見出し画像

“隻腕”クライマーのパラクライミングTALK⑦

片腕のクライマー・大沼和彦が主催する、パラクライマーたちによるインスタライブ。日曜日の夜に不定期でゆる~く開催。悪ふざけだったり、パラクライミングへの熱い思いだったりが繰り広げられています。

今回は、パラクライミングを普及させるために何ができるか、海外遠征のためのお金と時間をどう確保するか、など本気モードの回になりました。


▼日本のパラクライミングになくて、世界にはあるもの

大内秀之(AL1):この前、日本代表でズームで話し合ったんだけど、日本が強くなるためにはどうしたらいいかな。選手を増やしましょう、人気度を高めましょう、パラとかパラじゃないとか、障害あるないとか別れてない国の方が多かった。日本もそうしていきたいな。

大沼和彦(AU1):海外だと視覚障害の選手のサイトガイドを、健常クライマーが行っていたって話を聞いた。日本だとジムとかではあるが、大会ではほぼない。その辺は自分も違和感があった。

大内:日本になくて世界にあるもの、日本が成長するためには何ができるかをみんなで話し合った。認知度向上と選手人数を増やす、それが大きいっていう話をした。お金がある・ないによって海外の大会に参加しにくいよねとか、ヨーロッパ大会は日本から行きにくいよねとか。でも蓑和田一洋さん(B3)が腹を割って話していたが、海外は金があるっていうけど、エビデンスはないよねとか、世界は選手層が多いイメージがあるけど、それも根拠ないよねみたいな。

大沼:海外の人たちって楽しんでイメージが強い。その場を本当に楽しんでる。

濱ノ上文哉(B1):パラスポーツとして、独立して楽しむコンテンツとして成立している。

大内:パラとか一般とか、カテゴライズしてないよね、海外は。ナショナルチームはワンチームみたいな。あとヨーロッパの人たちは、俺たちが日本選手権をやるくらいのノリで、軽くワールドカップをやってる。でも俺たちが行ったからって、アウェー感があるわけじゃないし、それが欧米文化の世界大会って感じ。みんな仲がいいし。

▼自分がやっていないパラ競技の日本代表選手、知ってますか?

濱ノ上:選手数を増やすっていうのに、具体的な話はあった?

大内:パラとか一般とかという垣根を超える。パラの大会って一般の代表選手が応援に来てくれてるじゃない。俺たちがその逆をやってもいいんじゃないか。現場の選手間、スタッフ間がもっと仲良くなってもいいよね。高野くんなんかは、同じブランドが、パラも一般もサポートしてくれていて、そういうのいいよね。ジムとかで練習していても、一般とかパラとかあんまり関係ないじゃん。みんなで応援し合ってて。それが日本代表ってなると、ちょっと雰囲気が変わる。それをミックスできる取り組みがあったらなって。

濱ノ上:僕もサイトガイドにいろんな人に参加してもらいたいと思ってやっている。クライミング業界自体が小さいので、クライミングを知らない人が見に来て応援してもらえる仕組みがあったらいいなと、うっすら思っている。

大会ごとに新しいサイトガイドと組む濱ノ上選手

大内:ほかのスポーツとコラボしたりするのも大事かもね。一般とパラでボランティアし合う。パラクライマーが、バレーボールのイベントのボランティアに参加してもいいわけじゃん。

濱ノ上:それすごく大事。選手を増やそうという話になったときに、どこのパラスポーツもみんな同じこと言ってる。選手層が足りない、人が育っていかない、取り合いになっている。特にチーム競技になると人数を揃えないと出られないので死活問題。そんな中で、我々も、ほかのクライミングじゃない団体に積極的に顔を出して、なんなら大会に出てみるくらいのことをやっていけば、向こうの人たちも逆にパラクライミングに出てみようという思いになるかもしれない。

大内:じゃあビーチ(※濱ノ上選手の愛称)、スケボー出るの?

濱ノ上:まだスケボーはブラインドの大会がない。今度サーフィンやってみようと思ってる。 愛称が“ビーチ”なんで、本来は水属性のポケモン(笑)僕はそもそも自分が楽しいからやっているっていう感じだけど、体の動かし方も、ほかの競技やってみることでクライミングに通じるものがあるとか、発見があったりするので、選手自体のレベルアップを考えてもすごくいいことだと思う。

大沼:自分もパラクライミングを広めたいが、クライミング以外のスポーツはやっていない。きのうティックトックで車いすでバスケしている人が、パラ陸上をやっているのをライブ配信しているのを見ていた。陸上しかやったことがないから、ほかの車いすで出来るスポーツにいろいろ挑戦していきたいと言っていた。

濱ノ上:自分がやっていない競技の日本代表選手知ってますかって言われて、言えないじゃないですか。大会いつやってんのかなんて知らないじゃないですか。そんな中、遠方までお金払って応援に行くって、結構な動機がないとできない。それを考えると、我々が、「日本チーム強いぜ、メダルたくさん獲ったぜ」って、それだけで認知度が高まっているかというとそういうわけではない。それだけでは弱くて、そこから一歩踏み込んだアクションを取ろうと思ったら、我々がほかの社会に提供する何か、好きになってもらう努力をしていかないと厳しいんだろうなという気がします。

大内:その通り!“楽しいか・楽しくないか”やな。

濱ノ上:我々が楽しそうでなければ、やりたい人は出てこない。しんどいなって言っていても人は来ない。

▼世界大会に行こうとすると、休みがない、金がない…

大内:世界大会に行こうとすると、休暇がない、金がないってどの種目のスポーツの人でも言うやん、メジャースポーツじゃない限り。それを選手も協会もひとつになって考えて、何かひとつのことに挑戦してますっていうシステムみたいなものをつくり上げたら、それもパラクライミングの魅力になると思うんだけどね。そこを避けて通りがちやん。それは自己責任でしょみたいな。そこに価値を生めるものができないかと思っていて。次は、お金を集める、集めたお金を使う、お金を回していく。そういう作戦会議がしたい。お金を集めるときに、1人がパイオニアになってはだめ。みんなで考えて、みんなでやっていくシステムを作っていかないと難しい。例えば自分が運営する団体フォースタートで、ここにいる4人の海外大会の遠征費を、クラウドファンディングで調達しますってなったら本当に大変。動機付けや筋道の付け方とか。個人で立ち上がるか、この4人で法人を作るのか、この4人でイベントをやったり、出版したりして、売り上げを上げるやり方はたくさんあるんだけれど、選択肢がまだぼんやりとしている。それをみんなで腹割って話したいな。

濱ノ上:手っ取り早く考えると、お金が集めるのを上手な人を拾ってこないと難しい。お金を集めるのが得意な人っている。そういう人を外から引っ張ってくる必要がある。お金を集めるノウハウや方法を知っている人じゃないと。それはクライマーじゃなくてもいい。

大内:俺の感覚だと、そういったお金を集めることが得意な人は、お金に対してどう考えてるんだということで相手を見る。俺たちが高く登れる、早く登れるというところだけをアピールしてもダメ。お金のことを真剣に考えて向き合ってないじゃんって言われると思う。何個かある選択肢のうちいろいろやったけど、やっぱりお金を集めるのが難しいから教えてくださいって言うほうがスマートだと思う。

濱ノ上:なるほど。でも俺はむしろそれぞれが専業化するべきだと思っていて。俺は競技に専念するのがタクスだと思っている。技術を向上させて、言葉ではなく、競技のパフォーマンスという表現方法をもって驚きを与えたり、感動をもたらしたりすることがアスリートの最優先事項だと思っていて。それだけやっていると、みんな大会に出ることができないとか、やむなくそれ以外のタスクもこなしないといけない。逆に言えば、この無駄に払っているリソースをパフォーマンス発揮に全投入できれば、もっと目に留まるものを我々はできる。 それが我々の登りの中にあるのにも関わらず、世の中がそれに気づいてない、ということに気付いたら、誰かが私たちがそれをやりますよ、という人が出てくるのでは。目をそらしがちなのはそこだと思う。パラクライマーのレベルを上げていって、素人が見てもすげえって目に留まる事実をストイックに目指していかないと。技術の集積の先に、芸術性があると思っている。

大内:俺のイメージやけど、アスリートが技術に全振りできるのは俺らの次の世代かなと思ってる。俺らは二足の草鞋でシステムを作る世代だと思っている。俺も全振りしたいけど、5年10年、そのシステム作りを一生懸命やって、次の世代のやつらが世界で大活躍するために身を粉にする。自分も楽しみながら、経験を積みながらそういうことをやるほうが、マイナースポーツの光になるのではと思う。難しいよね。ビーチのいうように、ひとつのきっかけがあれば、例えばオリンピックのスケボーも、オリンピック競技に選ばれて金メダルを取ったからスケボー人気が爆発的に来ている。でも、それも技術があるからそうなったわけで、オリンピック競技になってもメダルにかすりもしなかったら話題にもならなかった。

濱ノ上:遠いようでそこが最短距離のような気がしている。例えば、ブラインドスケートボーダーの選手が、パラリンピックの開会式でもパフォーマンスしていたけど、彼のパフォーマンスを見ていると、子どもでもすごいって分かる。目が悪くてもスケートボードを愛して、諦めきれずに続けた人の信念・人様がそこに見える。その競技に対する愛が最優先にあって、実現するためにどうするかという道筋で考えているから、人の心をつかむ。それで応援したい人がたくさん身の回りにいて「お前の滑りはすごいんだよ、みんな見てやってくれよ」って周りの人が言ってくれる。その連鎖のような気がする。だからアスリートは、その可能性を諦めてしまってはもはやアスリートではない気がする。我々は競技という表現で、クライミングという表現で語るべきなのかな。

大内:もちろんそれありきのお金集めだと思ってる。雑巾で料理を作っても売れない。もちろん質ありき。その人の考え方、人間性ありきで、表現がいちばん大事。

濱ノ上:目に留まる努力というのは、もちろんみんなですべきだし、お金を集めてくる余地があるのであればやるべきだけど、どこを優先すべきか。

大内:こういう話をしたい、みんなと。その上で、自分たちのできることは何だって考えたい。

濱ノ上:日本チームでいえば、會田祥くん(B1)ってすごい。彼は言葉での発信はしない。やっぱり彼はクライミングという表現方法で伝えたいという思いが伝わってくる。そうすると、それを動画で伝えたいという人が周りに出てきたり、言葉で発信することを手伝ってあげたいという人が出てきたり。引っ張っていくタイプではないリーダーみたいな感じがする。

濱ノ上:決して今の段階で、パラクライミングにコンテンツとしての力がないわけではない。現場に来て見たら大体の人がすごいっていってくれる。そこをもっとひた向きに追っかけてもいい気がする。

大沼:そういうことを考えていく中で、自分に何ができるかというと、自分から発信したりするのが苦手なので、人の目を惹きつけるような登りを極めていきたいなと思う。

濱ノ上:愛を感じるところがいいね。クライミングに対する愛。結果だけではないよね。

(了)

▼障害別クラス分けについてはこちらの記事を↓

▼“パラクライマー”大沼和彦【日曜日のインスタライブ】22年7/24後編

みなさんのサポートは、パラクライミングの発展のため、日本パラクライミング協会にお届けします。https://www.jpca-climbing.org/