見出し画像

『臨月2』

この世に生を受ける前、震える子犬の格好で悶々としていた。

淡い月の光が行く手を照らしたけれど、星屑の砕けた破片が吸い込まれるだけだった。

ブラックホールほどの強大な暗闇に魂が押し潰されて、僕は一人ぼっちで震えていた。

この世に生を受けた後、鉛みたいに重い疲れに苛まれ、身動きする事をやめて、深海の奥底へ、奥底へと沈んでいった。

淡い月の光が行く手を照らしたけれど、闇夜の彼方へ星屑の砕けた破片が押し出されて行くだけだった。

昼も夜も定まらず。春も夏も秋も冬も定まらず。

瞼を閉じたり開いたり。

手を閉じたり開いたり。

死に場所を探すために生きるのか。

生きるために死に場所を探すのか。

すり鉢の奥から綴れ織りの道が伸びて行く。

淡い月の光が僕の行く手を照らす。

綴れ織りの道が、上へ上へと伸びて行く。

淡い月の光が、雪野原を照らし出す。

月夜の光と影の境界線。

それは母が作ったものだと教わった。

写真 小幡マキ 文 大崎航

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?