ひとくち日記2023.12.04

 雪は止んだ。
 ここ数日のことを一時に書いてしまおう。

 十二月二日は午前の仕事。土曜日なので、忙しい。お客さんの会計したBLマンガの表紙が良かったので、タイトルを覚えておいた。

 新潮文庫から出た、古川日出男『女たち三百人の裏切りの書』を買う。河出文庫になった川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』も買おうかと思ったが、今月(先月から計上した今月分の社員売掛)は既に買いすぎだし、この後、磯﨑憲一郎の『日本蒙昧前史』も出るので、止めておく。

 十二月三日、休み。気がつくと十五時まで眠っている。困った。
 休日を巻き返そうと、図書館へ出掛ける。リチャード・フラナガンの『グールド魚類画帖』を読む。第二章に当たる「ケルピー」の部分。私としては、魚たちが奔放に動き回る物語を期待していたので、どこまで行っても人間人間人間人間の話に少々うんざりする。面白くない訳ではない。ただ時折、何が書いてあるのか分からなくなることがある。固有名詞が受け付けなくなるのだ。

 気晴らしにアドルフォ・ビオイ=カサーレスの「パウリーナの思い出に」を読む。かなりしんどい結末で悲しい。

 駐車場料金が220円だろうと高を括っていたら、330円を請求される。手元には220円分しかキャッシュがなく、慌てる。料金所のおじさんにどうしたら良いですか、良ければそこのセブンイレブンで(本当に直ぐそこにある)お金を卸してきますが、と言ったら、駐車場料金を負けてくれた。私が割引券を持っていることにしてくれたらしい。感謝感謝。全く情けない話である。
 今度、同じおじさんに会ったら、温かいコーヒーを奢ろうと思う。

 百均へ行き、何か買う。支払いはクレジットカード。コンビニへ行き、明日の弁当を買う。支払いはクレジットカード。

 帰宅後、ことちらさんが作業通話を募っていたので、入る。途中、鯖さんも加わった。
 以前、読んでもらった『パソコン教室』の続きの書き出しについて意見を貰う。房四というキャラクターが漠然とした寂しさを抱えている、ということを一つの主軸に展開させたいのなら、房四について腰を据えて書いた方が良いのでは、という助言を受ける。話の脱線する力によって書き進めるスタイルでここまで来たので、それくらいの企みをやった方が良いのかも知れない。果たして書けるか。

 十二月四日、午前の仕事。今日は陽が出た。

 朝の責任者が私ともう一人いるはずだったのだが、その一人が健康診断で遅れて出勤するとのことだった。雪は降らねど、道路脇に寄せられた雪の塊が消える訳ではなくて、その雪に怯えながら走る車のゆったりさと、そもそも道が減って交通が滞ることによって生じた渋滞に悩まされる。

 車中で、美空ひばりの「柔」を聴き、小説のタイトルに『せめて今宵は人間らしく』というのは良いかも知れないと思った。

 十五時半、終業。さっさと帰る。さっさと過ぎて、帰りがけに郵便局で出そうと思っていた郵便物を忘れる。
 ヨーカドーで夕飯と明日のお弁当を買い、帰宅。一眠りして、七時過ぎ。シャワーを浴び、ご飯を食べて、一眠り。二時頃、目が覚める。

 レイ・ブラッドベリ「板チョコ一枚おみやげです!」アーシュラ・K・ル=グウィン「セムリの首飾り」と「オメラスから歩み去る人々」を読む。
 「セムリの首飾り」冒頭の文章には閉口した。何が書いてあるのか、さっぱり分からなくなってしまったのだ。読み進むうちに、どういうことを書こうとしているのか分かってくるのだけれど、それにしても未知の単語が頻出しすぎないか。
 話としては面白かったし、「オメラスから歩み去る人々」については、大傑作と言えるだろう。
 ブラッドベリはル=グウィンほどぶっ飛んでいないが、面白い。人間の微妙なところを豊かな方法で描こうとしているように思える。

ただ、問題は、私たちが、衒学家や詭弁家の尻馬に乗って、幸福をなんとなく愚劣なものと見なす悪癖を身につけたことにある。苦痛のみが知的であり、邪悪のみが興味ぶかい。これは芸術家の背信行為だ──邪悪の陳腐さ、苦痛の恐るべき退屈さを認めるのを拒むことは。

アーシュラ・K・ル=グウィン『風の十二方位』から
「オメラスから歩み去る人々」

 時によると、穴蔵の子どもを見にいった少年少女のうちのだれかが、泣いたり怒ったりして家に帰ってはこないことが、というより、まったく家に帰ってこないことがある。また、時には、もっと年をとった男女のだれかが、一日二日だまりこんだあげくに、ふいと家を出ることもある。こうした人たちは通りに出ると、ひとりきりで通りを歩きだす。彼らはそのまま歩きつづけ、美しい門をくぐって、オメラスの都の外に出る。オメラスの田野を横切って、彼らはなおも歩きつづける。少年と少女、おとなの男と女、だれもがひとり旅だ。(略)それぞれに、ただひとりきりで、彼らは山々を目ざして、西か、北へと進みつづける。彼らはオメラスを後にし、暗闇のなかへと歩みつづけ、そして二度と帰ってこない。彼らがおもむく土地は、私たちの大半にとって、幸福の都よりもなお想像にかたい土地だ。

同上

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