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映画メモ 覇王別姫 陳凱歌

清朝が滅び、国民党による治世が始まった頃、遊女の息子の小豆子(レスリー・チャン:張国栄)が、北京の或る貧しい京劇団へ母に投げ捨てられる時より、物語が始まる。※導入部分はあくまでも導入。

内容は、いくつものプロットの連なりで、登場人物それぞれ行く宛の不確かな群像記の様であるが、物語の背景は第二次世界大戦から文化大革命の激動期であり、物語の強靭な背骨として支配している。

一番わかりやすい主題は、映画の題名通り故事、「覇王別姫」の物語世界である。

驕った漢の王項羽が楚の攻略に嵌り、終には供に連れた愛人・虞美人を失う。虞美人は、項羽の隙きを突いて彼の剣を抜き、自らの首を落とす。

虞美人は俘虜の辱めに甘んずるを良しとせず、項羽への貞節を死を以て守りきった。この倫理の物語が、映画の基底に存在するのを容易に多くの人が理解できるであろう。

もう1人の主人公小石頭(段小楼(チャン・ホンイー:張豊穀))は、小豆子(程蝶衣)を幼い時から支え、それぞれ男役と女役として二人三脚で芸の道を歩み名声を得るまでになった。まさに覇王別姫の項羽と虞美人になぞらえられよう。彼らを四面楚歌に追い込む狡猾な劉邦率いる大軍は、日中戦争における日本軍であり、文化大革命の四人組と理解しても不自然ではない。

さらに、元より女になれなかった小豆子が、結婚した小石頭を限りなく強く愛し強く憎しみ続け、また身を捧げた芸術への執念を現実に燃焼させるまでに至るといった強靭な物語の数々と、スクリーンを埋め尽くす色彩美が渾然一体となるかのような、百花繚乱・絢爛豪華な映画世界の実現こそ、この映画最大の魅力だと感じる。

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※写真は、成都博物館の所蔵品

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