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『イワノキツネ』第2部 №1

グラグラと、大きく地面が2回ほど揺れた夜に、ドンドンと自治会館の扉を叩く音がする。猫さんは一度寝るとしばらく起きないので、しぶしぶチョビヒゲ猫が扉を開けると、誰もいない。

おかしいなと周りをキョロキョロしても誰もいない。チョビヒゲ猫はイタズラと思い、扉を閉めようとして思わず叫び声をあげた。玄関戸の下に大きな白ヘビが平たく横たわっている。さすがの猫さんも目を覚まし、軽い気持ちで玄関に来て、やっぱり悲鳴をあげた。

2匹がおののいているうちに、ヘビは当然のようにスルスルと会館へ入っていった。猫さんは「パントリー!パントリー!」と叫びながらチョビヒゲ猫を前に押し出し、一目散に外へ飛び出した。猫さんは、大きなヘビが大の苦手だった。

チョビヒゲ猫は、キツネの前例もあってか、面倒な事になりそうだと直感する。シロヘビは先日までキツネが居た板の間で止まると、大きなトグロを巻いた。それはまるで立派な鏡餅のようで、チョビヒゲ猫はとっさにミカンの缶でも置いてやろうかと思う。猫さんは和室に庭から回り込み、じっと身を潜めて、中の様子をうかがっている。

シロヘビは、さっそく板の間でキツネと同じように下から石化を始めたが、頭まで固まると、突然バリンと大きな音をたてて割れ、すぐにバラバラになった。そして中から一回り大きなシロヘビが現れ、それは音もなくスルスルと迷うことなく会館の奥へと進んでいった。

板の間に残された石の破片からは、なぜか子供の泣き声が聞こえた。チョビヒゲ猫はそのあまりの不気味さに恐怖しかなかったが、スルスルと軽快に進む白ヘビの動きを見て、なんとなくおキツネ様ほど警戒しなくても良さそうな気がした。

猫さんは生きた心地がしなかったが、チョビヒゲ猫は冷静だった。白ヘビはここを通り過ぎるだけで、悪さはしないだろうと先回りして、自治会館の勝手口を開けると、案の定ヘビはそのまま会館を出て、お隣のブロック塀の間にスルスルと入っていった。ほどなくしてお隣さんから悲鳴が聞こえたので、やはりあの白ヘビはどこかへ行く途中なのだろうと、チョビヒゲ猫は推測した。

大きなヘビが苦手な猫さんは、恐る恐る和室に入ると、板の間に散らばっているヘビの残骸を見て、また悲鳴をあげた。しかも白い破片が各々メソメソと泣いているので、猫さんは頭がおかしくなりそうだった。勝手口をしっかり施錠したチョビヒゲ猫が狼狽を笑ったが、板の間で石の破片が泣き続ける光景は、チョビヒゲ猫が見ても異様だった。






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