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西宮ストークス観戦記#25 謝罪の理由

ライジングゼファー福岡とのGAME2を、なんとも残念な内容で落とした西宮ストークス。その試合結果よりも物議を醸したのは、試合後のこんなツイートでした。

…ど、どうしたんだ急に。

あまりに唐突な「謝罪」にブースターは動揺。さらに、谷口選手がこのツイートを引用して「そう思われたんだ」とツイートを重ねたことで、TLにはさまざまな憶測が飛び交いました。

確かにいきなりこんな謝り方をされてもびっくりするわけで、真意が上手く伝わらないという点では、情報の発信としては悪手だったのかもしれません。これについては、多くのブースターの方々がそれぞれに意見を発していて、賛否両論いろいろあるものの、その根底には西宮ストークスへの愛着があります。ならば、私も自分なりのやり方で、この「謝罪」に対してのアンサーをしてみたいと思ったのでした。うん、炎上案件に首を突っ込みたいだけだろうと言われれば、否定はしません。

◉あの試合は「特別」か?

ます最初に、この試合を数字によって特徴づけることができるか考えてみます。今シーズンのストークスのスタッツ(各部門の成績)との比較から、当該の試合を捉え直してみましょう。左が福岡とのGAME2、右が今シーズンの平均です。

■福岡戦GAME2|シーズン平均
FG%:20/64(31.2%)|28.9/63.4(45.6%)
3FG%:5/24(20.8%)|7.0/21.2(33.1%) 
FT%:11/18(61.1%)| 11.5/16.6(69.3%)
TRB:47|37.8
ORB:13|9.1
AST:23|21.2
TOV:12|12.3

際立つのはシュート確率の悪さ。酷い。これだけ入らなければ、そりゃあ勝てない。だからって、それはチームが公式のtwitterアカウントで謝るべきことなのか? 外したら謝らないといけないのなら、誰もシュートなんか打たない。ちなみにこの試合の福岡のFG%は32.3(3FG%は27.8)。こっちだって酷い。

そこで、シュート確率の悪さを一旦忘れて(あかん)、その他の数字をもう一度見てみます。すると、この試合が特別なものではないこともわかってきます。「特別ではない」とは要するに、取り立ててシュートの回数が多かったり少なかったり、ミスをしまくったわけではないという意味です。リバウンドがずいぶん多いのは、それだけ両チームがシュートを外しただけのこと。シュートを打つ機会はいつも通りだったわけです。

ならば、「結局はシュートが入らなかっただけじゃないか」と思うかもしれません。そう、たぶんそうなんですが、それでは面白くないという勝手な理由で、もう少し突っ込んで考えてみたいのです。だってさ、シュートが入らなくてチーム公式が「ごめんなさい」とか、ダサすぎるやん。

◉ストークスはシュートが少ない

ところで、先ほどはストークスの今シーズンの平均スタッツと例の試合を比べましたが、そこから一つ次数を繰り上げて、その平均スタッツをリーグ内で位置付けると、何が見えてくるでしょうか。

まずはB2のチームをFGA(シュート試投数)の少ない順に並べてみました。

■B2チームのFGA(シュート試投数)
18位 東京Z:24.3/61.3(39.7%) 
17位 群馬:26.6/62.4(42.6%) 
16位 信州:26.6/63.1(42.2%)
15位 西宮:28.9/63.4(45.6%)
14位 仙台:27.8/63.9(43.5%)

西宮は下から4番目。カッコ内はFG%で、試投数と成功数に相関はありません。たくさん打つチームがたくさん入るわけではない、ということ。また、勝敗とも相関がありません。シュートを多く打つチームが強いわけでもなければ、少ないチームが弱いわけでもない。面白いのは、FGAの少ないチームに案外上位チームが多いこと。ん、アスフレ? すべすべさんに聞いてくれ。ここでわかるのは、ストークスはシュートを打つ機会の少ないチームだということです。

次に、FG%の高い順に並べてみます。

■B2チームのFG%(シュート確率)
1位 広島:31.7/64.6(49.0%)
2位 香川:31.9/65.4(48.8%) 
3位 東京EX:32.6/71.1(45.9%)
4位 FE名古屋:29.3/64.1(45.7%) 
5位 熊本:29.1/63.6(45.7%))
6位 西宮:28.9/63.4(45.6%)

ストークスは6位。試投数にそれほど差のない4・5位とは0.1ポイント差であることを考えれば、かなり健闘していると言えるでしょう。

両方のランキングに登場するのはストークスだけ。つまり、少ないシュート機会を確実に決めているということです。ここに今季のストークスの特徴が現れています。チームの攻撃速度を示すPaceでもストークスは14位とやっぱり遅い(=攻撃回数が少ない)。

バスケットボールは言わずもがな、シュートによる得点の多さを競うスポーツです。対戦相手よりも1点でも多く取るために、各チームはさまざまな戦略をとります。その中で今シーズンのストークスは、シュートを打つ機会は少なくても、確実に決められるようにするという戦略をとっていると考えられるわけです。

ちなみに、ストークスはフリースローの試投数もそれほど多くありません。極端に言い換えれば、選手がシュートを放つのがレアということ。そう考えると、あの「謝罪」の対象となった試合の見え方がちょっと変わってこないでしょうか。

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◉確実性と偶発性

結論を急がず、もう少し考えてみましょう。ストークスの「シュートは少なくても精度を上げる」戦略を可能にしているものは何でしょうか? まずはやはりブラッドリー・ウォルドー選手の存在でしょう。昨シーズン、見事にB2でFG%1位に輝いたブラッドは、今シーズンも63.3%の確率でシュートを決めて、広島のエチェニケに次いでリーグ2位につけています。外国籍ビッグマンとの肉弾戦をくぐり抜けてのこの数字は、素晴らしいという他にありません。

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道原選手のジャンプシュートの精度も大きな要素です。FG%は43.9、3FG%は36.4となかなかの数字。実はこれでも昨シーズンよりかなり下がっていて、去年はどれだけすごかったんだという話。実際、今季は道原選手がボールハンドラーとなってオフェンスをコントロールするためのセットが多く組まれていて、アウェーの広島戦の3連続スリーなど勝負強さも抜群。さらに、谷選手の3Pシュート(37.6%)も「確実性」を志向するストークスにとっては大きな武器です。

逆に言えば、こうしたB2でもトップクラスの精度を誇る面々がいるからこそ、ストークスは「シュートは少なくても精度を上げる」戦略を採用できるわけです。ただしそれには弱点もあって、誰に点を取らせようとするのかが読まれやすいということ。ただでさえ少ない機会を、より得点する可能性が高い選手に託すわけですから、当たり前と言えば当たり前。相手にとってはディフェンスする機会が少なくて済むということでもあり、「確実性」を求めるオフェンスは、ディフェンスが守りやすい条件にもなり得る。

ちょっと話が逸れますが、そうしたわかりやすい攻撃を、的を絞りにくいものにしてくれているのがバーンズ選手なのかもしれません。時にセットプレーとは無関係に放つスリーポイントや、ドライブから身体をねじ込んでフリースローをもらう泥臭いプレーは、試合の流れの中で生まれるものであり、「確実性」とは対極にあります。しかし、その偶発的なプレーの積み重ねが相手を混乱に陥れ、精度の高いセットプレーの実行を助けているのだとしたら、確率ばかりにこだわるのもナンセンスに思えてきます。バーンズがもたらす(対戦相手にとっての)不確定要素もまた、ストークスにとって欠かせないアクセントなのです。

確実に得点するためには不確実なプレーが必要。なんだか禅問答のようだ。とはいえ、これはあながち間違いではなくて、福岡との試合を思い出すと、GAME1では劉選手が上手くその役目を果たしていました。それは相手にデータがなかったこととも関係しますが、半ば無理やりなアタックが、だからこそ福岡の脅威となって守備を収縮させ、味方のフリーのシュートを演出していました。

そう言えば、シーズン序盤の牽引役となった松崎選手のプレーも、相手の隙を突いたペネトレイトが多かった。「確実性」を生むためには、相手に読まれないような「偶発性」を含むプレーが必要で、互いに支え合うことにより、「確実性」はさらに高まるのかもしれません。このへんはデータでは上手く示せないけど、なんとなく感覚的にはわかる。

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◉武器が弱点になった?

こうした文脈を踏まえて、改めて福岡とのGAME2を振り返ってみます。機会が少ないからこそ大切にしなければならないシュートを外し続けたこの試合は、ストークスにとって不本意極まりないものでした。確実性の一番の根拠でありチームの自信の源だったインサイドはむしろ、「ここを押さえれば勝てる」というヒントを相手に与える結果になった。GAME1でラッキーボーイ的な活躍を見せた劉選手も、マークがきつくなると途端に輝きを失い、偶発性によって相手のプランを吹き飛ばし、確実性を取り戻すこともできませんでした。負傷交代というアクシデントがあったにせよ、チームの戦い方そのものを否定されたような敗戦だったのかもしれません。

あの悲壮感の漂う「謝罪」ツイートには、何から手をつけていいかわからないようなニュアンスがありました。とても14勝5敗と上々の滑り出しをしているチームが発する言葉とは思えません。その背景には、インサイドの確実性という武器がむしろ弱点を曝け出すことになり、それを支えていたはずの偶発性も実は脆弱なものであったという、八方塞がりのような感覚があったのではないでしょうか。誰がしたのか知らないけれど、それが心細さや申し訳なさになって、ああいう形で発露したのかもしれません。前日に勝ち切っていたことや、それがストークスにとって少なくない数の観客の前での試合であったことも、反動として作用したのかな。

要するに、ストークスの戦い方の根本的な弱点が露わになったのではないかということ。谷口選手のツイートで、選手と球団の関係を危ぶむ声が多かったけれど、今季のストークスそのものの姿である気もして、だったらむしろ心配しないといけないのは球団とコーチの関係のような気がする。

多くの人が口にしていたように、当然大事なのはここからどう変わっていくのか。ただ、もし「感動を与える」というのが今のストークスのバスケットの傾向に関わるものであるのなら、それを変えるためには、さらにシュートの精度を高めるのか、反対にペースを上げていくのかの二択しかない。どっちに転んでも、どうやってそれを実現するのか、とても興味があります。


※このnoteは単なるファンの個人的な感想であり、
西宮ストークスとは一切関係のない非公式なものです。





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