[short storys]即興創作枠1・2

即興創作枠1・2について

2014年1/3,1/26ニコニコ生放送「即興創作枠(曲をかけ、音楽がかかっている間に聞こえている刺激をきっかけにその場で話を作る+曲が終わるまでに完成させる)」で書いた小品になります。(曲はあくまで、きっかけとして使用したものであるため、作品そのものの解釈を与えるものと別になります)

2014.1.3即興創作枠1

曲目:

ベートーベンピアノソナタ第1番

タイトル:

たけし!さっさと学校へ行きなさい

本文:

第1楽章

 登校拒否の生徒がいる。
 彼は何やら学校に大きな不満があるらしい。
 不満はあるものの、それを先生に正面むかって口にすることはできない。
 なぜ? 気が弱いのです。
 そういうことで、彼は不満は抱えるものの、喧嘩もろくにしたことがない。いつも独りで悶々としている。
 それでもなんとか学校に行っていたが、どうやら何かが限界に達してしまったらしい。彼はここ数日くらい、学校に行っていない。親は心配している。なにしろこれまでずっと真面目で、何か周囲に迷惑をかけるようなことはしてこなかった(優等生というより、おとなしい、という感じ)
 何があったのか、親は聞くが、答えてくれない。どうもそれを打ち明けることが怖いらしい。親は、よほどのことがあったのだと、心配する。
 教師から連絡がきた。親御さんにちょっと学校にきて欲しいと。
 職員室を訪ねる。
 「たけし君のお母様ですね」
 「はい」
 「実は、たけし君のことですが」

 どうやら彼は、学芸会の配役で、たぬきの役になってしまったことが、不満だったらしい。

 「友達はみんな、なんていうんでしょう。人の役だったんですが、役の数が足りなくて、たけし君だけ、たぬきになってしまったのです。それで、たぬきのかぶりものをして、台詞は【ボクはたぬきだポン!】だけ」

 親は、少しためいきをついた。
 「それって…」
 教師は首を振った。
 「いえ、お母さん。たぶんですけど、きっとそれがたけし君にとってとても大事なことだったのだと、私も反省しているのです。そういうことに気づけなかった。」

第2楽章

 学校にいかないたけしは今日もひとりで部屋にいた。静かな生活。毎朝学校にいって帰るのは、そんなに大変ではなかったが、学校にいかないでいい朝というのは、むずむずした快感があるようだ。
 でもちょっと、後悔もしている。本当はもうなんとなく、たぬきの役くらいいいんじゃないか、なんて思ってもいる。が、今となっては引っ込みもつかない。何より、不登校した後で学校にいくって、ちょっとどころか、かなり恥ずかしい。
 そういうわけでたけしは、今は何かを抱えているというより、なんとなくずるずると、元の生活に戻るのがおっくうになってしまっていた。(一番よくないパターンである)
 父親が帰ってくる音がした。
 たけしはぶるっと震える。自分がやるべきことをやっていないときの父親は、本当に怖い。母親はなんやかんや、何をしていても、叱られるけど、助けてくれる。母親はそうなんだろう。
 父親はそうはいかない。今も怖い目で、逃げている自分というものを見ている。

3楽章

 たけしは部屋で暴れだした。
 「お父さん!お母さん!ボクはいったい、どうしたらいいの!もう学校にはいけないよ!でも学校にいかないのもいやだ!だからボクはもうずっとこの部屋にいる!」

 父親が部屋に飛び込んできた。

 「お父さん…」

 父親はたけしを見て言った。

 「お前、学校は?」

 「学校は、もういい。」

 「行かないのか?」

 「行かない。」

 「ずっと?」

 「…」

 「ふざけるな!!!!」

 父親は今までたけしが聞いたことないほどの恐ろしい大声をあげて怒鳴った。


4楽章

 これは戦争だ。
 たけしは、最後の戦いをすることにした。

 ・・・

 ドアをあける。
 ガラガラ

 クラス中の視線が集まっている。
 気がする。

 実際には誰も見ていない。
 授業中だった。
 教師も、生徒も、教科書をみている。

 国語の時間だった。
 たけしはそろ、そろ、と自分の席へ向かった。
 背中が寒い。足元がふらついていた。

 誰も声をかけない。たけしは今にも涙があふれようとしていた。
 ボクはきっとこのままずっと、みんなに相手にされないのかもしれない。

 教室の右前をみた。いつものあの子が座っていた。
 きっとあの子ももうボクのことは嫌いになっただろう。でも仕方ない。ボクがたぬきの役をいやがったことが悪いのだ。

 とりあえず国語の教科書を開いた。どこをやっているのか、なんとなく周囲の様子をみて、同じようなページを開いた。

 前の方にいた数人が、席を立った。
 そして、たけしの方に向かってきた。

 「たけし君、ごめんなさい。一緒に学芸会、成功させようよ!」

 たけしは何も言わなかった。
 ただ、恥ずかしい。

2014.1.26即興創作枠2

曲目:

ベートーベン ピアノソナタ第2番

タイトル:

ベス、力ありすぎ

本文:

第1楽章

 仲のいい少年トムとベス。
 今日も二人はいつもの裏山で遊んでいた。

 トム「まってよう」
 ベス「またねえよ、てめえ今日もあいつで45っただろ?!」
 トム「な、なにいうんだよ」
 ベス「しってんだぞ、おまえクラスでいつもあいつのことみてんじゃねえか」
 トム「そ、それいわないで!!」
 ベス「何回やったの?この間の運動会のアルバムつかってんだろ?!」
 トム「やめてー!!」

 そんな風にたわいもない話をしながら二人は山をかけっているのだった。

 ある日、

 トム「ねえ。」
 ベス「ん?」
 トム「ベスにはすきな人っていないの?」
 ベス「なんでだよ…?」
 トム「だってさ、そういうの興味なさそうにみえるから」
 ベス「…そうかな?」
 トム「じゃ、あるの?」
 ベス「まあな」
 トム「あるんだ」
 ベス「そりゃあるさ。男だぜ?」

 ベスはそこに転がっていた小石を拾って放り投げた。
 上手く飛んでいくかと思ったら近くの木にあたって落ちてしまった。

 トム「ねえ」
 ベス「?」
 トム「まさかすきな人ってさ、ぼくと同じだったりしてね」
 ベス「は?」
 トム「そんなわけないか。好み違うよね」
 ベス「今日もあいつで45ったの?」
 トム「なんでだよー」
 ベス「…」

 二人はしばらく静かに遠くを眺めていた。

 教室にて、

 トム「ねえ、宿題みせて欲しいんだけど」
 ベス「あ?また忘れたの?」
 トム「ごめんよ」
 ベス「しょうがねえな」

 X「あたしが見せるよ」

 トム「あ、Xちゃん」
 X「見せるっておっ●いのことじゃないからね!」
 ベス「何いってんだよおまえ!」

 ベスの突然の大声に二人は黙った。

第2楽章

 今日は雨の日。

 トムはどこにも遊びにいかず、家で一人じっとしていた。
 さっきまでは本の続きを読んでいたが、なんだか少し読みつかれてしまって放り出し、窓際に頬杖をついて、ぼーっと外を眺めていた。

 しとしとと、雨粒の音が聞える。

 (ベスは誰がすきなのかな…?)

 トムは色々なことを考えていた。

 (この間なんであんな風に大声を出したんだろう。Xちゃんがすぐ下ネタに走るのはいつものことなのに…)

 傘をさした背広の男が足下の水溜りにいらいらしながら歩いていくのが見えた。

 (Xちゃんは、なんであんなにかわいいんだろうな…。ぼくはどんなところがすきなんだろう…)

 トムはいつの間に、Xのことばかりを夢想し始めていた。

 (女の子のおっぱいって、どうなってるのかな…。)

 と、そのとき

 「トム!また宿題忘れたのか!」

 パパが帰ってきた。
 どうやらぼくのことをママから聞いたみたいだ。

 「あなた!今日は叱るのおやめになってください」
 「だめだ!」

 数時間後、

 (はあ、またこっぴどく叱られちゃった)

 再び窓際。

 (ぼくってほんとうに、だらしがないなあ)

 ふと窓から外をみると、こちらをみている女の子がいた。

 (あれ、あれは…)

 女の子は顔を伏せて早足でかけていった。

第3・4楽章

 X「ねえ!だれがすきなの?」
 トム「えー」
 X「いいなさいよ!」

 昼休み。掃除の時間。
 最近ぼくは毎日のようにXちゃんに問い詰められている。

 トム「なんで君にそんなこといわなくちゃいけないの?」
 X「なんでもいいでしょ!私の世界制服のために必要なの!」

 ぼくはなんとなく、気づいてた。
 ほんとうは心の底で、嬉しい。
 嬉しいけど、やっぱり言いたくはないな。
 できれば…

 X「わかった、じゃああなたが言ったら、私も言うから」
 トム「いやだよ」
 ベス「邪魔するよ」

 ベスは二人の間に割り込み、デッキブラシを乱暴に床にあてがった。
 勢いが強く、トムの膝に少し棒があたってしまった。

 トム「いてっ」
 ベス「ん?どうした?」
 トム「いや、あ…」
 ベス「二人ともちゃんと掃除しろよ」

 ベスはそう言うとどこかに行ってしまった。

 X「なんか最近あいつ感じわるいね」
 トム「そうかな…?」
 X「そうだよ。こないだだってさ」
 トム「それはきっと…」
 X「ん?」

 トムは思わずなにかを言いかけて、口ごもった。

 (こんなことを言うのは、最低だ…)

 X「よくわかんないな、あんたたち。ほんとうに友達なの?」
 トム「…え?」
 X「一緒によく遊んでるけどさ。なんていうのかな、喧嘩したこととかあるの?」
 トム「そりゃ、あるよ」
 X「どんなとき?」
 トム「えっとね、ベスがね、ぼくが給食のごはんの前にいただきますって言わないことが気に入らないとかね」
 X「それは喧嘩じゃなくて、お説教だよね」
 トム「あ、そうかな」
 X「ちゃんと喧嘩してきたのかな」

 ベスは廊下で掃除をするふりをしながら、話をきいていた。

 (ちぇ、仲良くしやがってさ…)

 トム「喧嘩はあまりしないけど、ベスは友達だよ。それは間違いない」
 X「じゃさ、たとえば自分の一番大事なものと、その友達とどっちかしかなかったらどうする?」

 トムは少し黙った。

 トム「なんでそんなこと聞くの?」
 X「世界制服のためよ」
 トム「それはね…」

 ベス「こいつは友達を捨てるよ」

 いつの間に二人の後ろにいたベスは話に割り込んできた。

 トム「なんでだよ」
 ベス「だってお前、そういうやつだろ?」

 トムは顔を赤くした。

 トム「そんなことないよ。なんでそんなこというの。」
 ベス「さあな」

 ベスはデッキブラシを折った。


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