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Vol.10「奈良仏教」

お葬式をしない宗派があるなんて?!

「仏教はお葬式をするためにある」なんて、思ってませんか?
いやいや、仏教とは「仏さまの教え」、つまり学問なのです。

すべてはうつり変わるもの(諸行無常)。
すべては持ちつ持たれつ(諸法無我)。
人生は思い通りにならない(一切皆苦)。

こういった仏さまの教えを深く学ぶことを目的とし、
日本の仏教は「仏教」を研究することからはじまりました。  

奈良仏教系

飛鳥時代から奈良時代にかけて隋(中国)に派遣された遣隋使が、大陸から最新の仏教の教えを持ち帰ります。この時に伝えられたのが三論(さんろん)宗成実(じょうじつ)宗法相(ほっそう)宗倶舎(くしゃ)宗華厳(けごん)宗律(りっ)宗の六宗です。

のちに平安京が築かれる京都(北京)から見て南にある奈良で栄えたことから南都六宗と呼ばれます。また、奈良時代初期頃から存在した宗派のため「奈良仏教系」に分類されます。

当初は法相衆、華厳衆など「」ではなく「」の字を用いていました。学僧衆の集まりという意味です。この時代の宗派は「学派」と同義で、寺院は大学、もしくは研究所のようなものでした。学術的要素が強いため、檀家は存在しません。よって、これらの宗派では葬儀をあげません

南都六宗の中で現在も残るのは法相宗華厳宗律宗の三宗です。

法相宗(ほっそうしゅう)

653年、道昭(どうしょう)が唐(中国)に渡り、法相宗の開祖・玄奘三蔵から『唯識論』を学びます。玄奘三蔵、、、『西遊記』でおなじみの三蔵法師と言えば聞いたことがあるかも知れませんね。

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玄奘三蔵は天竺(インド)からたくさんの経典を中国に持ち帰り、その翻訳に力を注ぎました。『般若心経』も玄奘三蔵が訳したものが有名です。

法相宗の目的は、インドの思想『唯識論』の研究です。 唯識論(ゆいしきろん)とは、「ただ(唯)心(識)だけが世界に存在する」という意味で、この世の全ての存在を「識(心)」の働きで説明し、心を重要視します。

薬師寺(本尊・薬師如来)と興福寺(本尊・釈迦如来)を二大本山とします。京都の清水寺北法相宗の本山として独立しています。

ちなみに道昭は、日本で初めて火葬された人物として記録に残っています。(『日本書紀』)

華厳宗(けごんしゅう)

華厳宗は『華厳経』というお経に基づく宗派です。華厳経は数ある経典の中でも特に難しいとされています。経典には、お釈迦様が悟りを開かれた様子がそのまま書き綴られていて、解釈も解説もなく、どう理解するのかが難しいと言われています。

華厳宗の開祖は中国の僧・杜順(とじゅん)。新羅(しらぎ・今の韓国)の僧・審祥(しんじょう)が奈良で華厳宗の講義を開き、日本で広まりました。審祥の後継者で東大寺を開山した良弁(ろうべん)が、日本における華厳宗の宗祖とされています。

東大寺は八宗兼学といって、南都六宗に天台宗真言宗を加えた八宗を一度に学べる総合大学的な枠割を果たしていました。明治時代に「一寺院は一宗」という取り決めがなされ、まずは浄土宗の末寺になったあと、華厳宗総本山として独立しました。

東大寺のご本尊は盧遮那仏(るしゃなぶつ)、皆さんご存知の「奈良の大仏」さまです。大仏さまの前では「南無盧遮那仏(なむるしゃなぶつ)」と
唱えるのが正式です。大仏さまの手つきを「印相」と呼びます。右手をあげ、手のひらを前に見せた印相が「施無畏印(せむいいん)」、人々の恐れを取り除く約束をあらわします。左手をさげ、手のひらを前に向けた印相が「与願印(よがんいん)」、願いを聞き、その通りにするという約束をあらわします。

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律宗(りっしゅう)

律宗の総本山は、唐の僧・鑑真(がんじん)が建立した唐招提寺(とうしょうだいじ)です。本尊は東大寺と同じく盧遮那仏を祀ります。

律宗は「戒律宗(かいりつしゅう)」とも言いますが、その名の通り、戒律の研究実践に重きを置いた宗派です。

戒律とは、仏教で修行者が守るべき規律のこと。律宗では『四分律』という60巻からなる戒律聖典を研究し、日常生活の中で厳守する必要があります。

奈良仏教の葬儀

奈良仏教は経典の研究といった「学問」が中心のため、「布教」や「信仰」を目的にはしていません。
檀家は存在せず、葬儀の作法もありません。

奈良仏教の信者の場合、華厳宗なら浄土宗、律宗なら真言宗など、他の宗派の僧侶に頼んだり無宗教で営みます。

戒名のはじまり

こうして仏教は、日本で広がりはじめましたが、僧になるための儀式を知る者がなく、「戒律」を教える先生もいませんでした。そこで朝廷は、戒律を極めた鑑真を唐から招くことにしました。

当時の渡航は三割以上が命を落とす命がけの旅でした。鑑真も12年間で5回の渡航に失敗し、両目を失明。それでも6回目の渡航で遂に来日を果たしました。

鑑真は東大寺で400人以上の僧侶に戒律を授けます。これを授戒(じゅかい)といい、仏門に入る者に仏弟子として生きるための戒律を与えました。これにより授戒を受けなければ僧侶になることができなくなり、日本における僧侶の資格制度の基礎ができました。

授戒を受けた者には、新たな名前が与えられます。この名前が戒名(かいみょう)です。日本で初めて授戒を受けたのは聖武天皇で、「勝満」という戒名が与えられました。

葬儀の時に戒名を授けるようになったのは、室町時代からと言われています。戒名は本来、生前中に受けるものでした。
たとえば、戦国武将の上杉謙信と武田信玄。この名前も実は戒名です。

ご本尊について

ご本尊とは宗教の信仰対象となるもので、それらを模した仏像や絵(掛軸)のことをいいます。寺院の本堂や、お仏壇の中央に据えられているのが一般的です。

法相宗は釈迦如来薬師如来、華厳宗と律宗は盧遮那仏(毘盧遮那如来)。
真言宗は大日如来(だいにちにょらい)、浄土宗は阿弥陀如来(あみだにょらい)、曹洞宗は釈迦如来(しゃかにょらい)など。

如来とは、悟りを開いた者、つまり仏陀のことです。  

釈迦如来は、悟りを開いたお釈迦様の尊称です。釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ)、釈迦牟尼如来もお釈迦様のことです。(「牟尼」は聖者の意味)

阿弥陀如来は西の方角の極楽浄土の世界にいて、人々を極楽へ導く仏さま。

薬師如来は東の方角にある瑠璃光浄土にいて、「薬師」とあるように病気を治してくれる仏さま。

大日如来は宇宙の真理すべてを知る仏さま。「大日」とは太陽と同じ意味で、「密教」の教えでは宇宙そのものです。奈良の大仏である毘盧遮那如来も宇宙を表しますが、大日如来はさらにパワーアップした仏です。

如来の見分け方として一番簡単なのが、パンチパーマのようにカールした髪・螺髪(らほつ)。悟りを開いた仏陀には32の大きな特徴があり、螺髪は知恵の象徴を表します。日本で如来と呼ばれる仏像は、大日如来以外は螺髪です。

ちなみに、奈良の大仏さまには、螺髪が全部で966個もあるんだとか!
この数は、平安時代から東大寺に伝わる文献に記されているそうです。しかし、最新の技術を使った調査により492個だったことがわかり、1300年もの間語り継がれた定説が覆されたことが話題になりました。

まとめ

・奈良仏教は学問仏教
・戒名は授戒を受けた者に与えられる名前
・如来は悟りを完全に開いた人。仏陀。



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