『北方の地で』No.26
ヘリの要請を出したのは、かつての大家さん宅に嫁いだお嫁さんだった。チョビヒゲ猫達はすっかり南国にいると思っていたが、潮に流されて日本国内に漂着していた。
かつての大家さんは高齢で入院していて、代わりにお嫁さんが帳簿を整理していた所、猫さんが井戸から行方不明になった2ヶ月分のお家賃が未払になっており、請求の為に捜索願いを出したそうだ。
イテリメンとその国の長と大きな犬は、一連の手続きを経て自国へと帰され、猫さんとチョビヒゲ猫は、とりあえず大家さん宅で一時預かりとなった。
高齢の大家さんはツケ払いを許していたが、度々行方不明になっては困ると、猫さんがお家で寝ている間に、こっそり猫さんの体にマイクロチップを埋め込んでいた。確かにお嫁さんが黒い板を操作すると、大家さん宅がチカチカと点滅した。
マイクロチップの行動履歴から、猫さんは北から西へと移動した後、大きく南へ流されて、チョビヒゲ猫達と同じルートで国内に入っていた。猫さんが最初に降り立った奇妙な離島に関しては、なぜか通信エラーで表示されなかった。
黒装束と旅をしていた頃の猫さんは、異国でのムックリ演奏で大変裕福になったが、度重なる漂流で完全な一文無しになっていた。猫さんはお嫁さんに自分がスッカラカンであることを見せると、かつての大家さんが退院するまで、3食昼寝付で猫さんはお店番の手伝いを、チョビヒゲ猫はネズミ取りで返済とすると言ってくれた。猫さん達は2つ返事で承諾した。
2匹は何年かぶりに安心して人間のフカフカなベッドで眠った。翌日は朝から猫まんまと暖かいミルクを頂き、2匹は張り切って働いた。
猫さんが店先で昼寝をすると、大家さん宅に立ち寄ってくれる人が増え、チョビヒゲ猫はネズミだけでなく沢山の虫も捕まえた。猫さん達の噂を聞きつけ、寝そべって猫さん達を撮影する猛者が現れ、突然大家さん宅は全国的に有名になった。
2ヶ月分のお家賃どころでは無い規模のお返しをした猫さん達は、久しぶりに休暇を頂いたので、近所に鎮座するパニーニに会いに行った。
パニーニはすっかり苔まみれになっていて、コンコンと叩いても何も返事が無かった。パニーニもついにそうなるのかと2匹が帰ろうとすると、ブルルンと身震いしてパニーニが起きた。体に耳を当てると、聞き取ることは出来なかったが、確かに生きてはいるようだった。
安心した2匹は、今度は珈琲屋さんのマスターに会いに行こうと、猫さんはしっぽを立てて、チョビヒゲ猫は大きく背伸びをして、懐かしい珈琲屋さんへと走っていった。
おしまい
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