見出し画像

深夜0時の大宮駅で、オリ姫に話しかけようか迷った話

去年9月のこと。
この日は、シーズン最後となったベルーナドームでの3連戦。
山本由伸と今井の投げ合いを現地で見たいところだったが、コロナ禍以降会っていなかった大学部活の同期会が行われたため、私は東京駅の八重洲口で焼肉を食べていた。

ひとしきり昔話に花が咲き、帰路についた東京駅のホーム。
上野東京ラインの電車を待つ間に、速報をチェックすると、山本由伸がしっかりと今井に投げ勝っていた。

ふと周りに目をやると、ジャイアンツのユニフォームを着た人がぞろぞろと歩いてきた。
東京ドームの帰りだろう。随分遅いなと思ったら、延長11回サヨナラ勝ちだったらしい。
サヨナラ勝ちを見届けたジャイアンツファンのユニフォーム姿はまぶしかった。
マッコリの酔いがまわってきた。

私はオリックスのユニフォームを着ることがない。

関東在住のため、基本はアウェー観戦ということもあるし、外野応援席というより内野席でゆったり観る方が好きだし、かといって内野席で「私はオリックスファンです!」と宣言するほど自己主張したいわけでもないし、一緒にユニフォームを着て応援してくれる連れがいるわけでもないし、見ず知らずの人からの「なんで関東でわざわざ万年Bクラスのオリックスファンやってるの?」という視線が気になるし、、、

試合後のスタジアム周辺ならまだしも、帰りの電車の中でもユニフォームを着て自宅に帰るなど、私には到底できそうもない。

楽しそうなジャイアンツファン達を横目に、少し羨ましく思いながら、遅延した上野東京ラインに乗り込み、大宮駅で下車する。
一緒に乗り合わせた3組のジャイアンツファンは、大宮に着く頃には見当たらなくなっていた。

眠気と戦いながら、大宮駅で東武野田線に乗り換える。

東武野田線など、誰もご存じないだろうから少しだけ補足をすると、大宮駅を始発駅に、クレヨンしんちゃんでお馴染みの春日部を抜け、千葉の柏の方まで伸びる地味な私鉄である。
野球ファンの皆さんには、日ハムの二軍球場がある鎌ヶ谷駅が通る路線と言えばわかる方もいるかもしれない。

日本屈指のターミナル駅で「鉄道の街」として知られる大宮駅だが、野田線の改札だけはその存在が隠されているかのようにポツンと離れたところにある。

時刻は深夜0時になろうとしている。
20分に1本しかない電車に飛び乗ろうとしたその時だった。
見慣れたユニフォームが視線に入る。私は人生で一番美しい二度見をした。

「MIYAGI・13」
その若い女性は、オリックスのホームユニフォームを着ていた。


疲れたサラリーマンや飲み会の後の大学生の中で、その純白のユニフォームは、かぐや姫の竹が光るかのように輝いていた。

私はそのオリ姫の後ろ姿を凝視しながら、戸惑いを隠しきれないまま、隣の車両に乗り込んだ。
すると今度はビジター用のユニフォームを着た別のオリ姫に出会った。

私はパニックになった。
これは、パラレルワールドなのか!?

埼玉で、東武野田線というローカル路線で、深夜0時になろうという深夜に、若い女性が、こともあろうにオリックスのユニフォームを着ている。しかも2人もだ。

あまりの嬉しさに、思わず話しかけようかどうか迷うアラフォーの酔っ払い。

「オリックスファンなんですか!?」
「今日ベルーナドーム行ってたんですか!?」
「オリックス勝ちましたね~、さすが山本由伸ですよね~。」
「私、去年のリーグ優勝が決まった仙台も、日本一が決まった神宮も現地だったんですよ~」

いや、ダメだ。
どんな言葉を使っても、オリ姫に怪訝な目で曖昧な返事をされ、周りの人から冷たい目で見られるだけだ。
いや、返事をされるだけならまだいいかもしれない。下手したら通報されるかもしれない。

「宮城推しなんですね。颯一郎じゃなくて!?」という心の中でのツッコミをグッと飲み込み、私はオリ姫から遠く離れた車両に移動した。

彼女たちが何駅で降りたかはわからない。

万が一同じ駅だったら思い切って話しかけてみようかなとドキドキしていたが、私が降りた駅で見かけたのは「MATSUZAKA・18」の西武ユニフォームを着たオジサンだった。

パリーグ3連覇という事実よりも、大宮にいるオリ姫2人が、オリックスが強くなったことを証明している。

次回の観戦時には、思い切って自宅からユニフォームを着ていこうかなと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?