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“隻腕”クライマーのパラクライミングTALK①

片腕のクライマー・大沼和彦が主催する、パラクライマーたちによるインスタライブ。日曜日の夜に不定期でゆる~く開催。悪ふざけだったり、パラクライミングへの熱い思いだったりが繰り広げられています。

今回は、2022年3月に開催されたパラクライミング日本選手権を終え、出場選手たちが大会の感想を話し合いました。


▼日本選手権の壁はやばかった

高野正(RP3):日本選手権はめちゃくちゃ楽しかった。今まで全部完登していたから、登り切りたかったんだけれど、めちゃくちゃ悪かった。

大沼和彦(AL1):高野さんが落ちていたところ大会で初めて見た。

高野:見せたくなかった…

濱ノ上文哉(B2):RP3で安良岡くんと決勝対決になったけどどうだった?

高野:始まってしまえば、人の登りはあんまり気にならない。

大沼:でもセッターさん上手でしたよね。パーツが違う障害の選手で、ほぼ同じ高度で落とす。すごく考えられていた。

決勝ルートを登る安良岡選手(左)と高野選手(右)

高野:安良岡伸浩くんが右手、俺が左足。その両方がちゃんときっちり難しいんだけれど、越えられるというのがすごいと思った。あれは作るの難しいなと思った。トラバースして行くところがあったんだけれど分かる?

濱ノ上:見えないから分からないですけれど(笑)

高野:左のかかとを掛けたら安定するのかなと思ったんだけれど、全然掛けられなかった。スメアで右足で乗って行くしかなかった。外れるか外れないかくらいの感じで賭けだった。

大沼:AL2クラスの選手もここ大分苦戦していて落ちていた。

フットホールドは悪かった

高野:落ちたところがいちばん悪かった。縦のホールドでインカットしていないし。左手をプッシュして、肘が上がる位置まで体を上げていかなければならなかった。そこまで行くと、意外と体が揺れて、揺れているから疲れちゃって落ちてしまう。オブザベの時点でもすごく迷った。次の一手が遠くて、足も下を向いていた。これどうやって処理するんだろうって。もうわかんないから現場処理でって考えてたけど、現場でも分からなかった。あとでセッターさんに聞いたら、俺の動きで合っていたみたい。なかなか骨のある課題だった。今はひたすら体幹トレーニングしている 。

岡田卓也(RP1):めちゃくちゃ楽しかった。自分は渡辺雅子さん(AL2)と予選1ルートと決勝ルートが同じで、渡辺さんと詰まったところ、落ちたところが大体同じ。違う障害の部類でも、同じように難しいという感じで。渡辺さんと自分ってクライミング歴が大体同じ。決勝は渡辺さんと自分が同じところで落ちた。

決勝ルートを登る渡辺選手(左)と岡田選手(右)

岡田:ブラインドの青木宏美さん(B1)と江尻弓さん(B3)も同じルートを登っていて、僕らが落ちたところを登れていた。経験の差かなと思えるような壁だった。ホールドのどこらへんがつかみにくいとか、自分の体とどういう風に合わせていいのかというのも迷いやすい。違う障害でも同じようなところで迷う。いい課題だった。あと日本パラクライミング協会のユーチューブ配信で、決勝ルートのセッター解説がめちゃくちゃ良かった。次回はセッターさんの予想を超えて行きたいな。

濱ノ上:アスリート採用からどれくらい経った?

岡田:1月からなので、2ヶ月くらい。

濱ノ上:時間の使い方はどう?

岡田:全部の時間をクライミングに使えるので、ケガなく登れる。トレーニングした後に、整骨院で身体をほぐしたりしてケガを防ぐとかそういったことができたり、トレーニングに入る前もストレッチをして怪我をしにくくしたりということができるので、そこがめちゃくちゃありがたい。

濱ノ上:ケアに当てられるのは最高ですよね。渡辺さんもだいぶ強くなってましたよね。1年前と全然違う感じ。渡辺さんと一緒になることがあるが、11Bをリードでやっていて。手足はガバだけれど、最初のスタートから飛ばないと届かないんじゃないかみたいな課題をやっている。最初に会ったのはモンキーマジックのイベントで、義足になったばかりのころで、その時は10台をトップロープで登っている感じだったが、今では立派なクライマー女子になっている。

大沼:渡辺さんのユーチューブを見たが、陸上競技も挑戦しているみたいで。義足で走っていた。

濱ノ上:しかもアクセサリーを作れるんですよ、あの人!クラウドファンディングもやっている。「義足の白鳥」っていうドキュメンタリー映画をつくっている。

濱ノ上:僕もめっちゃ楽しかったです。今回はサイトガイドを田中星司さんではなくて、神奈川の代表選手の大塚優希ちゃんって女の子が対応してくれて、ナビっていろいろな人がいるなと思った。今までいろんな人と登ってきたけれど、優希ちゃんは年齢的には僕より10歳下だけれど人格者で。選手の緊張を誘わない。リラックスさせようという空気感を自然と作れるいい子。大会というよりは、自然な練習という雰囲気で大会に臨めた。

決勝ルートを登る濱ノ上選手とサイトガイドを務める大塚優希氏

高野:どこでナンパしてきたの?

濱ノ上:ロックランズでお世話になっている女性の友人。彼女がドライツーリングっていうアイスクライミングのインドア版のお手伝いをしてきたときに、優希ちゃんがその中にいたらしい。

大沼:ガチガチのクライマーなんですね。ノボロックのスタッフ。酒やけしているような声が特徴的な(笑) そのせいか年齢がビーチさん(濱ノ上選手の愛称)と同じくらいなのかなと思ってた(笑)

濱ノ上:神奈川県のアイスクライミングの代表選手だった。

大沼:練習できる施設ってあるんですか?

濱ノ上:曙橋のベーターに練習施設がある。

大沼:デッドでもアイスクライミングできるかな。

濱ノ上:結構チャレンジングだよね。フィギュア4とかしなきゃいけないですよ。通常のクライミングよりフィジカル競技。しんどいみたい。會田祥くん(B1)もやっているみたい。サイトガイドの宮本容幸さんと一緒に。優希ちゃん、最近は総合格闘技に目覚めたらしくて、どこに行こうとしているのかよく分からない(笑)

大沼:日本選手権、自分もすごく楽しかったです。週1回くらいしか練習できていなかったし、リードなんて前回の広島大会以来行っていなかった。大会2日前にリードを3本やって大会に挑んで、不安しかなかった。でも今回初めて予選も決勝も全部完登できた。

決勝ルートを完登する大沼選手

濱ノ上:大沼さんの足技は美しいと聞いています。ヒールとかがめっちゃうまいって優希ちゃんが言ってました。

大沼:大会終わって、ご褒美はないけれど、食事制限しないでご飯食べれています。

濱ノ上:食事制限してるんですか?

大沼:朝はバナナ。昼はチキンサラダとミチョ、飲むお酢。夜は普通に食べちゃうんですけど、そういう生活を1年くらいやってる。制限というより、仕事柄、食べる時間がないっていうだけ。

濱ノ上:スタミナ持ちます?

大沼:持たないです(笑)会社に出勤する頃にはお腹減ってるし。壁を登る時にはモンスターを飲んでいる。

濱ノ上:ベストな体重はあるんですか?

大沼:体重というより、お腹周りの肉がちょっと取れてきたかなっていうのがベスト。 

 ▼クライミングを始めたきっかけ

 高野:小学校の先生をやっているが、口先だけの人間にはなりたくなくて。子どもたちに学校で努力をしろって言っているのに、 自分は何もないなと思って。こんなんじゃ説得力がないなと思って、俺もがんばれるものを見つけるよと言った。

濱ノ上:もともと器械体操やってましたよね?

高野:高校までやっていたけれど、部活が潰れちゃった。器械体操やろうと思ってわざわざ入った学校だったのに。

濱ノ上:今はやりたいと思わない?

高野:怖くてできない。当時、化学の先生が山に行くっていうのを聞いていた。その先生に山に連れて行ってくださいって言って、それで連れて行かれたのがクライミングジムだった。そこでかじる程度にやったのが最初。自分が教員になってから本格的に始めた。

濱ノ上:器械体操とクライミングは共通点はある?

高野:自分の体を支えるところは似ている。腕で挟み込むとか、引き上げるとか。だからスローパー持ったりするのは得意。

濱ノ上:器械体操はどんな練習する?

高野:3時間ずっと筋トレ。

岡田:大阪に出た時にジムがあって行ってみたいと思っていたが、自分の障害では、落ちたら危ないだろうなと。それで2年経った。大内秀之さん(AL1)が2019年の世界選手権に行く前に、大阪バムで壮行会をやっていて、そこに行った。バムにはオートビレイがあるので、これだったら自分でもできるなあと思って。大阪バムに行ってなかったらやっていなかった。

濱ノ上:大内さんに憧れて?

岡田:まぁ、半分は合ってるかな…。障害が違うので同じものを見てるわけではないのかな。尊敬するみたいな。

濱ノ上:憧れていたわけではないと(笑)

岡田:そんなこと言ったら大内さんに怒られる…

濱ノ上:NPO法人モンキーマジックの毎月のイベントに参加したのがきっかけだとメディアなんかでは話してるんだけれど。東京に来た時に、こっちにコミュニティーがなくて、関西にいた時に入っていた視覚障害者のメールメーリングマガジンで、いろいろな情報が流れてくるんだけれど、その中に「大人の障害ナイト」というのあって、官能小説を朗読で聞くという内容で。そこに行ったら、モンキーマジックの水谷理さんが主催していて、小林幸一郎さん(B1)もいて、そこで仲良くなったというのが本当のきっかけ。視覚障害者の読書文化っていうのがあって、本の内容を音声データで聞くというもので、その人気コンテンツが官能小説だった。でも、その音声データって淡々と読むもので。それで、小林さんがもっと感情を込めて読んでほしいという思いから立ち上げたイベントだった。僕がクライミングを始めたきっかけは、エロから始まって、エロがユニバーサルだったという話。こんなのNHKでは話せないじゃないですか(笑)

(了)

▼障害別クラス分けについてはこちらの記事を↓

▼“パラクライマー”大沼和彦【日曜日のインスタライブ】22年3/13


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