繊維の問屋街、生地屋の二代目が作るオンリーワンのものづくり「墓まいりバッグ」
株式会社コモテキスタイル(大阪市中央区)
繊維製品や雑貨を中心に取り扱う問屋街「船場センタービル」にあるコモテキスタイルは、バッグに使う生地を専用に販売するお店です。二代目の川口健一郎さんは「生地の問屋」という枠から飛び出し、自社に新たな価値を生み出すべく商品づくりに挑んでいます。
会社を継承、生地のことを教えてくれたのは取引先でした
多くの繊維関係の商店が立ち並ぶ街の中でもコモテキスタイルが得意とするのは、国内の工場で特殊加工されたバッグ用の生地。主なお客さんはバッグメーカーやアパレルメーカー、そして自分でバッグを作りたい、というクラフトや手芸を趣味にしている個人です。
「船場にあるテキスタイル屋さんは総合卸の割合が高く、一軒で衣料品向けと雑貨やバッグ用の生地をお取り扱いのお店が多いです。うちのようなバッグ専門の生地しか扱わない店舗は珍しいんです」と川口さん。
川口さんは建築関係の学校で二級建築士の資格を取得。卒業後に不動産管理会社に就職しリフォームの仕事をしていましたが、先代の社長であるお父さまにがんが見つかり、コモテキスタイルを継ぐことにしました。
「亡くなる数ヶ月前に余命宣告されたんです。その時まで家業を継ぐことはまったく考えていませんでしたが、父が立ち上げたこの会社を潰してしまうことに、心が痛みました。どんな仕事をしているかはほとんど知らず、父も仕事についてほとんどしゃべることはありません。なんとなく営業職だろうなとは想像していましたが、どうにかなるだろうと深く考えず会社に入りました。しかしその月に父が亡くなってしまったので、ほとんど引き継ぎの時間もありませんでした」
業界のことや商習慣、生地の製法など自社の商売についてまったく知らなかった、という川口さん。さまざまなことを教えてくれたのは取引先でした。
「父がお世話になったたくさんのお取引先様に面倒を見ていただきました。本当に有難く思うとともに、父が遺してくれた財産の大きさに気づかされました」
2011年、川口さんの代になってからは、縫製の設備も整え生地の販売だけではなく、さまざまなバッグを作るようになりました。
特殊加工の生地が生まれる現場へ
川口さんが家業を継いだ時に生地の作り方を教えてくれた、という染工場さんにお邪魔しました。
染工場ではシルクスクリーンという技法で布の生地に絵柄を印刷。スクリーンと呼ばれる版に糊入りの顔料をのせ、絵柄部分に色をつけます。
こちらの生地は「フラッフィー」という特殊加工を施した生地です。手触りはフワフワでモコモコ。ベルベットのような起毛と表面がデコボコとした立体になっている独特な風合いが特徴です。この生地もこの工場で製造されています。加工前は表となるサテンと白いベースとなる布地の2枚で構成された滑らかな生地です。
まず表面に起毛の風合いを出すために「フロッキー加工」を施します。長さ25mの台に生地を張りスクリーンで糊をおき、その上に1mm以下の長さに切った細かいレーヨンの繊維の粉をふりかけます。ただ粉をふりかけただけでは繊維がバラバラになってしまい、ふっくらとした手触りにはならないため、繊維を同じ向きに揃える必要があります。繊維の向きを揃える際に静電気によって繊維の粉を立ち上がらせベースとなる生地に付着させます。
「この機械は手作りなんです。仕組みは電車のパンタグラフと一緒です。上の電線にはプラスの電気が流れていて台の上のレールにはマイナスの電気が流れています。上から下へと弱電を流すことで木の箱と布地の間に静電気が起こり細かい繊維の粉がきれいに立ちます」
フロッキー加工は、アメリカで開発され日本に入ってきました。高校野球のペナントや子供がままごとをして遊ぶ人形、バブルの頃にはスナックの名入れの玄関マットなどにも使われていました。衣料品やバッグに使われはじめたのは洗濯にも耐えられるように性能が向上してからです。全国にフロッキー加工を行う工場がありましたが、現在は日本に数社だけとなっています。
次に生地の裏側のみを縮めることで、表側に立体的に柄が浮かぶフラッフィー加工を施します。
粉を定着させる工程を経てフワフワモコモコの生地が完成し、コモテキスタイルに届けられます。
お墓まいりを日常化するバッグの開発
生地を学びおぼろげながら製法も理解できるようになった時に「バッグ専門の生地を売ってきたのに、バッグの作り方を知らない」と気づいた川口さん。勉強のためバッグづくりの教室に通うようになりました。
「生地と一口にいってもバッグと衣料品では道具も作り方もまったく違います。バッグの中でも布帛で作るトートや袋ものと皮革のビジネスバッグは違います。財布で小さいものを作るにはミシンも異なり、サイズも小さいので技術も必要。バッグの作り方の他にも生地の奥深さや繊維産業の業界事情についてもたくさん学びました」
こうしてバッグ製造の技術を身につけた川口さんは、OEMでバッグを作るかたわらでプロスポーツ選手やアイドルの衣装を縫製したり、演出の装飾なども手がけるようになりました。そして現在、自社ブランドのバッグづくりにチャレンジしています。
商品開発のパートナーはバッグデザイナーの小野恵さん。バッグ教室で川口さんが教わった先生です。
二人で考えた新商品は、お墓まいりに持っていくバッグ。線香やろうそく、数珠、おりんといった墓まいりの道具と財布やスマホが取り出しやすくなっている構造のバッグです。
「このバッグでお墓まいりを日常化してほしい、という思いで作りました。今年のお盆に帰省した際にお線香やライターなど墓まいりの道具を忘れてしまい、誰か持っているだろうと思っていたんですが、結局誰も持ってきていない、という経験をしました。その時、お墓まいりに必要なものを入れておける専用のバッグがあればいいやん、と思いました。
日々、たくさんの人が墓まいりに出かけます。このバッグがあれば、今まで行かなかった人がお墓まいりするようになってもらえるんじゃないかと思います」
小野さんがもっとも重視したのが、大きさです。
「あまり大きなバッグにはしたくないです。墓まいりバッグに重いものを入れることは想定していません。大きなバッグにすると中にたくさんものを入れたくなります。バッグづくりでは底の形で全部が決まってくる、といっても過言ではありません。サイズ感や生地の素材、形状、角を直角にするのか丸くRをつけるのか。どうやって使ってもらうかを想像して底を決めていきます。今回は墓まいりに使ってもらう、というコンセプトを大事にしたかったのでこの大きさにしました」
表地の生地には工場で特殊加工した「フラッフィー」を採用。「他の部分はシンプルなデザインにして特徴的な生地でインパクトを出したいです」とデザイナーの小野さん。3つの生地でそれぞれ2色ずつ、合計6パターンの展開になる予定です。墓まいりバッグの中の生地は撥水構造にし、線香の粉もさっと拭ける素材を採用しました。
家に置いているときはインテリアとしても違和感のないデザインにしました。このバッグの置き場所は仏壇の横ではなく玄関やリビング。美しい立ち姿に合うように、持ち手は丸型のアクリル製にしています。ストラップだと上に伸びたままだったり、垂れてしまうとだらしなく見えるからNG。お墓まいりに行くときの悩みでもある「遠い、時間を取られる」というイメージをもっと身近で親しみのあるものに、先祖や故人といった大事な人に着飾った特別なバッグをもって逢いにいく、そんな時間を演出できるようにネーミングを「逢う〜AU〜」としました。
バッグの枠にとらわれない、さまざまな生地で価値とプロダクトを生み出す会社に
商品を作ろうと考えたきっかけは、自社のもつ特殊な生地を生かしたい、という思いからでした。
「今までにないようなものを生み出したいと強く思いました。生地の販売やOEMでのバッグづくりを大事にしつつも、新たなお客様、販路を作る。バッグ屋といってしまうと今までと同じ枠の中で勝負をしなければなりませんが、『墓まいりを日常化する』というコンセプトのバッグを作ることで、自分たち自身で価値を生み出せるのではないか、と思いました」
バッグ用生地問屋という商売の枠から飛び出した、繊維の町の二代目が作る墓まいりバッグの完成はもうすぐです。
着飾るお墓まいり専用バッグ
【逢】AU
社名:株式会社コモテキスタイル
住所:大阪市中央区船場中央2ー2 船場センタービル5号館105号
連絡先:06-6271-1015