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『あらわれた世界』№7

世界では洪水が起きていた。

小野さんは夜の闇に消えてゆくメジェドの方角を見極めると、猫さん達が振り落とされないようメジェドが消えた方角とは逆の方向へと原付きを走らせる。

「え?追わないんですか?」

背中に乗っていたチョビヒゲ猫が思わず小野さんを覗き込むと、小野さんはいつになく深刻な顔をしている。

「間に合わない」

小野さんは、チョビヒゲ猫を背中に乗せ、猫さんを抱っこしながらスピードに任せた原付きを駐車場に突っ込む。小野さんはかつて猫さん達が住んでいた井戸のある公園に走ると、おもむろに足で円を描き、両猫達にしっかり掴まるようにと伝え、聞いたこともない不思議な言葉を3首唱えた。

すると、公園の井戸の蓋がカタカタと音をたて、地面に描いた円が砂埃と共に浮かび上がり、縦横無尽に回転しながら小野さん達を包み込むと、カプセルのような丸い球体になり、宙に浮いた。

浮いた球体に包まれた小野さん達が球体の中でバランスを崩していると、バリバリと公園の空間に切れ目が入った。破れた空間の内部は暗黒で凄まじい乱流のようだったが、カプセルは躊躇もなく裂けた空間に突入していった。

「ニャ〜」

猫さんは頼りない声を出したが、なぜか自分の声が聞こえない。チョビヒゲ猫は突然現れた漆黒の闇に震えあがり、小野さんの腕に噛みつく。小野さんも球体の中で何か叫んでいたが、球体はおかまいなしに、これまで体験したことのないスピードで、突如出現した暗黒の世界を突き進んだ。




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