一挙両得2の1 織末彬義【創作BL小説・18禁】

【バキャク】シリーズについて
 家族に溺愛されている超絶美形のやんちゃ受、海吉丈みよしたけるが一目惚れした医学部の男、瀬守凱斗せかみかいとの実態は……受がいつもとちょっと違うけどやっぱりハーレクインな織末彬義らしい学部違い同級の大学生のBL恋物語💓

『一挙両得1』はバキャクの続編と丈の幼少期の2部構成。
こちらは『一挙両得2』に掲載する丈の幼少期の続きとなります。

同人誌販売BOOTH 『バキャク1~2』『一挙両得』
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登場人物紹介

海吉丈みよしたける幼少期篇】

丈誕生時の年齢表
鼎三ていぞう‥兄弟全員の実父
兄弟
すぐる‥長男、十八歳・生母雪子
うらら‥長女、十五歳・生母すみれ
じん‥次男、十二歳・生母すみれ
さとる‥三男、十歳・生母雪子
はな‥次女、七歳・生母佐波さわ
わたる‥四男、四歳・生母|佐波
たける‥五男、零歳・生母不明
 
兄弟の甥
まさる‥傑の長男一歳・丈の一歳上の甥


第十一章
 
 丈が誕生する頃には、家業もすっかりと安定している。家族に心身の余裕があるのもあるが、丈の成長はとてもゆっくりとしていた。
 幼さや愛らしさと、極めて美しく整っているは丈の容姿を表現するのに並列する。
 そんな丈はふとした拍子に大人びた表情を魅せる。
「丈、どうした?」
 頬杖ついて窓の外を見ている丈に悟が尋ねる。
 一歳を過ぎ、早いと言葉の片鱗を発し始めるが。
 丈にまだその兆候はない。
 問いかける悟に視線を流し、瞳を半分閉じる。
 そうすると綺麗にカールする長い睫毛が強調された。
 やはり言葉での返答はない。
 ゆるりと瞳が閉じられ、悟は丈の美貌を観察する。
 
 人形みたいじゃ丈をあらわす言葉が足りない。
 足りないが、丈を表現する近い言葉はそれになる。
 三男で十一歳の悟にとって、すぐ下の五歳の渉とは兄弟としての連帯意識が強く、一緒に遊んだり、イタズラしたり、時に本気で喧嘩する。
 渉がまだ今の丈より小さい赤ちゃんだった頃に、渉の手からせんべいを奪って叱られたのを覚えている。
 その途端、渉から哺乳類で殴られた。
 確かに悟もまだ幼かったが、兄弟とはそういうものだったのだが‥。
 渉は同年齢の赤ちゃんの頃と比べても今の丈よりもがっしりしていた覚えがあった。
 
 丈は未だ安易に触れたら、壊してしまいそうな危うさがにじむ。
 母や姉妹達が蝶よ花よと丈を目で可愛がるのもわかる。家族の誰もが、丈を乱暴に扱う気は起きない。
 丈が兄の悟ににじり寄り、悟は這い寄って来た丈を抱き上げて素直に膝に座らせた。
 
 末弟を膝に乗せ、二人でテレビをのんびりと観る。
 そんな日常が続いている。
 
 
第十二章
 
 よたりっ よたりっ
「ナニあれ」
 廊下のかなり向こうで茶色の小さな物体がもこもこ動いている。
 気が付いた二人は学校の廊下にある筈もないモノに視線をらす。
 階段を下り、最初に見つけた女子が立ち止まる。
「どうしたの?」
 後ろを歩いていた友人が、前の子が見ている方向を見る。
 学校の廊下である。
 普段なら有り得ない光景だ。
 幽霊か、妖怪かと逃げ出してしまうところだったが、彼女には年子の兄弟がいた。
「今日一年は保護者会だよ」
「保護者会」
「あ、迷子」
 同時に叫んでいた。
 慌てて走り出す。
 一歩、一歩を踏みしめるから身体が左右にぶれる。
 お尻をピコピコ揺らしながらゆったりと歩いている。
 近づけば、近づくほどなんともかわゆい。
 追いついた、そのまま追い越す。
 幼児の動きを驚かせないように前から止めようとして、振り返った少女二人とも悲鳴をあげた。
 コグマの着ぐるみを着た幼児はいきなり進行方向を見知らぬ相手に立ち塞がれ、一瞬にして輝く瞳に不機嫌さを宿す。
 瞳を怒らせた。
 それでも愛らしさは失われない。
 幼き者の豊かな表情に魅かれ二人はしゃがんだ。
 怒っていても可愛い。
「お名前は?」
 耳つきのロンパースは爪先までオールインワンだ。
 フードからこぼれる黒髪はくるんくるんの巻き毛だ。
 瞳が大きくきらきらと輝いているおそろしく可愛らしい幼児だ。
 名前を聞かれても応えない。
「いくつ」
 名前は答えないが、指をひとつ立てる。
 小さな手だ。
 桜貝のような爪が綺麗だ。
「一歳なの」
「えらいね~」
 誉められ、へへんと得意気な顔をする。
 とても表情豊かだ
 話さないが。言葉は通じているらしい。
「ちょっとどうする」
「兄弟が、何組か、わかんないよね」
「職員室に連れてく?」
「そだね」
 一つ一つ教室を当たり、行き違っては困る。
 職員室に行けば、アナウンスも出来る。
 少女二人はどちらがコグマを抱き運ぶかで揉める。
 抱っこしようとすると明確に拒否られる。
 全身で抵抗する。
 結局可愛いいが頑固なコグマは二人と手を繋いでいた。
 二人が時々、繋いだ手で宙に浮かせてくれるので大人しくしている。
 しばらく歩くと立ち止まった。
 首を傾げて、もう歩きのがやんなったと態度で示す。
 進もうとしないコグマは抱いていくしかない。
 二人はジャンケンで決める。
 背の高い後から階段を降りた佐野美奈子がコグマを抱き上げることになる。
「うわ、ふっわふっわ かわいいッ」
 もこもこのロンパースはぬいぐるみと同じ生地で出来ているようだ。
「かわいい」
 爪先までもこもだ。
「いいなぁ私も」
これほど見事だと独り占めする気にならない。
 佐野は鈴原にコグマベビィを渡した。
「うはぁナニこれすごーいぬいぐるみよりかわいい」
自宅にある最高に抱き心地がいいぬいぐるみよりもちもちして肌触りが良い。
 鈴原は抱いた幼児を抱き締めてから佐野に返す。
 ジャンケンに勝った佐野が職員室に向かう途中で立ち止まる。
「はい、順番」
 佐野は鈴原にコグマを差し出した。
「いいの?」
 嬉しそうに鈴原はコグマを受け取る。
 
 
 第十三章
 
歩き始めは静かだ。
「うっ」
 いきなり鈴原がうめく。
 幼児の小さな指が鈴原の耳たぶに触れた。
 こねこねと小さな指で揉みだす。
 こねくり、こねくり
 指で弾力を試し、その小さな指を摺り合わせる。
 それを無心に繰り返す。
「や、止めて 耳たぶが大きいの気にしているんだから」
 立ち止まり、鈴原は避けようと首を振る。
「きゃは~」
 その反応に声を立てはしゃぎ笑いしている。
 たいそう愛らしいのに、とてもイタズラだ。
 抱いてる限りは逃れられず。
「返す」
「ムリ、まだ春奈はいいよ、私なんて鼻の穴に指入れられて、それで口を触ろうとしたんだよ」
「えっマジ」
 佐野が手を振って拒む。
「ひぃ」
 その間に耳たぶに触れていた指先が耳の穴に。
 2人は後少しの職員室に向かい、懸命に駆けた。
「先生、迷子~」
 職員室の扉を開き、駆け込みつつ叫ぶ。
「何?」
 職員室にいる全員が色めき立ち、戸口へ注目した。
 何もされないよう、コグマの両脇に手を入れ、両手を前ならえして、身体から離して抱き上げていた。
 にこにことご機嫌の可愛らしい幼児に注目と戸惑いが集まる。
 
「なんだ、海吉のちびっ子じゃねぇか」
 丁度、別の扉から職員室に帰って来た数学教師の宇田が知っていた。
「保護者会に連れられてきたのか」
 宙ぶらりんに女生徒に持たれているコグマを抱き上げた。
「先生注意して」
「ん何が?」
「うえぇ~」
 連鎖の結果、丈の叫びがあがる。
 口へ伸びてくる幼児の指を大きな宇田の口がパクリと挟んだ。
 これまで反撃されたことがなく、びっくりして瞳を見開いている。
 どんな表情をしても綺麗と思える美麗な顔立ちをしている。
 噛まれたのではないと気づくと、丈は宇田の大きな口に人差し指を差し入れる。
 唇に挟まれて、きゃらきゃらと笑う。
「すみません、うちの丈を、あ、丈ちゃんここに」
 雪子ママがおっとりと姿をみせた。
 知り合いのママ友と話しに夢中になってしまった。
 私立で出口には門衛がいるから、外に出てしまう心配はなかった。
 門の外には、うちの護衛も居る。
「ダメよ丈ちゃん、勝手にあんよして危ないでしょう。すみません、宇田先生。先ほどはどうも」
 丈はさすらい派ですぐふらふらどこかへ行ってしまう。
「いや、見つけたのは、こちらの生徒達で」
「ま、ありがとうございました。」
 美幼児の母はマーメイドラインのタイトスカートが似合う肉感的な美女だ。
 私立の親は身綺麗な者が多いが、中でも抜きんでている方に入る。
 顔立ちは似てないが、丈と呼ばれた幼児は、母親に手を差し出している。
 宇田から丈を受け取った。
 雪子はにこやかに女生徒に話しかける。
「あなた、お鼻大丈夫?あなたはお耳ね」
二人は当てられて驚く。
「今、丈ちゃんがその人のチャームポイントタッチに夢中で」
 そう話す綺麗なリップラインに丈は無邪気に指をのばしていた。
 慣れた動作で丈の小さな指を手で包んでしまう。
「本当にありがとう、それでは先生方お騒がせ致しました。ご機嫌よう」
 颯爽と幼児連れで雪子は去ってゆく。
 母の肩越しに丈が小さな手を振る。
 何をされても可愛らしいベビーへの感想は変わらない。
 保護者会が終わり、車を迎えに寄越すよう伝える。

 保護者会が終わり、雪子ママは他の母親から話しかけられた。
 ママ同士が雑談する間に探検に出ていた丈であった。
 雪子は仕事で来られないすみれの替わりに仁の保護者会に来ていた。
 戸籍上の継母は雪子で、産みの母はすみれで保護者としてどちらも認められていた。
 家業的に多忙であるから、手の空いた者で長兄が父兄会に参加することもある。
 万事繰り合わせて、子供達の行事について不参加は絶対にしないように心掛けられていた。
 
 
 第十四章
 
 末っ子の丈に対して、子育てに慣れた大人達の目が行き届き、溺愛が深く激しくなり何事も先回りのし過ぎになっていた。
  すぐ上の渉の母の実家は高名な料亭だ。
 表面上は、その料亭の系列にあるが。
 渉の母である佐波さわが別会計の料亭を女将として経営しており切り回しにとても多忙だ。
 渉は時々、ベビーホテルに預けられていた。
 年少から保育時間の長い私立幼稚園通いだ。
 
 四歳下の丈は産まれてすぐに生母が姿を消した。
 そんなことは初めての事で、父親が手元に置いて育てて来た。
 丈を末子とし、父は最初の妻と再婚した。
 長兄傑と三男悟の生母である雪子は他の子も分け隔てなく可愛がり、育児のベテランだ。
 傑を筆頭に、下の弟妹の面倒をみてきた兄姉達も子育てに慣れている。
 そのヒエラルキーがすべて丈に注がれている。
「丈ちゃん、これは?」
 お下がりから、新品まで、山とあるおもちゃの一つを手に尋ねる。
「‥‥」
 丈は首を横に振る。
 ちょっと離れたところにしゃがんでいた。
 すぐ上の渉に邪険にされ、いじけて機嫌が悪い。
 唇を尖らせたり、眉をしかめたりでどれだけそのおもちゃが気に入らないかが伝わる。
 丈の表情の豊かさに観た者はすぐ魅了される。
 ずっと観ていたい、もっと観ていたいと思わせる魔性の幼児である。
「なら、これ?」
 幾度か首を横にして、やっと首を縦にする。
 丈が手を出した。
「これなの」
 丈に手渡す。
 嬉しそうに瞳をキラキラさせ手を出せば、そっと手渡される。
 そんな日常に丈は喋る必要がない。
 渡された玩具をジッと眺める。
 
「おやつですよ」
 声がけに反応し、丈は顔をあげ、よちよち歩き出す。
 兄姉と一緒の座卓の端に近づく。
 丈の座るスペースにはレジャーシートが敷き詰められていた。
 その中央にあるベビーチェアに座る。
 おやつの時に兄姉と一緒に着座するようになった。
 そうなったはなったで、まだまだ傍若無人な幼児の対応は大変だ。
 上は、テーブルに並べられたおやつの中から食べたい物を選び、自身の皿に置く。
 選んだものは残してはならない。
 それがしつけの一環だ。
 まだ好みがはっきりしない丈の前には小皿に全部が並べられる。
 一口にカットされた苺を手にして口にパクッ。
 食べ終えるとカットバナナを手にもぐもぐ。
 薄皮も剥かれたグレープフルーツを口にすると、途端に丈の眉根が寄る。
 口から出して、齧りかけのグレープフルーツを熱心に観る。
 暫らく見ると、後ろにてぃっと投げ捨てた。
「あら」
 まだ二歳前の丈に注意しても通じないとは思っている。
「駄目よ、丈ちゃんいらないのはお皿に戻して頂戴」
 横についている雪子ママが拾い上げて、皿に戻す。
 丈はそれを再び掴み、後ろに投げ捨てる。
「なに、丈ちゃん嫌いなものはお皿にあったらダメなの?」
 言われて丈は小さく頷く。
 相手の言葉は理解していて意思疎通は可能だ。
 尖らせた薔薇色の艶めいた唇がキュートだ。
 愛らしくまだまだ赤ちゃん赤ちゃんしている丈に怒る気になれない。
「じゃ、こっちのお皿にないないね」
 丈の手が届かない皿にグレープフルーツを置く。
 丈はそれを見て、自身の皿に目を戻す。
 小さなドーナツを口にする。
 もぐもぐしつつ、他の皿を見ていた。
 食べる時もあるが、今日の丈はベビーせんべいの気分じゃなかった。
 ドーナツを食べながら、白いせんべいと、バナナを後ろに投げ捨て始める。
「雪子ママ、丈もうお腹いっぱいみたい」
 目の前からいらないものを排除し始めるのはお腹いっぱいになった丈の合図だ。
 丈を観ていた華が丈の気持ちを代弁した。
「そうね」
 最近の丈の御馳走様は目の前のいらない食材を投げ捨てるのがブームだ。
 だからレジャーシートを敷き詰めてある。
 目の前に食べ物がある限り、食べさせられるから、もう食べたくなくなると目の前のもので遊び始めたりする。
 ちょっと前は手で握り潰して座卓に塗るのを日課にしていた。
 それは手が汚れて気持ちが悪いと気がついて手でこねるのを卒業したばかりだ。
 
「ん んうぅぅ」
 先に取り上げられると面白くない。
 雪子ママが片付けようとしているおやつを素早く手にして投げ散らかす。
 だが、大人の早さにはかなわない。
 それが全部じゃないのが不満だ。
「うっ うぅぇ」
 理解できる年齢じゃないから、強く叱らないが。
 駄目なこと、いけないことは一定のルールで声をかけ続ける。
 個人差があるし、幼児は今日理解したことを明後日には忘れてしまうこともあるが。
 そういう行きつ戻りつを繰り返して子供は日々、成長していく。
 
 雪子ママに全部ポイさせて貰えず、丈は完全に機嫌を損ねた。
 真っ黒な瞳を潤ませチェアから決然と立ち上がる。
「丈ちゃん、おててふきふきは」
 もうよちよちと走り去っている。
 フリルたっぷりの丸いおしりが遠ざかっていく。
 方向からしても行き先は決まっている。
 本宅と本部の間の扉がバンバンと叩かれる。
 すぐ扉が開かれた。
「えぇ」
 おやつの時間、いつもならそのまま兄姉に遊んでもらう筈が。


第十五章
 
 はらはらと大粒の涙を落涙しながら本部の通路を父親の執務室に向けよちよち走り去る。
 
 本部の扉からは、丈の後ろを丹原が追う。
 丈が扉を叩く前に、執務室の扉を丹原が開いた。
「どうした丈」
 もう夜までは戻ってこないと思っていた父親が相好を崩す。
 椅子を半転させ、丈を迎える体勢になる。
「パッ パ」
 手をのばし、抱きついて来ようとする丈の手を確認する。
 素早く抱き上げ、向きを変えて膝の上に座らせた。
 傑からウエットティッシュを受け取る。
 やはり丈の手はベタベタだ。
丈の小さな手を丁寧に拭いてやる。
父の膝に乗せられ、机の上に手が届く。
先刻思い通りにならなかった代償行為で机の上の物を投げ捨て始める。
父親は丈に気付かれないように、壊れて困るものだけ視界から隠した。
「ぶぅ」
 丈は全部机から落として、机を何度か叩いた。
今、ブームの食卓から投げ捨てるのを許してくれない派のお世話だったのだろう。
丈を溺愛する絶対的味方の父親はすぐ察しがつく。
丈はお怒りモードで逃げ戻って来ていた。
ちょっと睡眠が不足しているから機嫌が悪くなりやすい。
一通りものを投げ捨て終わると落ち着く。
父親は引き出しにしまっているミニカーを手渡す。
暫らく机の上を走らせたりして遊ぶ。
ミニカーを飛ばし手が届かないところに進むと、父親が丈の手の届くところに戻す。
「おっおっ」
 戻って来たミニカーを暫らく走らせたり、小さなお手々でドアを開いたり閉じたりしてから、やっぱり投げ飛ばす。
 暫らく遊ばせていると、守役の一人が哺乳瓶を手に入って来た。
 守役は親父に哺乳瓶を渡す。
「白湯だそうです」
 父親が丈に哺乳瓶を見せると、手を出した。
 発散でき、落ち着くと、もう眠いらしい。
 哺乳瓶を片手、もう片手で自身の足を掴み父親に寄りかかる。
 白湯の入った哺乳瓶の乳首を口にして、数口こくんと飲むと呑まずにちゅくちゅくする。
 すぐにとろーんと目がとろけていく。
 丈が寝入ってしまうと、傑が丈を抱き上げた。
 執務室に用意してあるベビーベッドに寝かせつけた。
 
 至れり尽くせり、丈は首を縦横にしていれば快適に過ごせる環境だ。
 
 執務室に丈のベビーベッドがすっかり溶け込んでいる。
 
 ベッドサイズは何度かサイズアップされたが。
 幼稚園を最後の年長しか通わない丈用のベッドは小学校低学年までここに鎮座していた。
 
 それ以降も執務室に或る黒革のソファでごろごろ寝るのを許され続けた海吉家の末子であった。



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