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“隻腕”クライマーのパラクライミングTALK②

片腕のクライマー・大沼和彦が主催する、パラクライマーたちによるインスタライブ。日曜日の夜に不定期でゆる~く開催。悪ふざけだったり、パラクライミングへの熱い思いだったりが繰り広げられています。

今回は、車いすや、スポーツにかかるお金の話で盛り上がりました。また日本代表選手が、2022年6月のワールドカップ・インスブルック大会への意気込みについて語ってくれました。


▼ドーピングはやってませんよ(笑)

畠山直久(AL1):日本選手権の予選の1ルート目はトップ。2ルート目は2つ触れなくて。決勝は3つ触れなかった。

大沼和彦(AU1):今回のホールドは意外と落ちにくかった。決勝は特に。オブザベーションで想像したのとは違う感じ。

畠山:フリクションが効いていて新品だと思った。こんな壁で登れるなんて幸せだなと。びっくりした。

大沼:前回大会とは全然違う。前回の秦野大会は、既存のホールドがまぶされたままの壁で、持ちづらかった。

畠山:俺もぶーたれた(笑)

真新しいホールドが設置された日本選手権のクライミング壁

大沼:今回のホールドより、前回の方が悪かった気がする。

畠山:自分は、ラインセットじゃなくて、まぶし壁だと辛い。今回はチョークの跡が残っていたので、ここはボテをつなぎに使うんだろうなとか思うところがあった。手で持つのが基本だけど、ひじを置くこともできた。そういう練習をふだんからやらないとなって思った。決勝で、右手で取った“アヒル口”の下の方の持ちがすごく悪くて、そのときには握力が0になっていて。ただ、そこで耐えて、ただ落ちるんじゃなくて少しでも抵抗した。

大沼:あそこをキャンパで行くのはきついですよね。

畠山選手が苦戦した“アヒル口”のホールド

畠山:自分は大内秀之さん(AL1)みたいにリーチはないので、もっと左をつかめていたら…。でも握力がなくなってたからな。

大沼:畠山さんの登りは、今回スピードがあった。今までと違う力強さを感じた。

畠山:ドーピングはやってませんよ(笑)。練習でもそれは意識していて、自分の場合、時間をかけてもいいことは何もないので。パッパと登って最後に力を残す。マッチしか自分の武器はないので。

畠山:スタミナってどうやったらつくのかな?

大沼:ボルダーだったら長物をやったり。僕は指のスタミナが無くなってしまうので、ハンドグリップを1分。ずっと握る。腕をパンプさせてからどれくらい登れるか。

▼“自分に足があるんだ”って初めて気が付いた

大沼:畠山さんがクライミングを始めたきっかけは?

畠山:パラサーフィンをやる車いすユーザーの知り合いがいて、その人に“クライミングに行かないか”と勧められたのが始めたきっかけ。クライミングのいいところはお金がそんなにかからないこと。パラスキーだったら、専用の車いすで50万円。パラスポーツの車いすは大体30万はかかる。陸上のカーボンだったら30万円じゃ買えない。道具をそろえるのにお金が必要だから、車いすスポーツはなかなか広まらない。競技用車いすを輸送するのも大変。でもパラクライミングなら電車で移動するだけ。必要なものもシューズ、ハーネス、チョークくらい。お金の面ではハードルが低い。でもキャンパで登るのはハードルが高いと思われてる。 

大沼:身近にも車いすユーザーはいるんですか?

畠山:職場には自分1人。ほかに付き合いのある友人はいるが、一緒にクライミングする仲間はいない。腕だけで登るのは“ふつうじゃない”と思われている。

大沼:片岡さんの周りには車いすユーザーはいる?

片岡雅志(AL1):結構いるんだけれど、クライミングに誘っても腕だけで登るというのは想像つかないという人が多くて。“無理です”って言われることが多い。実際、僕も最初は想像つかなくて。大内さんって最初に出会ったときには車いすバスケをやっていたけど、次に会ったときには壁を登ってるしって!しかも手だけだし!頭おかしくなったのかと思った(笑)。腕だけで登れるなんて思ってもいなかった。僕も感覚が麻痺してきて、いまは“クライミングって腕だけでしょう?腕だけで行ける行ける”って(笑)

畠山:手の心配しかしなくていい。

壁を登る片岡選手

片岡:手のホールドだけ見てればいいから、足のオブザベはいらない。足の心配しなくていいから楽。神奈川で車いす選手だけでやった合宿で、足を振って反動を使うっていうことを教えてもらって。ああそうか、自分って足があるんだって、そのとき初めて気付いた。忘れてた(笑)

畠山:実はホールドに足がのって楽になる瞬間がある。

片岡:そうそう!なんか楽になったと思ったら足がのってたみたいな。

畠山:歩けなくなって11年。ふだん意識する事はないんだけれども、クライミングをしていると足が使えてしまってる瞬間がある。 足の振りは登っているときには気にしてなくて、結果的にそうなっていたことがあるってだけ。あれを意識的に使えたら武器になるはずなんだけど。

大沼:体を振るということになると、体幹を軸にしているっていうこと?

畠山:大腿骨を振るっていうのが一番いい。

片岡:僕の場合、体幹に障害があるので、振りすぎると上半身まで持っていかれてしまう。車を運転しているときに右折左折するときも、スピードを落とさないと、遠心力で体がもってかれてしまうことがある。ドリフトなんかしたら車の外に吹っ飛ばされる。 

壁を登る岡田選手

畠山:岡田さんはどこらへんがマヒしているの?

岡田:使いづらいのは右半身と体幹。

大沼:岡田さんは5月6月7月のワールドカップは参加予定ですか?

岡田:その予定だけど、自分の場合は、5月のソルトレイク大会に出られるかどうかは MDF(診断書)次第。それがネックで、MDFを書いてもらっていた先生から以前から嫌がられていた。大会の2日後に病院に行って、追加で書いてもらわなければいけないものがあったんだけど断られた。日本選手権ではぎりぎり間に合ったが、5月に間に合うかどうか。いまは別に書いてもらえる先生を見つけたが、それが間に合うかどうか。締め切りは、IFSC(国際スポーツクライミング連盟)に直接だと4月。日本パラクライミング協会にお願いするなら3月中に欲しいと言われた。

大沼:自分も来週、診断書を病院でお願いしようと思っている。かかりつけは東京の病院だが、そこの先生はすぐに書いてくれる。

▼世界大会はお金がかかる

大沼:畠山さんは ワールドカップに出るときの資金はどうする?

畠山:自腹で。クラウドファンディングはできないですね。

大沼:自分もクラウドファンディング出来ればなと思ってはいるんですけれど、文章を考えたりするのが大変。もっと手軽にやれるといいけれど。

大沼:岡田さんはアスリート採用だから会社から費用が出る?

岡田:そうですね。でも資金繰りはほかの人と同じだと思う。自分は大会に出るために、より良い条件で職場を探して、アスリート雇用という形にした。でも、みなさんと違いはなくて、ただ職場環境が違うだけ。濱ノ上文哉くん(B2)みたいに、スポンサーがめちゃくちゃついているわけでもないし、会田祥くん(B1)みたいに会社が海外渡航費を出してくれるわけでもない。アスリート雇用してもらっているが、自分にはスポンサーはいないし、もらったお金でやれることをやるだけ。クラウドファンディングもやってはダメということではない。

大沼:自分は、同じカテゴリーで出られる選手の中でてっぺんをとりたい。世界の中でも、自分と同じカテゴリーの選手はなかなかいない。2019年世界選手権のフランス・ブリアンソン大会のときに、選手数が出そろわず、AU1とAU2が統合されて、自分を入れて16選手。その中で自分と同じカテゴリーだったのは5人。その中ではトップだったが統合された中では入賞できなかった。AU1のカテゴリーが成立したら金メダルを目指せる。

岡田:もちろんメダルを目指すけど、自分はクラスがどうなるか分からない。RPはクラス分けが難しい。前回、モスクワの世界選手権ではRP2だったけど、予選が終わったあと、ある人には「次回は RP1だね」と言われたが、別な人には「RP2だよね」と言われた。RP1になるかRP2になるかわからない。どちらにしても、クラス成立する人数はギリギリ出そろうと思うから、どっちになるかで成績はかなり変わる。

畠山:ジャパンシリーズでは5大会目にして初優勝。3年かかって、やっと大内さんの上にいけた。でも大内さんは本調子じゃなかったと思っているので、勝たせてもらった感じ。大内さんが本調子のときでも、もっと上を目指していきたい。ワールドカップでは初挑戦でメダルを目指していきます。

(了)

▼障害別クラス分けについてはこちらの記事を↓

▼“パラクライマー”大沼和彦【日曜日のインスタライブ】22年3/20

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