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一挙両得2の3 織末彬義【創作BL小説・18禁】

第二十一章
 
 個室の宴会場で一堂が揃い、和気あいあいとした夕食を終え、最上階の部屋に戻る。
 着いてすぐ着替えただけでプールに直行していた。
 改めて、二泊する部屋を確認しながら、部屋の割り振りをしていく。
 小学生の子供四人は広いリビングのソファセットを壁際に寄せ、布団四組み敷き詰めてある。
 家では小学校に入学すると同時に個室が与えられる。
 兄弟が一緒に寝るのはこんな旅先くらいだ。
 敷き詰められた布団に、仁、悟、華、渉が寝る。
 そこに丈に、傑の長男、兄弟の甥っ子の将が兄達の寝床に上がり込み、一緒になってはしゃいでいた。
 
 高校になった麗は小学生の弟達と寝るのは嫌だと言い、実母のすみれとツインで寝ることになる。
 雪子が佐波と同室になろうとすると鼎三が咳払いをする。
「雪子、丈の面倒があるだろ。」
 丈の面倒は佐波と同室でも可能ではある。
 父の鼎三は我が子の出生時の戸籍が実母となり、両親が揃うように結婚離婚をこの三人の女達と繰り返した。
 今は最初の妻である雪子と再婚している。
「そうね」
 雪子は微笑み、さらりと夫に同意する。
 すみれは美容室を開く開店資金を貯めたくて雪子のクラブにホステスとして働いていた。
 その当時は次子が欲しいと熱望する鼎三と、傑を産んで、子を産む我が身のあまりの大変さに懲りてしまい、頑強に拒否する雪子との夫婦関係が最も冷え切っている時であった。
 美貌だが、すみれはクラブ勤めがどうしても性に合わず、相談を受けた雪子に思わぬ提案を受けた。
 雪子は女でも事業に対し並々ならぬ野心がある者がいることを理解していた。
 煩わしい恋愛や結婚という虚飾の奴隷にならず、自分の子供が持て、店も開店してくれると言う。
 そんな提案を受けたすみれに断る云われは一つも無かった。
 これで店の経営が上手くいかなければ、そんな想いも変容したかもしれないが、すみれはそうはならなかった。
 店を開店でき、麗と仁を産み、雪子は身内として、ずっと優しく面倒をみてくれた。
 すみれが三人目を望まず、数年経過して、悟が産まれるとなり、離縁したが、子は鎹(かすがい)。
 すみれが海吉家の一員であることに揺るぎがない。
 それが、すみれにも丁度良い立ち位置だ。
 
 麗で子供の可愛さに目覚めた雪子は、悟を生んだものの妊娠出産は自身に合わないとつくづく実感をすることとなった。
 子煩悩な鼎三は四人の子が居ても満足していない。
 
 そんな頃、佐波は父を亡くしたことによる店の跡目争いで、危うく負け組にされるところであった。
 若女将として地に足をつけ懸命に働いてきたのに、父の兄弟に実権や利益を奪われた。
 どうにも立ちゆかなくなり伝手を頼り、あまりに巧妙過ぎて、弁護士ですらお手上げの案件を海吉に相談した。
 初会見の日は、難しいと難色を示された。
 もう行き場なく追い詰められていて佐波は意気消沈するしかない。
 このまま放っておかれるのだろうと思っていたら、夜に電話があった。
 もし、良ければもう一度面会に来て欲しいと言われる。
 身内の問題だから、他人として介入はできない。
 こちらも身内としてなら、バックアップできると、示された条件は願ってもないことであった。
 このまま手を拱(こまね)いていたら、いずれ父が手塩にかけた料亭から、首にされるに決まっていた。
 料理だけでなく経営の才能に溢れた兄に対しては、従順を装っていたが、幼い頃から、佐波は叔父叔母達から、父にばれないような些細な態度で邪険にされ続けていた。
 父が亡くなった時点で窮地は判っていたが。
 それは想像以上に酷く手を打つ術がなく、急速に居心地が悪くなっていった。
 華と渉を産むにあたり、資金面は海吉が援助してくれた。完全な別経営として、父が築き上げた料亭の名を使えるように根回ししてくれた。
 父の弟子筋を板前として確保し、父から継承する味を保つだけでなく、より華やかに昇華することが出来ていた。
 尊敬や感謝の気持ちは尽きることは無いが、恋愛とは違った形の関係なのは確かだ。
 雪子と同室でも楽しいと思うほど、姉妹のように女同士の仲は良好だ。
 父としての鼎三は子煩悩だ。
 部屋の割り振りを決め、荷物を移動すると家族は自然とリビングに集まる。
 布団で遊ぶ子供達を観ながらの酒席だ。
 暴れん坊な小中学生がはしゃいで暴れている。
 将がテテッと走り寄り、それに気付いた丈が立ち上がる。
 横に揺れつつ、よちりよちりとゆっくりと布団に近づいていく。
 足のラインがなよやかでなんとも愛らしい。
 丈の黒髪はくしけずるだけで艶やかな光沢を放つ。
 肩に届く毛先がくるりと巻いており、惜しくて誰も丈の髪を短くしようと言わない。
 まだ、将もおむつが外れず、おむつ幼児組みが布団プロレスに参戦した。
「あ、将と丈が来た。」
 仁が甥っ子を抱き上げ回転する。
「うひょ~」
「おおぅ」
 体格差があっての振り回しに将が喜ぶ。
 丈は寝転がった悟に飛行機をしてもらう。上手くバランスをとり楽しそうだ。
 ひとしきり暴れると、トランプ遊びを始める。
 麗もそれには参加する。
 初めは兄姉の膝の上で参加気分でいたが、飽きて丈と将は後ろをちょろちょろし始めた。
 飽きないようミニカーや飛行機、変身グッズなどを適宜、渡される。
 一緒に遊んでるよーな、遊んでないよーなゆるい感じで家族団欒を過ごす。
 
 
 
第二十二章
 
 ふと、大人が気づくと丈は寝転がり、指しゃぶりしている。
 もう寝落ち寸前だ。
 半眼にしていた瞳をゆるりと引き上げて近づいて来る相手を観る。
 それが長兄だとわかると丈の瞳は安心しきりとなり虚ろとなる。
 瞳が眠気に閉じてゆき、音たて指しゃぶりを再開する。
 もう完璧に寝そうだ。半端に起こすと寝なくなるから傑が丈をそっと慣れた動作で抱き上げる。
 晩酌中の父に寝かせつけを頼まれた。
 傑の妻も息子を膝枕して呑んでいた。
 傑は酒豪だが、家族の中で一番、お酒に執着がない。
 丈をベッドルームに連れて行く。
 移動すると半分覚醒し、再度寝入るまで人が側にいないとならない。
 丈は一人寝が出来ない甘ったれだ。
 傑は丈が寝る部屋で、寝かせつけに横になる。
 丈は傑の懐の中に入ってくる。脇にぴったり寄り添う。やわらかなベビーの感触が心地良い。
 傑は丈の背を優しく撫で、眠りを即す。
 明日もあるからと酒席を切り上げ、父と雪子が寝室に行くと。
 一番上と下がすやすや眠っている。
「蓮美さん、こちらで寝て」
 傑の妻を呼び止める。
「えっ雪子ママ」
 将を抱いた蓮美が驚く。
 こちらは主寝室だ。
「丈は抱っこできるが、もう傑は抱っこをするには大きくなった。」
 父が穏やかに笑う。
 どちらも我が子だ。
「おやすみなさい。」
 父は寝入っている丈を抱き上げ、隣の寝室に移動する。
 
 
 

第二十三章
 
 旅先での全体の行動は朝8時半の朝食からだが。
 夜明けに、旅行の楽しさで目が覚めて温泉に行く子供達もいる。
 中学以上の子達はモバイルからラインに行き先を入れておけば下の弟妹より自由さがある。
 小学生は、大人を一人付き添いにすればやりたいことができた。
 時間が許せば様々なイベントを計画する家で育てられている兄弟達は大勢での行動に慣れている。
 
 丈は本気で寝だすとなかなか起きないことがある。
 昨日、興奮して昼寝の時間が短く、朝食の時間でも丈が起きない。
 雪子も丈が起きれば、丈可愛さに旅先であれば朝早くも辞さないが。
 その丈本人が寝ていては、夜の女王である雪子も起きてこない。
 子供も大人も父の部屋の前では音を立てないようにする。
 父はきちんと起き、八時半の朝食を起きられないメンバーを抜いて一緒に食べる。
 昨日の集合場所を押さえてあり、昼食はお腹が空いたらそこに行くよう指示された。
 自宅での長期休暇中は基本、朝昼晩は一律の時間にして生活のリズムを図るが。
 出先で思いっきり遊んでいる時は、年齢によってエネルギーの補給時間はまちまちだ。
 適宜とるのが重要であり、大切だ。
 一階の部屋ごとに用意された個室食事ルームからプールに直行する我が子を見送る。
 彼らには、丹原を筆頭に数名の護衛もつける。
 古参の中原と山中を連れ、海吉は部屋に戻る。
 妻の雪子と末子の丈がまだ部屋にいる。
 
 広い部屋が森閑としていた。
 二人はまだ寝ているようだ。
 リビングで中原と山中は足を止める。
 父の海吉は寝室に進んだ。
 静かに扉を開く。
 雪子は起きていた。
 扉を開くと、家族でわかるジェスチャーで静かにと合図していた。
「‥‥」
 海吉は掛けようとした声を呑む。
 パチン、パチンと爪を切る軽やかな音がする。
 傍に寄ると、丈はスヤスヤ安眠中だ。
 親の職業からするとなんともなことに丈は刃物を嫌う。
 起きている時に爪を切ろうとするとギャン泣きをするようになった。
 最近は、髪も切らせてくれない。
 どこで怖い思いをさせたか、幾ら考えても思い当たらない。
 何しろ恐ろしく慎重で気紛れなおチビちゃんだ。
「のびてるな」
 小さな爪を確認する。
「薄いから切らないと、自分で怪我するのよ」
 雪子は起こさないように慎重に爪を切っていく。
「良く寝ている。可愛いな」
 雪子は幸せそうに微笑み頷く。
 夫ほど、たくさん我が子が欲しいと切望しなかったが、育ててみると、思った以上に子供が好きだった。
 子を切望する夫の子であれば、自身の子でなければという拘りが雪子に無かった。
 海吉の子であれば、分け隔てなく接している。
 渉まではそうしていたが。
 外観が違う丈には、我が子扱い以上に綺麗なものに対する憧憬が追加されていた。
 麗しき見目に似合う衣服を着せたいし、着せたら、あまりの可愛さに写真も撮りたい。
 
 小さく可愛らしく、何をしても丈に対して怒る気にならない。
 どうしても丈は海吉家の中で別格の扱いになる。
 渉ですら、兄達に果敢に立ち向かうとは違う行動を弟の丈にしていた。
 丈に対しては優しく面倒見がいい。
 それより上の兄弟は何をかいわんやである。
 
 爪切りをしまい、振り返ると丈が瞳を開く瞬間を見る。
 丈は動かず瞳だけを動かして周囲を確認する。
 赤ちゃんの頃からの癖だ。
 上を観たり、左右を観たり、大きな瞳の表情の豊かさに家族は息を呑んでいつも見惚れてしまう。
「まんま、ぱっ」
 父と雪子を見て丈が声を発する。
 二人の表情が甘く笑み崩れた。
 やっと言葉を発し始めていた。
「丈、ごはん?」
 寝返り、のびをする。
「丈、だっこか?」
 父は待ちきれず、丈が起き上がる前に抱き上げた。
「んんぅ ふぁ あふぅ」
 ぴたっと父に身体を預けて、目を擦る。
 リビングに来て、ルームサービスが可能か確認する。
 ルームサービス致しますと厨房から返答を受け、朝食の用意を頼んだ。
 ほどなく朝食が運ばれてくる。
 食べ終えている父は珈琲。
 雪子と丈の朝食が用意された。
「朝ごはん食べたら、プールに行きましょうね」
 寝起きで気乗りしない様子の丈に雪子ママは話しかける。
 丈は雪子ママを瞳だけで見上げ、口を大きく開けた。
 兄姉の気配がなく、皆プールに行っているのだと気付く。
 それなら早く食べてプールに行きたい。
 素直に口を開いてパンを頬張る。
「美味しいか?」
 丈は小さく頷く。
「昨日の晩も美味しかったけど、このホテルごはんが美味しいわね」
「そうだな、階下のブュッフェの朝食も旨かったぞ」
 珈琲を飲みながら鼎三は雪子に応える。
 
 丈はプールに興味を示さず、遊園地で乗り物に乗るのを気に入った。
 何度も繰り返し乗りたがる。
 かわるがわる一緒に乗って丈が満足するまで付き合ってくれた。
 
 
 プールと遊園地が併設されたホテルライフを二泊三日家族で目一杯満喫した夏休みであった。

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