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『イワノキツネ』№12

「お前たちに話がある」

棚にあった石をそれぞれ握りしめて、2匹は身をすくめて覚悟をする。ダンボールを片付けたおえらいさんが、まるで仁王様のように立ちはだかる。

「こんな大きな岩が防災倉庫にあっては邪魔でしょうがないな」

2匹は頷く。

「それに長雨とダンボールのせいか、どうにもカビくさい…」

2匹は黙っている。

「この倉庫は用品庫として使うことにする」

2匹は石をぎゅぅっと握りしめる。

「備蓄食料は別な場所で管理する」

おえらいさんはそれだけ言うと、スマホを取り出し、どこかへ電話をする。2匹はずっと生きた心地がしない。しばらくすると、8番目の相談者、商店街のおやっさんが興奮しながら軽トラでやって来た。

おやっさんは、倉庫に鎮座する白い岩を見るなり「今度は岩になりやがったか!」と笑っている。おえらいさんが「本当にこれで良いのか?」と確かめると、おやっさんは豪快にガハハと笑った。

「良いも悪いも万馬券だよ万馬券!八百八の煮物がうめぇから、試しにあの石にあげてみたんだよ。そしたら来たじゃねぇかよ!俺の馬がよ!」

おえらいさんは、いささか呆れている。

「倉庫のキツネがほしいそうなんだよ」

猫さんは一瞬、エッと思った。世話と食費のかかるキツネだったが、こんな立派な尻尾を持つキツネが側にいることを、内心誇りに思っていた。

「それだけじゃない。ここ最近、町内会に入りたいだの、余った猫のご飯を届けたいから倉庫の住所を教えてくれだの、妙な電話が多くて困っているんだ」

チョビヒゲ猫はハッとする。

おやっさんは得意げに岩になったキツネに肩を組み、パシパシとキツネの岩肌を叩く。

「それがコイツのご利益ってもんだろぉ!なぁ」

事はどうあれ、突然のキツネとの別れに、猫さんは心の整理がつかなかった。キツネの居場所を探すのが目的なのだから、おやっさんに引き取られて本望じゃないか…

「引き取って、次の馬が来なかったらどうする」

どうにもいぶかしげなおえらいさんが、改めておやっさんに聞いてみる。

「叩き壊してやるさ」

おえらいさんと2匹の猫は、うぅむと唸った。









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