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『あらわれた世界』№3

不思議な事は更に続いた。

猫さんの尻尾が2本になっていた時期を知っているはずの小野さんが、自分にはその記憶が無いと言いだした。チョビヒゲ猫は愕然とし、小野さんはその時期に共に同じ時を過ごしたはずだと主張しても、小野さんは本当に知らないようだった。

チョビヒゲ猫は突然1人になったように感じ、自分の頭がおかしくなったのかと不安になった。

その頃、ちょうど長い旅を終えたお偉いさんが会館に帰ってきた。お偉いさんは、居間に散らかった本を拾い上げ、綺麗に整えると小野さんに本を返した。お偉いさんはおもむろに会館の庭に出て、裏の井戸や物置付近を見て回った。

チョビヒゲ猫が居間で不安そうにニャーニャー執拗に鳴くので、お偉いさんはチョビヒゲ猫を抱き上げて長い留守番に感謝する。夜に小野さんが会館に立ち寄ると、お偉いさんは旅のお土産を広げて、猫さんはお茶をふるまった。

小野さんはお茶をすすりながら、猫さんが精神的混乱に陥り、チョビヒゲ猫は献身的にお世話をしたので、少し疲れているのではないかと話すも、チョビヒゲ猫は疲れていないと言い張った。

チョビヒゲ猫と小野さんはまだ折り合いが悪く、しまいにはチョビヒゲ猫が小野さんのお茶を持つ手をガブリと噛み、湯呑が手から落ち、お土産はお茶にまみれ、水がキライな猫さんが咄嗟に跳ねてちゃぶ台はひっくり返り、あっと言う間に居間はめちゃくちゃになった。

お偉いさんは、混乱が好きなのか、おおらかに笑いながらちゃぶ台を元に戻す。慌てた猫さんがパントリーから雑巾を持ってくると、小野さんがぶつくさ言いながらお茶を拭き取った。チョビヒゲ猫は怒りがおさまらず、背中の毛を立てて部屋中をオラついていた。

居間が整うと、お偉いさんは、最近世界で起きている奇妙な出来事について静かに語りだした。



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