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西国三十三所第29番 松尾寺 病気平癒・交通安全、馬頭観音のお寺

前回のあらすじ。
城崎(きのさき)の温泉寺で三十三年に一度まみえる奈良の長谷寺(はせでら)と同じ霊木の観音様を見、トラブル続きで中断したGoToトラブ……ゴホン、GoToトラベルキャンペーンの一時(いっとき)の恩恵で豪華老舗旅館に泊まり、お布団でキンドルオアシス(電子書籍端末)に入れたBL書籍を読み明かした一日目、外湯めぐりで宿泊旅館の温泉は使わなかったが入湯税を取られた。
二日目は、日本海側を東へ行き、成相寺で観音様の化身かもしれない鹿と会ったその夜、牛肉を食べた口で家族へのお土産にするはずのクッキーを開けてしまった。ノブレスオブリージュ。
そして三日目。所在地は京都府だがほぼ福井県。私が西国三十三所でアクセス最難関と定める第二十九番札所の松尾寺(まつのおでら)へ。

※雪深い日本海側にあり、冬の参拝は避けた方がよいと思われる。記事を書きかけて寝かせている間に幾度となく参詣を重ね、記憶が混同している節もあるが、こちらはおおよそ二〇二一年春の話である。


朝、早く起きられたので少し散策をした。
舞鶴港近くの公園では犬の散歩や人間の散歩、ジョギングなど、住民の方が各々(おのおの)の時間を過ごされていた。
赤れんが倉庫にも足を伸ばした。昨日東舞鶴駅の南側にある、平和堂系列のショッピングセンター「らぽーる」のスーパーマーケットで朝食用にメロンパンをひとつ買っていたが、食いしんぼうには物足りない。お土産コーナーで海軍カレーパンを買って部屋で食べた。ラセールという近隣のパン屋さんが出している惣菜パンである。

チェックアウトして東舞鶴駅へ向かう。大きな荷物は駅のロッカーに預けた。
朝夕を除き二時間に一本くらいしかない二両編成の電車に乗り、七分程で松尾寺駅に到着する。ワンマン運転で、一番前のドアからしか降りられなかった。単線の駅で、山に囲まれている。電車の乗降の際に自動ではなく開ボタンを押してドアを開ける文化圏を私は田舎認定していたが、そういうレベルではない田舎であった。
松尾寺駅から松尾寺までは徒歩一時間ほどである。距離はあるが傾斜はさほどきつくなく、アスファルト舗装済みの道路を行くため比較的歩きやすい。

小さいながらも風格あるレトロな駅舎を出て国道二十七号を通り、京都府道五六四号松尾吉坂(まつおきっさか)線に入っていく。京都府舞鶴市と福井県大飯郡高浜町を結ぶ道路である。ここは福井県境にほど近い。
自家用車で向かう方のために記しておくと、過去にバスツアーを二度利用したが、一度目は今回の徒歩ルートと同じ松尾寺口からの昔ながらのルートを通り、二度目は青郷(あおのごう)寄りの関屋交差点から続く道ができていて、車では大型バスも入れる後者のほうが上りやすい印象であった。
坂道を上っていくと、通ってきた畑が眼下に広がる。青々とした山も本当に美しい。この日は快晴で、青空が澄み渡っていた。

ゆっくり見積もって徒歩一時間ほどと書いたが、ざっくりした所要時間は、駅から松尾寺口まで十五分、松尾寺口から仁王門まで三十分程度といったところか。
鼻歌を歌いながら脚を動かす。

仁王門より手前の階段で、十二時を知らせるエーデエルワイスの音楽が鳴り響いた。十一時の電車を利用すると、だいたいこの時間に到着する。

派手さはないながらも、大切に守られてきたのが伝わってくる古刹である。
仁王像のある門はこのとき修復中で、工事用の足場が組まれていた。
(※2023年現在、松尾寺仁王門の修復は完了し、本堂の修復が始まっている。)

本堂は二重屋根の独特な形をしている。本堂外観の写真を一目見て松尾寺だと分かる。
薄暗い本堂の中に御前立ちの観音様が見える。御本尊は西国三十三所で唯一の馬頭観音様である。御本尊は七十七年に一度の御開帳で、前回は二〇〇九年に公開されたそうだ。観音様といえば優しげなお顔の像が多いが、馬頭観音様は忿怒(ふんぬ)の表情をしている。三つの顔と八本の腕を持つ「三面八臂(さんめんはっぴ)」で、片膝を立てた坐像である。頭上に馬の頭が乗っている。

京都国立博物館で二〇二〇年七月二十三日から九月十三日まで、コロナ禍で会期が変更になり開催された特別展「聖地をたずねて 西国三十三所の信仰と至宝」にて、御前立の馬頭観音様を間近に拝覧できた。前期展示で一緒に行った私の父も、後期展示で一緒に行った友人左京女史も、最も印象に残った展示に松尾寺の馬頭観音を挙げていた。眼力がすごい。
ちなみに会期中の八月、どのようになっているのか気になって訪れると、別の仕事で出られなくなったテレビ番組のパーソナリティーのように、代わりに写真のパネルが立っていた。

以前バスツアーでお参りしたとき、同行の先達様が烏枢瑟摩(うすしま)明王のお札をお勧めされていた。不浄を浄化する明王様で、烏枢沙摩(うすさま)明王ともいう。トイレによく貼られるので、トイレの神様と私は呼んでいる。トイレにはそれはそれはキレイな女神様がいるかどうかは知らないが、烏枢沙摩明王がいるんやで。
私がオススメしたいのは、馬頭観音様を表す「ハヤグリーヴァ」が梵字(ぼんじ)で書かれたミニ色紙である。お寺様直筆のミニ色紙が千円で手に入り、ささやかながら仁王門や本堂の修復費用に充てられる、有り難くてお得な品である。商売っ気がなく、納経所にさり気なく飾られているので、見逃すべからず。

帰りも一時間ほどで何事もなく下山し、駅舎で電車を待つ間、松尾寺駅にある喫茶店「流々亭(るるてい)」に寄り、しばし休憩。こちらは舞鶴産のお茶とこだわりのお菓子などを提供している。松尾寺に行く際の楽しみのひとつとなっている。
スイーツの、お茶のティラミス、「茶ラミス」がお気に入りである。「teaラミス」と掛けているのかと思って注文すれば、お店の方は、「ちゃラミス」と読んでおられた。ちょっと恥ずかしかった。
(※2023年現在、茶ラミスは残念ながらメニューから外れている。現在はプラカップでラテなどを提供しており、移動しながらでも飲みやすい。)

あるときは、東舞鶴駅前まで京都交通バスを利用した。バスを利用するとき、最寄りの停留所は松尾寺口だが、横断した先の、歩道もない草がボーボーに生えているところで待ちにくい。少し駅寄りに歩くと、目と鼻の先に吉坂(きっさか)の停留所がある。以前は商店をやっていたのかという構えの他所(よそ)様のお宅の真ん前だが、ご丁寧に木製のベンチまで用意してくださっている。参考までに運賃は、三百五十円。松尾寺駅前から東舞鶴駅前までは二百五十円で、百円違う。電車だと二百十円である。徒歩十分程度で百円差は大きいと見るべきか小さいと見るべきか考えあぐねるところで、到着時間に任せることにしている。現金のみでICカードの利用はできないので小銭を用意しておくとよい。
東舞鶴駅前に戻ると、帰りの便まで一時間程度の猶予があった。よく利用するのは平和堂傘下のショッピングセンター「らぽーる」のイートインコーナーで、「とと楽」の五百円の海鮮丼を食べる。早い、安い、美味いの三拍子揃った素晴らしいファーストフードである。せっかく舞鶴まで来たからには海鮮を食べておきたいという気持ちに、リーズナブルかつ短時間で答えてくれる。食券制で、丼は使い捨ての発泡スチロールの容器入れられ、インスタントのお吸い物まで付いて、業務に無駄がない。

もう一箇所、紹介しておきたいのが、ショッピングセンターらぽーるの東側に、「ビストロ酒場イープ」という肉料理の人気店がある。ランチもディナーも営業している。
ゆっくり食事をするほどの時間が取れず避けていたが、こちらの手作りティラミスが美味しいという噂を聞きつけテイクアウトし、自宅まで我慢できず、帰りの全席指定席の特急列車で小瓶を開けた。車窓の山間(やまあい)の景色を眺めながら、とても幸せな時間であった。

食べ盛りの年頃がまだ終わる気配を見せない。

美味しい物を目当てに、さらなる参詣を重ねる。


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第二十九番札所 青葉山 松尾寺

読み:あおばさん まつのおでら

住所:京都府 舞鶴市(まいづるし) 松尾(まつのお)532

公共交通機関でのアクセス:
①JR小浜線 松尾寺駅より
徒歩約45分
②JR舞鶴線・小浜線 東舞鶴駅より
松尾寺口下車
徒歩約30分

入山料:無料
参拝時間:8:00〜17:00

宗派:真言宗醍醐派
本尊:馬頭観世音菩薩

主な行事:5月8日 舞儀音楽大会式

創建:708年(和銅元年)
開基:威光上人

札所:
西国三十三所第29番
神仏霊場巡拝の道第132番(京都第52番)

御詠歌:
そのかみは 幾世経(いくよへ)ぬらん 便りをば
 千歳(ちとせ)もここに 松の尾の寺

※上記は2020年〜2023年04月の情報です。

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