谷翔平さんと通訳を長年務める水原一平さんの関係を思い起こしました。

 この2人は主従関係ではありませんが、大谷さんがアメリカで活躍しているのは、「縁の下の力持ち」である水原さんの存在が大きいと側聞したことがあります。

 やはり「言葉の持つ力」は大きいですね。

 作品では、清濁併せ持つ老中として名を馳せた、田沼意次も登場。これまた2人に並んでいい味を出しています。

 正月から能登半島地震や、羽田空港の飛行機衝突事故などが相次ぎ、暗い気持ちだったので、この本を読んで、心が洗われました。

 障害があっても将軍の大役を務めた家重の物語は、ハンディキャップを持つ多くの人達に希望を与える物語でもあります。直木賞を受賞することを心から祈っています。

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