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西国三十三所第33番 華厳寺 満願のお寺

「華厳寺」で検索すると、先頭に京都の鈴虫寺が出てくる。
参拝者が一堂に集められ、たくさんの養殖鈴虫の大合唱に囲まれながらご住職のおもしろいお説法を聞いた。
翌年から新型感染症が流行するとは知る由もない秋、阪急京都線 桂(かつら)駅で阪急嵐山線に乗り換え、上桂(かみかつら)駅から徒歩で紅葉を見に竹の寺 地蔵院(たけのてら じぞういん)に行き、その足で鈴虫寺に行った。鈴虫寺のみ行く場合、最寄りは松尾大社(まつおたいしゃ)駅のようである。景観がよく、しっとりと落ち着いた雰囲気の場所であった。

いきなり寄り道したが、今回取り上げるのは、京都府・臨済宗の鈴虫寺の華厳寺ではなく、西国三十三所第三十三番札所、岐阜県揖斐郡・天台宗の華厳寺である。華厳(けごん)と聞くと私は真っ先に奈良県・華厳宗の東大寺が思い浮かぶが、大阪府から京都府、滋賀県を越えて岐阜県まで行くのに奈良に寄り道している時間はない。先へ急ごう。

巡礼をはじめた当初は岐阜県まで自力で日帰りで行けると思っておらず、一度目は、遠すぎて無理、と探した日帰りバスツアーで行った。第三十二番の観音正寺とセットであった。
揖斐川町観光プラザ横の駐車場に大型バスを停め、ゆるやかな坂道になっている参道を十分程歩いた。
平日だったからか閉まっている店が多かったが、門前町の雰囲気漂う参道で、お参り用品や仏具を販売しているお店やお土産屋さん、お食事処が並んでいた。

先達になり、長命寺、観音正寺と、京都府を越えて滋賀県までJRで簡単に行けてしまった。今回はさらにその先の岐阜県である。
京都から米原まで新快速で七十分。新幹線に乗ると三十分。
米原から大垣まで約三十分。一時間に二便程度である。
大阪・京都方面から米原まではJR西日本エリア、米原から大垣はJR東海エリアとなる。調べているうちに知ったのだが、エリアまたぎとなるため、交通系ICカードのICOCAやPiTaPaでピッと入っても出られない。関西圏から出ることのない私にとって、ここが一つ目の関門であった。切符どうするの? もしかして、駅員さんのいる時間帯や、大きい駅でしか買えない?
通常の券売機ではなく、みどりの券売機かみどりの窓口で買うことになる。最寄り駅に行ってみると、みどりの券売機があった。よかった。当日、券売機で駅名を検索して、切符を購入できた。
米原駅にて大垣・豊橋方面のホームで電車を待っているとき、駅名の看板の線が見慣れた青色ではなくオレンジ色なのを見て、東海エリアに行くという実感が湧いてきた。

大垣駅までは六駅である。駅数も少ないし、車内で暇だし、寝過ごしたら怖いし、語呂合わせでも考えて覚えてみようかな。
まずは醒ヶ井(さめがい)。
「夢から醒めない(醒ヶ井)で」
詩的だな。いい感じ?
次は、近江長岡(おうみながおか)。近江長……
「また会おう。皆が、」
ああ、伊吹山(いぶきやま)の鮮やかな緑がきれいだなぁ。
岡、柏原(かしわばら)。
「皆がお菓子はバラで買う……?」
まとめ買いせぇへんのか?
雰囲気が一転、雲行きが怪しくなった。このまま進めて大丈夫か? 地元の方に怒られないか?
次は、えーと、関ヶ原(せきがはら)。
いかにも、関ヶ原は関ヶ原の戦いの地の関ヶ原である。ホームに武将の名前を連ねた看板やのぼり旗が立っている。駅の近くには岐阜関ヶ原古戦場記念館があり、バスツアーのときすぐ横の道路を通り、「決戦の地」ののぼり旗がはためいているのを見た。
関ヶ原に関しては関ヶ原の戦いのイメージ以外に何も思い浮かばない。
関ヶ原の地名が強すぎる。
これ以上続きを考えるのが、タルい(垂井)。
大垣(おおがき)。あ、着いた。降りないと。

華厳寺へ行くには、JRの大垣駅から樽見鉄道か養老鉄道に乗り換えることになる。
遠い地での不測の事態に備え早め早めに出発して、次の便まで少し時間があったので、大垣駅周辺をぐるりと巡ることにした。
大垣といえば、大今良時(おおいまよしとき)さんの漫画が原作で京都アニメーションの名作のひとつであるアニメ映画「聲の形」のロケ地である。駆け足で聖地巡礼をしてみむとてするなり。
大垣駅から岐阜県道五十七号線沿いに南の方角へ。
百貨店の跡地らしい建物のショーウィンドウに飾られた「聲の形」の大きなキービジュアルにボルテージが上がる。
大垣城の横を通り、大垣公園でジャングルジムと滑り台が合体したような大きな遊具を眺めた。平日の午前中だからか、遊具で遊んでいる子どもはおらず、同じく聖地巡礼なのか写真を撮っている方が数名いた。四季の広場で噴水や船を見た。美しい公園で、こちらも写真を撮っている人がちらほらみられた。美登鯉橋(みどりばし)も雰囲気があり、桜の時期はなお映えることであろう。
水門川を右手に松尾芭蕉の俳句の石碑を眺めながら引き返した。途中で大垣八幡神社(おおがきはちまんじんじゃ)にお参りし、往復一時間ほどで大垣駅に戻ってきた。
目的のお寺とは電車で反対方向になるため行かなかったが、体験型アート施設の養老天命反転地(ようろうてんめいはんてんち)も面白そうなのでいつか行ってみたい。

大垣駅の樽見鉄道のホームでは一両編成の可愛い車両が止まっていた。非架線のモーターカーである。ハイスピードモーターカー、略してハイモ。普段当たり前に新快速に乗っている私にはどのあたりがハイスピードなのか判断できない。
本巣(もとす)行きは一時間に一本程度、朝夕なら二本程あるが、その先の樽見(たるみ)行きは半分程度になる。
樽見鉄道は住民の足でもあるが観光線の色が濃く、小旅行やハイキングの恰好のご家族や友人同士で写真を撮りに来た中高年の方が多く見られた。
友人やカップルで来ている学生さんくらいの若い人も多かった。どこへ行くのかと思ったら、ぞろぞろとモレラ岐阜駅で下車して行った。駅名と同じ名前の大きいショッピングセンターの建物が見えた。
本巣駅で、対向車両とすれ違うため数分間停車する。
のんびり運行である。

本巣から先は本格的に山あいを通る。
渓谷、鉄橋、木曽川(きそがわ)水系の根尾川(ねおがわ)の美しさ。車窓からの風景を楽しんだ。目的地への移動手段としてではなく風景を見に乗車する人も多い。ラッピング車両も走っており、樽見鉄道そのものが観光資源である。
織部(おりべ)。「道の駅 織部の里もとす」がある。茶道織部流の祖、古田織部(ふるたおりべ)の織部である。
木知原(こちぼら)。春は桜の名所、フォトスポットのようである。
谷汲口(たにぐみぐち)。ここで下車する。

谷汲口駅の前で可愛らしい河童の絵のマイクロバスが待っていた。
土日祝日は路線バス、平日は予約制の乗り合いバスである。平日は一回三百円、土日祝日は実証実験として無料で乗せていただけて、観光目的での乗車も可ということであった。
(※実証実験終了のため、二〇二一年四月より土日祝日も乗車一回につき三百円となった。)

バスの車窓から川沿いに見えた「川やな」ののぼり旗に、「せやな。どう見ても川やな」と関西弁で頷いたが、やなは当然関西弁の語尾ではなく、梁漁(やなりょう)のやなであった。
廃線の旧谷汲駅と昆虫館を通り過ぎ、山門前の交差点を右折して大きな門をくぐる。ほどなくして広い駐車場にあるバス停に停車した。谷汲山バス停の脇には谷汲あられの里のお店がある。
谷汲あられの里では、たくさんの種類のあられやおかきが販売されている。スイーツ巡礼のお菓子も多数ある。黄身餡のシンプルなお饅頭、銘菓谷汲山。餡とお餅の入ったお饅頭、谷汲太鼓。ナッツなどが乗ったおせんべい、谷汲満月。どれも美味しかった。シンプルなどら焼きも、ナッツが乗ったサクサクの谷汲クッキーも美味しかった。少し離れたところに工場併設の直売所があり、こちらのほうが品揃えが豊富である。車で行きやすい場所にあるが、徒歩でも谷汲山バス停から大きな道路沿いに十五分ほどで行くことができる。山門を出て右折し、西美濃もみじ街道から、谷汲あられの里の案内板を目印に西美濃お茶街道へと左折する。

参道をまっすぐ進むと、大きな草鞋(わらじ)のかかった仁王門が見えてくる。仁王様とどちらが大きいか、というくらいの大きな大きな草鞋である。大きな草鞋のせいで小さく見える、普通の人間サイズの草鞋もたくさんかかっている。
華厳寺の草鞋といえば、京都・鈴虫寺の山門前に草鞋を履いた幸福地蔵様がおられる。履物を履いていることで遠くまで駆けつけることができるそうだ。
話題がオーバーラップしている。早よ行け。

緑の木々と、聳え立つ南無観世音菩薩ののぼり旗。お堂がいくつも立ち並んでいる。苔むした岩、ちょろちょろと流れる小川。風情のある大きなお寺である。観音様のおられる手水舎で手を清める。
本堂前の石灯籠は、ハート型にしか見えない亥目模様(いのめもよう)と、分福茶釜(ぶんぶくちゃがま)繋がりなのか茶道具の模様の入った愛らしい造形である。
本堂、笈摺(おいづる)堂、子安堂と順番にお参りをした。
階段を上った先の満願堂では、たくさんの狸が迎えてくれた。見ざる言わざる聞かざるも猿ではなく狸だった。たぬたぬたぬ。
奥の院もあるが、険しい登山のようだ。行く人も少ない。帰りの時間があるのでやめておく。

再び本堂に戻り御朱印をいただく。華厳寺の御朱印は、本堂、満願堂、笈摺堂の三枚で一セットである。それぞれ現世、過去世、未来世を表している。
一枚三百円で計九百円。南無南無。

私はまだ満願ではないので触らなかったが、本堂の柱に、精進落としの鯉(しょうじんおとしのこい)が取り付けられている。お肉も口にできない巡礼の旅を終え、俗世に戻る意味が込められている。
現代は、お参り中でもお肉、食べるけどね。参道にある飲食店の看板に、鰻重とか飛騨牛とか味噌カツ定食とか鮎の塩焼きとか、色々書いてあったよ。じゅるり。

帰りは横蔵線のバスで揖斐駅へ。
こちらは昔の徒歩巡礼で通っていたルートに近いそうだ。
ちなみに、横蔵線の由来、終点の横蔵寺(よこくらじ)には即身成仏(そくしんじょうぶつ)のミイラがいるらしいので、折を見て行ってみたい。行きたいところだらけである。

養老鉄道の揖斐駅から大垣駅へ。
養老鉄道のサイクルトレインでは自転車の持ち込みが認められており、このときも数名の方がマウンテンバイクを押して乗車していた。
景色のよいところを自転車で走るのは気持ちがいいだろう。

旅の道すがら、興味の赴くままその都度横道に逸れながらも、満願を目指す。
人生もそのようなものかもしれない。

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第三十三番札所 谷汲山 華厳寺

読み:たにぐみさん けごんじ

住所:岐阜県 揖斐郡(いびぐん) 揖斐川町(いびがわちょう) 谷汲徳積(たにぐみとくづみ)23

公共交通機関でのアクセス:
①JR東海 東海道線 大垣(おおがき)駅より
樽見鉄道 谷汲口駅 下車
揖斐川町ふれあいバス 谷汲口線 谷汲山行き
谷汲口駅→谷汲山
停留所より徒歩15分
②JR東海 東海道線 大垣駅より
養老鉄道 揖斐駅 下車
揖斐川町ふれあいバス 横蔵線 横蔵行き
揖斐駅→谷汲山
停留所より徒歩15分
※樽見鉄道、養老鉄道は、ICカード不可。現金のみ使用可。
※揖斐川町ふれあいバスは、土日祝日は路線バス、平日は予約制の乗り合いバスとして運行。
※揖斐川町ふれあいバスは、2021年4月1日から土日祝日も料金が300円となった。現金のみ使用可。

入山料:無料
参拝時間:8:00〜16:30

宗派:天台宗
本尊:十一面観世音菩薩

主な行事:2月18日 豊年祈願祭 谷汲踊(たにぐみおどり)

創建:798年(延暦17年)
開基:豊然上人 大口大領

札所:
西国三十三所 第33番
東海白寿三十三観音霊場 第33番
東海三十六不動尊霊場 第33番

御詠歌:
(過去)万世の 願いをここに 納めおく
 水は苔より 出る谷汲
(現在)世を照らす 仏のしるし ありければ
 まだともしびも 消えぬなりけり
(未来)今までは 親と頼みし 笈摺を
 脱ぎて納むる 美濃の谷汲

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大垣八幡神社

読み:おおがきはちまんじんじゃ

住所:岐阜県 大垣市(おおがきし) 西外側町(にしとがわちょう)1丁目1

公共交通機関でのアクセス:
JR東海道線 大垣(おおがき)駅より
徒歩10分

拝観料:無料
時間:9:00〜16:00

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妙徳山 華厳寺

読み:みょうとくさん けごんじ
通称:鈴虫寺(すずむしでら)

住所:京都府 京都市 西京区(にしきょうく) 松室地家町(まつむろじけちょう)31

公共交通機関でのアクセス:
阪急嵐山線 松尾大社(まつおたいしゃ)駅より
徒歩15分

拝観料:500円
時間:9:00〜16:30


※上記は2020年8月時点の情報です。

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