Stormworks: Build and Rescue - Version 1.0 @ 2020-09-21

【可】サンドボックス乗り物作るシミュレーターとしては唯一無二に近い存在であり、完成度も高く、あのFrom the Depthを余裕で凌ぐぐらい詳細に何でも作ることができる究極の存在である。しかしながらゲームとして本作を見た場合、残念ながらゴミ以下のクソであると言わざるを得ない。以前紹介したチェルノブイリ原発シミュレーターと同じぐらい初心者に優しくない。一部の本当に乗り物が大好きな人々以外には全くおすすめできないが、もし貴方がそのような嗜好の持ち主であれば、本作を超えるゲームは他に無い。

長所
・本作より細かく乗り物を設計開発することができるゲームはおそらく天の川銀河系全体を見渡しても存在しない。乗り物の設計開発という観点においてはあのSpace EngineersやFrom the Depthさえも余裕で凌ぐ自由度がある。特に本作が優れているのはMODやLUAスクリプトの力を使わなくても自由度が極めて高い乗り物を設計開発実装できる点だ。論理回路システムがとにかくよく出来ている。
・小道具がよく作り込まれており、船内に設置した救急箱や消化器を持ち出して炎上する船に乗り込んで消火活動を行ったり、ロープを掴んでドックに係留してみたり、隣の船にウィンチをつないで牽引してみたり、ホースから水を撒いてみたり、給油のためにノズルにホースを掴んで給油口に差し込んでみたり、倒れている患者を掴んで船内のベッドに安置してみたり、などなど、一人称視点のプレイヤーが様々なアクションを行うことが出来、それによって乗り物を「使う」楽しみが格段に引き上げられている。
・マルチプレイヤーに対応しており、みんなで一つの乗り物に乗り込んで救難活動を行う楽しさは格別。

短所
・正直、ゲームとして評価することが不可能な次元で不親切。これがバージョン1.0の名前を冠してストアに並んでいることそのものが間違っている。
・まずチュートリアルがチュートリアルとして成立していない。突然よくわからない部屋で目覚めたあと、何の前触れも前置きもなしにあっちに行け、こっちに行け、船に乗れ、説明になっていない説明を元に船を操縦しろ、操縦したらあっちに行け、人を助けろ、消化器を使え、病院まで誘導しろ(どうやって人を自分についてこさせるかは一切説明無し)、誘導が終わったらチュートリアル終了お疲れ様ここからは自由にやってくれ、と投げ出して終わり、何だこれは。ふざけてるのか。
・本作で乗り物をゼロから組み立てることができる人類など存在しないのではないかと言う程度には狂っている難易度。試しにエンジンを例に挙げてみよう、ほとんどのこの手の乗り物作るゲームはエンジンを置いて、あとはせいぜい入力出力信号をつないだり、せいぜい燃料パイプを引いたりなどすれば、あとは何もしなくてもエンジンが動作するだろう。しかし本作のエンジンは燃料・冷却水・吸気・排気を別々に配管した上で、冷却水を循環させ、燃料をタンクにつなぎ、出力をプロペラにつなぐ・・・前にクラッチを繋ぎ(実際のレシプロエンジンよろしくクラッチを切れないと始動すらしない)さらに減速ギアボックスにつなぎ(減速しないとまともに前進する速度でプロペラが回らない)それからようやくプロペラに動力をつなぎ、次はバッテリーを置いてバッテリーの電力をクラッチにもギアボックスにもエンジン本体にもつなぎ、それからスイッチを置いてエンジンのイグニッションスターターとつなぎ、スロットルレバーを置いてエンジンのスロットルとつなぎ、クラッチをオン・オフするためにとりあえず一番簡単なスロットルレバーを置いてクラッチの締結度とつなぎ、もちろん新しく置いた操縦装置にも全て電線をつなぎ、それでようやく最低限のエンジンスタート準備が完了、まずクラッチを外してからエンジンスタートボタンを押してセルモーターを回して起動、このときスロットルを少し開いておかないとアイドリングすら出来ない、アイドリングが安定したらセルモーターを止めてクラッチを締結・・・する前にある程度スロットルを調整しないと締結した途端にエンスト・・・とかもうキリがない。これだけやってもかろうじて前に前進する可能性があるイカダが出来上がるだけである。99%の人類はここで投げ出す。最初に私は申し上げたが本作はシミュレーターなのである。
・そもそも船を前進させる度にクラッチレバーを引いたりスロットルを引いたりして回転数とトルクをコントロールするとか非現実的であるので、本作には論理回路やPID制御、およびそれらの論理回路を一つにまとめて運用するための集積回路ブロックが用意されており、それらに制御を任せることができる。エンジンのトルクセンサーに回転数センサー、冷却水の温度に水量フロー、現在の対気速度に角速度計やGPS、レーザー測距系に光学カメラなどなど充実した各種センサー、それらと操縦装置と組み合わせることで、熟練した設計者が使えば文字通り完全自動操縦のGPS座標誘導装置やレーダー誘導ICBMさえも実装可能なほど何でもできるのだが、繰り返す、99%の人類はこんなもの複雑すぎてやってられない。
・これらの問題点はリリース直前に以前存在した「シンプルモード」とキャンペーンシステムがなくなってしまったことによって引き起こされている。以前はシンプルモードと言ってこんな複雑怪奇極まりないシステムに付き合わなくてもエンジンを置いて燃料配管を置いてプロペラまで動力をつなげるだけで簡単に動作する乗り物を作ることが出来たのだが、あろうことかそのシンプルモードがなくなり、しかも乗り物組み立てのチュートリアルが一切存在しないため、本作に初めて触れる人間が自力で何か乗り物を組み立てるのがほぼ不可能になってしまったのだ。それにより「ちょっと乗り物に乗って人助けするレスキューゲームでも遊ぶか」ぐらいのつもりで本作を買ってしまった人は、Steam Workshopに用意されている現人神たちが作り上げた乗り物をそのまま借りてきて使うぐらいしかやることがなくなってしまう。
・そしてその「ちょっと乗り物に乗って人助けするレスキューゲーム」としての部分も、単にしばらく待っていたらランダムに飛んでくる救難信号に従ってああしろこうしろで終わりである。ゲーム性のかけらもないし、序盤から異常に難しいミッションが勝手に生成されることもザラである。本当にゲームとして何も成立していない。ただのランダム要素のあるサンドボックスである。
・個人的に本作の最大のウリは乗り物の設計を作成だと思うのだが、エディタがあまりにも不親切・・・よく出来ているのは間違いないのだが、少数の致命的すぎる問題点が全体のユーザー体験をすべて台無しにしている。例えば既存の配置済みブロックを選択して移動したり回転させたりする機能が一切ないため一度設置したブロックを動かすには消して置き直すしか無い(その度に電線もデータ配線も全部やり直し)とかいう狂気の沙汰としか思えない仕様が採用されていたりする。一応かなりざっくりした範囲を選択してコピペしたり動かす機能はあるのだがコレはパーツ単位で物を動かすためではなく例えば艦船の艦橋をまるごと移動させるとか航空機の両翼をまるごとちぎって動かすとか取り替えるとかそういう単位での移動に使うためのツールであり、エンジンの配管を間違えたので1パーツだけ動かしましょうなんて事になったら自殺したくなるぐらいにムカつく思いをしながらパーツを消して入れ直すことになる。配管といえば流体配管と動力パイプが非常に重要になるのだが、本作のエディタにはなぜかこれらの配管をハイライトして表示する機能すら無く、あとから船体に据え付けたエンジンを移動しようと思ったら船体のブロックをすべて引っ剥がしてアクセスする必要がある。こんなエディタで精密な乗り物を設計している人間が世の中に多数いるのだが、彼らの忍耐力は一体どうなっているのだろうか。両手両足をのこぎりで切り落とされても涼しい顔で眠っていられるような鈍感人間でもなければとてもではないが使っていられない。

愛される乗り物設計シミュレータに必要な要素をすべて持ち合わせているにもかかわらず、ゲームとしてあまりにも出来が悪すぎてすべてが台無しにされている、非常に両極端で惜しいゲームだ。問題点が解消されれば稀代の名作に化けるぐらいのポテンシャルがあるのだが・・・とにかく人を選ぶので購入する際には本当に慎重に考えてほしい。


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論より証拠、百聞は一見にしかず。こちらがチュートリアルが始まると渡される最初の船である。なかなかいい見た目の船で機能性も良いのであるが、信じてほしい、モニタの前の99%の貴方がたには一生かかってもこの船を凌ぐ船を作ることができない。賭けてもいい。当然、私にも出来ない。

他の乗り物作る系サンドボックスゲームの経験をお持ちの皆様であれば、バカにするな、このぐらい200g980円の美味いステーキを出すのと同じぐらい簡単に出来らぁっ!と思われる方もいらっしゃるであろう。

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ではどうぞ、こちらがデータ配線だ。赤の線と緑の線は全てつながっているし、一本でも間違えたら正しく動作しない可能性がある。繰り返すがコレはチュートリアルで貰える最初の船であり、要するに最低限の機能程度しか持たないシンプルな船であると思っていただければ結構である。

何?まだまだこの程度、大したこと無い?面白い。であれば・・・

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これが電気配線で、おっと、この中に2箇所ほどブレーカーが存在していて、接続向きが間違っているとシステムが動作しないが、そのぐらいは当然間違いなく簡単に接続していただけるであろうし、

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この紫の複合信号線をこれまた正しく集積回路につないで、

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集積回路エディタの中で6信号からなる複合信号線を単線に戻してから各種論理回路の制御に通して結果を計器盤に表示したりエンジンのスロットルに反映させたりするのも当然簡単にこなしていただけるに違いないな。

なお繰り返すが、これが、最初に貰える、チュートリアルの船である。公式のデモ動画で紹介されている消火活動をしている飛行機だの、ヘリだの、Steamワークショップで公開されている異常によく出来た乗り物の数々がこんな程度では済まないというのは容易に想像してもらえるかと思う。

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そして極めつけに、エンジンの配管を1本間違えたので配管を調べるべく透視モードに切り替えても配管も動力パイプも一切映らないのである。類似作のFrom the Depthにおいても当然のように存在する機能なのだが、本作には存在しない。一つ一つパーツを手作業で消して調べるか、または実際の船舶のように人がメンテ出来るような隙間を開けておいてそこにカメラを通してメンテするぐらいしか方法が思いつかない。

これでバージョン1.0を名乗るのは流石にどうかと思う。シミュレーターとしては1.0かもしれないが、ゲームとしてはα版なのではないかと思ってしまうほどだ。