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西国三十三所第28番 成相寺 願いが成り合う寺

前回のまとめ。
兵庫・豊岡の城崎温泉、温泉寺(おんせんじ)で三十三年に一度の御本尊を拝覧した。GoToトラベルキャンペーンの恩恵もとい策略により価格帯を見誤り女一人旅にしては見るからに立派すぎる構えの老舗旅館の広すぎる和室で一人ぼっちを満喫し、一夜明けた。
食事は天ぷらが絶妙に揚がっていたが、味は割と普通だった気がする。数年前の旅行で友人と泊まった旅館の料理が別格だったのか、それとも思い出補正だったのか、今となっては確かめようもない。

今回は、二日目の様子をご紹介する。
この回は情報量が多くてまとめるのが大変であった。読みにくくてごめんなさい。

早朝の、川沿いの柳並木の道の散歩は気持ちよかった。
お気に入りの一の湯の洞窟風呂をさっと浴びて、城崎を後にした。
西国三十三所巡りはこれからが本番である。JRで豊岡(とよおか)駅に出て京都丹後鉄道(きょうとたんごてつどう)に乗り換え、二日目の目的地、天橋立(あまのはしだて)へと向かう。
天橋立は宮城県の「松島」、広島県・安芸(あき)の「宮島」と並ぶ、日本三景(にほんさんけい)のひとつである。
阿蘇海(あそかい)と宮津湾(みやづわん)を分けるように、細長く松並木が伸びている。そんな不思議な地形なので、イザナギがイザナミに会うために天から地上に掛けた梯子が倒れたとか、成相寺の観音様と智恩寺の観音様が会うために橋をかけたとか、ロマンチックな伝承が残っている。

大阪や京都から天橋立に行く場合は、高速バスが便利である。
大阪線は大阪梅田の阪急三番街から出発し、新大阪、伊丹空港もしくは千里ニュータウンを経て、宝塚、福知山の方を通る。
京都線はJR京都駅前から、阪急京都線 西山天王山(にしやまてんのうざん)駅直結の高速長岡京(こうそくながおかきょう)を経て、園部(そのべ)、綾部(あやべ)を通過する。
鉄道も、大阪から宝塚、福知山を通るルートと、京都から園部、綾部を通るルートがある。大阪方面からは福知山駅で、京都方面からは西舞鶴駅か宮津駅で、JR線から京都丹後鉄道に乗り換える。

天橋立駅の綺麗な駅舎を出て道路を渡り、右手に進む。三角形のようになっている角を左に曲がると、お土産屋さんが数軒並んでいる。店先にししゃもが干してあった。
その近くに智恩寺(ちおんじ)・文殊堂(もんじゅどう)がある。「三人寄れば文殊の知恵」の知恵を司る文殊さまで、山形県にある大聖寺(だいしょうじ)の「亀岡文殊」、奈良県桜井市にある安倍文殊院(あべのもんじゅいん)の「安倍文殊」と並び、「切戸文殊(きれともんじゅ)」として日本三文殊のひとつとされている。
日本三景のそばの日本三文殊。そして今から西国三十三所の札所へと向かう。三という数字に運命を感じる。
駅前の有名なお寺なので、天橋立散策の前にまず参拝という方は多い。御朱印もいただける。私はこちらで西国三十三所巡礼満願を祈り、知恵を授かった(ような気がする)。

智恩寺の境内を突っ切ったところにある観光船のりばでチケットを買う。境内を通り抜けるのが一番近道である。案内板も立っている。
チケットは、天橋立の観光船のりばから一の宮桟橋(いちのみやさんばし)までの往復観光船か、もしくは行きがレンタサイクルで帰りが観光船かを選ぶことができる。チケット購入の際聞いてみたところ、その逆、行きが観光船で帰りがレンタサイクルだと、扱いがややこしいようである。
その先の傘松公園(かさまつこうえん)まではケーブルカーもしくはリフトで、こちらは乗る直前に選べる。成相寺まで行く場合は、加えて登山バス料金と拝観料が必要で、観光船のりばの窓口でまとめて購入すると割引になる。
傘松公園までの観光客が多いので、窓口で「成相寺まで行きます」と告げると良い。
宮津桟橋(みやづさんばし)から観光船で天橋立を経て一の宮桟橋まで船で行くルートもある。天橋立からよりも本数が少ないようである。宮津駅から観光列車である京都丹後鉄道に乗って天橋立駅まで行くという選択肢もある。宮津駅前から天橋立駅前を経て天橋立ケーブル下の停留所まで路線バスで行くこともできる。どのルートを利用されたのか不明だが、高速バスで行ったとき、宮津駅で下車した方を傘松公園で見かけたことがあった。
自家用車では国道178号線から丹後郷土資料館を目指し、そこから山道へ入っていく。

私は天橋立から一の宮までのレンタサイクル二時間と片道観光船、ケーブルカーまたはリフトの往復、成相寺までの登山バス往復のチケット、そして成相寺の拝観券をセットで購入した。
天橋立観光船のりばの前で自転車を借りて、船が通るたびに橋の真ん中を軸に九十度回旋する廻旋橋(かいせんきょう)を渡り、松並木に入った。中は整備された遊歩道になっている。途中に天橋立神社や海水浴場、夫婦松などの松の木があり、散策するとおもしろい。
対岸まで車輪の小さいレンタサイクルで三十分弱。歩くと一時間程度らしい。
レンタサイクルは二時間まで借りられるため、少し寄り道した。観光船の一の宮駅から国道一七八号線沿いに西へ。自転車で十分ほどのところに天橋立ワイナリーがある。徒歩だと片道三十分ほどかかる。店外のテラスで白ワイン・ナイアガラのソフトクリームを食べて休憩した。これから参拝して一泊して翌日山に登る予定で瓶もののワインはさすがに持って帰れないが、白ワインのパウンドケーキや赤ワインのグミ、白ワインのキャンディーを購入してリュックに詰めた。これらのお菓子は西国三十三所スイーツ巡礼にピックアップされている。
パンパンになったリュックを背負い、成相寺を目指す。

天橋立ワイナリーから引き返し、スーパーマーケット「にしがき」でペットボトルのお茶を買い、一の宮桟橋で自転車を返却した。ケーブル・リフト乗り場の途中にある籠神社(このじんじゃ)を参拝し、旅の安全を祈願する。籠神社は丹後国(たんごのくに:明治時代初期まで使われていた行政区分で、現在の京都府北部のあたり)の一の宮(いちのみや:地域の中で最も社格の高い神社)である。
時間と体力のある方は、奥宮(おくのみや)の眞名井神社(まないじんじゃ)にも行くとよい。籠神社から坂道を上って徒歩十数分ほどである。別の日に参拝したが、清らかな水の湧き出る静謐な空気の場所であった。ちなみに写真撮影は禁止となっている。

この日はリフトが休止しておりケーブルカーで傘松公園に上ったが、後日初めてリフトに乗った日の風景が忘れられないので記しておきたい。荷物を前に抱え、座席の横に付いている棒に右手でしがみつき、足をぶらぶらさせながら、嬉し恥ずかし人生初めてのドキドキリフト乗車で、スマホで写真を撮りたい、でも落としそうで怖いなぁと葛藤していた。顔を上げると、春の終わりの穏やかな日差しに包まれ、小鳥が囀り、両脇の桜から花びらがひらひらと舞っていて、夢の中ような時間であった。

天橋立と、それを見渡せる傘松公園は、今も昔も風光明媚な観光地で、若者からお年寄りまで多くの人が訪れる。
未知の新型感染症流行の折、人気のはずの観光地は閑散としていて、賞味期限間近のため半額になったお土産のプリントクッキーが状況を物語っていた。
それでもお店の方、案内の方が、皆笑顔で観光客を迎えていた。

傘松公園からマイクロバスに乗車する。ダイヤは三十分に一本で、お昼時は一時間に一本である。
一歩間違えれば落ちてしまいそうな柵もない急斜面の登山道を、慣れた様子で登っていく。角度によって天橋立や日本海が見える。成相寺登山バスは、ベテランドライバーさんのテクニックによって支えられている。

ドライバーさんの案内で、車中から山門を見、本堂に続く階段の前で降ろされた。本堂に向かって階段を上っていく。
途中にあるのは「撞かずの鐘(つかずのかね)」。鐘を鋳造する際、見物に来ていた長者の妻が我が子を鋳造の炉に落としてしまい、出来た鐘は子どもの泣き声を響かせ、可哀想に思って撞くのをやめたという、悲しい伝説がある。
「一願一言地蔵(いちがんひとことじぞう)」はどんな願いでもひとつだけ叶えてくれるというお地蔵様である。家内安全身体健全。あ、二つ言っちゃった。
本堂でお経を上げ、御朱印をいただいた。
本堂の一角に、成相寺のイメージキャラクターで清楚系の萌えキャラ「成吉ソワカ」のグッズが置かれていた。京都出身のイラストレーターBUNBUNさんが描かれたキャラクターである。有名なところではabec(アベシ)名義で人気ライトノベル「ソードアート・オンライン」シリーズの挿絵を担当されている方である。
本堂に掲げられている左甚五郎(ひだりじんごろう)作の「真向きの龍」。どの場所に立っても龍と目が合う。本堂内は撮影不可であるが、真向きの龍は撮影可である。本堂の脇にある十王堂の、極彩色の孔雀明王や不動明王も見どころである。

本堂から歩いて五分ほどの弁天山展望台(べんてんやまてんぼうだい)から天橋立を眺める。傘松公園よりも高いところから眺めることができる。展望台を下りて、一九九八年に復元された色鮮やかな五重塔を見る。成相寺は紅葉の名所で、紅葉を背景に見る五重塔がまた格別である。その前には大蛇の伝説の「底なし池」がある。「もみじ谷」を抜け、山門を通り、山門前の停留所で帰りのバスを待つのがいつものルートである。
この日も相変わらず虫に遭遇しないかとビビり散らしながら、落ち葉を踏み締めて、もみじ谷をゆっくりゆっくり歩いていた。視線を感じて顔を上げ、振り返ると、臆病な生き物が、つぶらな瞳でこちらを伺っていた。大人というにはやや小さな鹿であった。目が合い、驚いてしばらく固まっていた。鹿も驚いて硬直していた。しばらく見つめ合った。再び歩み出し、すぐに振り返ると、もういなくなっていた。貴重な体験であった。
成相寺には鹿に関するご由緒がある。僧であった開山の真応上人(しんおうしょうにん)が、冬は雪深いこの地で修業をしていたところ、食糧が絶えてしまった。飢えて死ぬ寸前、ご本尊にお祈りしたところ、お堂の外に傷ついた鹿が倒れていた。肉を口にすることに悩みながらも生きるために鹿の腿を削いで食べた。やがて雪が溶けお堂の中を見ると、ご本尊の腿が切り取られ、木屑が散っていた。ご本尊が身代わり観音と呼ばれる所以である。願いが必ず叶う「願いが成り合う寺」ということでついた成相寺の寺名もここからきている。

京都丹後鉄道で天橋立駅から東舞鶴の宿泊先へと向かう。
右手に山、左手に日本海を見ながら、かわいい一両編成の列車にガタゴト揺られた。総じて風景が素晴らしいが、特に丹後由良駅から丹後神崎駅の間の由良川橋梁の景色は有名で、広大な海と空を臨みながら真っ直ぐな赤い鉄橋を渡る。写真を撮ろうとする人が何人かおり、先頭の窓の前を順番に譲り合った。

西舞鶴駅でJR舞鶴線に乗り換える。
天橋立、西舞鶴、東舞鶴のどこで一泊しようか迷って、東舞鶴にした。その大きな理由は、交通アクセスの面である。天橋立は観光ホテルが多いが、西舞鶴と東舞鶴はビジネスホテルが多いので安価で利用でき宿泊先に困らない。次の目的地、西国三十三所第二十九番札所・松尾寺(まつのおでら)へ行くJR小浜(おばま)線は本数がとても少ない(このご時世でさらに減便という話も出ている)。東舞鶴駅からバスも出ているが、こちらもやはり本数がとてもとても少ない。
西国三十三所の難所といえば車だけで到達できない約二十分の登山必須の第四番札所・施福寺(せふくじ)がよく挙げられるが、第三十一番札所・長命寺のバス停からの八百八段の石段、第三十二番札所・観音正寺(かんのんしょうじ)の能登川駅からの裏参道と安土駅からの表参道、西国番外・花山院のバス停からの急斜面、第二十四番札所・中山寺の実は帰りに道を間違えて遭難しかけた奥の院、一日に二便しかない路線バスで行く第二十五番札所・兵庫県播磨(はりま)の播州清水寺(ばんしゅうきよみずでら)、これらを幾度も経験してきた私にとって、車やタクシーを使わない場合、交通の便がよろしくなく駅から徒歩約一時間の松尾寺が西国三十三所で一二を争う難所である。京阪神ユーザーの私には舞鶴線も大概本数が少ないなぁと感じるが、松尾寺駅までを乗り換え案内サイトで検索すると、東舞鶴駅で二時間半待ちなどざらに出てくる。
東舞鶴駅から松尾寺駅までグーグルマップによると徒歩では一時間十六分かかるらしい。道路が走っているが、電車が山間(やまあい)を縫うように走っている様子を見ると、あまり条件のよい道とは思えない。お寺までトータルで二時間半は歩くことになり、いくら歩けるといっても現実的ではない。
これも「実は」なのだが、一度日帰りでの松尾寺を決行したことがある。JRの京都駅から東舞鶴駅まで特急まいづるに乗って約一時間半。途中の綾部駅で先頭側の特急はしだてとの切り離しが行われた。前寄り四両、宮津・天橋立行きは前方へ、後ろ寄り三両、西舞鶴・東舞鶴行きは後方へ、それぞれ走り出した。突如後ろ向きに走り出した特急まいづるの車内で、誰も座席の向きを変えず微動だにせず、コントの一場面のようでかなり面白かった。
特急利用をしても、東舞鶴駅ホームで一時間待ちののち徒歩片道一時間の松尾寺に向かったが、時間管理を誤ると帰れなくなる可能性もあるので精神的にハードであった。ちなみに帰りは東舞鶴駅から高速バスを利用した(このご時世で運休が多く行きは使える便がない)。
遠さでは第一番札所の青岸渡寺も挙げられるが、特急くろしおがあり駅から三十分に一本程度の路線バスが出ていてかなり恵まれている。
どう見ても松尾寺が公共交通機関でのアクセス最難関である。

翌日のシュミレーションをしながら東舞鶴駅から北へ歩く。舞鶴港近くのビジネスホテルでシングルの部屋を予約したが、ツインに通された。
「グレードアップしておきました。ごゆっくりおくつろぎください」。GoToトラベルキャンペーンの策略による分不相応な一日目の城崎温泉高級旅館のみならず、二日目も、広い部屋を持て余す。ベッドも浴衣もアメニティも贅沢に二人分用意されていた。
ホテルに向かう途中で以前から気になっていたステーキのお店のステーキ弁当を買ってきていて、お風呂上がりに部屋で食べた。家から持ってきた粉末青汁スティックでドリンクを作り、アメリカンな食べ応えのあるお肉をよく噛んで味わった。ステーキ肉の脇に添えられた、お弁当箱の傾きによってステーキソースの染みたポテトサラダが、これまた至高であった。
家族へのお土産にするはずだった傘松公園のキャラクター「かさぼう」のプリントクッキー(個包装)を開封して食べ、どんだけ食べるねんとセルフツッコミしながら、アマゾンファイヤースティックをテレビに繋ぎ、家で見返していたアマゾンプライムビデオに入っているアニメ「東のエデン」の続きを見ていた。ロックバンドoasisのオープニング曲がめちゃくちゃカッコイイ。本編は、ジョニー狩りのオネエサンが下着姿でイリュージョンしているところだった。
私も適当にイリュージョンして明日に備える。

三日目に続く。

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第二十八番札所 成相山 成相寺

読み:なりあいさん なりあいじ

住所:京都府 宮津市(みやづし) 成相寺(なりあいじ)339

公共交通機関でのアクセス:
①京都丹後鉄道 天橋立駅より
徒歩5分
丹後海陸交通 観光船 天橋立→一の宮(所要時間12分)
徒歩8分
丹後海陸交通 ケーブルカー(所要時間4分)またはリフト(所要時間7分)
府中→傘松公園
登山バス 傘松駅→成相寺山門前→成相寺(所要時間7分)
②京都丹後鉄道 天橋立駅より
丹後海陸交通バス 天橋立駅前→天橋立ケーブル下(所要時間28分・400円)
丹後海陸交通 ケーブルカー(所要時間4分)またはリフト(所要時間7分)
府中→傘松公園
登山バス 傘松駅→成相寺山門前→成相寺(所要時間7分)

入山料:500円
参拝時間:8:00〜16:30

宗派:真言宗
本尊:聖観世音菩薩

主な行事:8月9日 千日まいり

創建:704年(慶雲元年)
開山:真応上人(しんおうしょうにん)
開基:文武天皇(もんむてんのう)

札所:
西国三十三所第28番

御詠歌:
波の音松の ひびきも 成相の
 風ふきわたす 天の橋立

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天橋山 智恩寺

読み:てんきょうざん ちおんじ

住所:京都府 宮津市(みやづし) 文殊(もんじゅ)466

公共交通機関でのアクセス:
京都丹後鉄道 天橋立駅より
徒歩5分

宗派:臨済宗
本尊:文殊菩薩

創建:808年(大同3年)
開基:平城天皇

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丹後一宮 元伊勢 籠神社

読み:たんごいちのみや もといせ このじんじゃ

住所:京都府 宮津市(みやづし) 大垣(おおがき)430

公共交通機関でのアクセス:
①京都丹後鉄道 天橋立駅より
徒歩5分
丹後海陸交通 観光船 天橋立→一の宮
徒歩3分
②京都丹後鉄道 天橋立駅より
徒歩5分
丹後海陸交通バス 天橋立駅前→天橋立元伊勢籠神社(所要時間28分・400円)
徒歩3分

参拝時間:7:00〜16:30
授与時間:9:00〜16:30

主祭神:彦火明命

札所:
神仏霊場巡拝の道第131番(京都第51番)

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眞名井神社

読み:まないじんじゃ

住所:京都府 宮津市(みやづし) 江尻(えじり)

アクセス:
元伊勢 籠神社より
徒歩10分

主祭神:豊受大神(とようけのおおかみ)

※写真撮影禁止である。
※御朱印は籠神社で籠神社とセットのものをいただける。


※上記は2020年10月時点の情報です。

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