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2020年前期備忘録~ベンチが消えたままの世界で~(前半)


2020年4月6日。その日は午前中から騒がしかったのを覚えている。

午前9時前後。私は仕事の関係で待ち時間が発生したこともあり、とある公園のベンチに腰掛けてスマートフォンのいじくって休憩を取っていた。目的は新型コロナウィルスに対して発動されると前日から騒がしくあった、緊急事態宣言の情報収集である。緊急事態宣言がまもなく発令されるという情報が飛び交い、インターネット上も他のメディアと同様にひどく騒がしい状態にあった。諸外国のようにロックダウンという封鎖行為は行われない、劇場や公演に対しては指示という形で強い要請が行えるようになる、生活様式は基本的に変わらない…そういったことがあちらこちらで語られていた。雑多なそういう情報をかきわけ、いくつかの情報サイトを検分し、緊急事態宣言の発令が確定したと知ったのが丁度のこの時間帯であった。

明くる日の2020年4月7日19時。安倍首相による記者会見が行われ、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡を対象とする緊急事態宣言が発令された。のちの4月16日、この範囲は全都道府県への拡大されて日本全国において新型コロナウィルスをより一層強く意識させる契機となる。

日頃愛用していた駅や書店のベンチのいくつかが完全使用禁止の貼り紙をされるようになったのは、その頃からである。

2020年7月現在、まだその貼り紙は剥がされていない。


1~3月のぼくの世界

2020年1月。世間ではどちらかといえばインフルエンザへの感染が心配され、スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明けへの賛否両論がまだ散見し、ゴーン・カルロスの記者会見に世間が湧き、香川県のゲーム規制条例に日本全国のゲーマーやプログラマー諸氏が呆れ返り、100日後に死ぬワニの安否が気遣われ、間もなく訪れる2020東京オリンピックに色々な想いを寄せていたあの頃。

ひっそりと、新型コロナウィルスはぼくの情報網に足を踏み入れてきた。外国での死亡者1人という情報を頭にとどめはしたものの、危険視はほとんどしていなかった。待望のゲームアプリ「メダロットS」のリリースや5月に開催されるコミックマーケットへの準備、あるいはその頃目立ち始めていたVtuberの収益化剥がされ問題の方に関心は寄っていた。勤務中にマスクをつけなければならなくなったのは煩わしかったが、鼻炎アレルギーでホコリに弱いこともあって人よりは使い捨てマスクの貯蓄はあったので滞りはなかった。使い捨てマスクの売り切れが目立ち始めたことには少しだけ眉を寄せたが、実害的なところで言うとまぁそれくらいであった。


2月になっても状況は好転しなかったが、少なくとも自分の年齢層での死亡者がいないことには安心した。万が一があるのは当然として、ただそうなったそうなったでどうしようもないだろうと高がくくれる。ただ、延期していた実家への帰省をしばらく中止せざるをえなくなった。自分は良しとしても、高齢の両親や地元の友人たちを巻き込むわけにはいかない。夏か、あるいは冬か。そのときに帰れば良かろうと思い、年始頃から好んで見るようになったVtuberグループ・ホロライブの沼に一層深く入り込み、熱中した(止まらないホロARK最高だった)。

さすがにこの頃になると、ある種の予感は浮かび始めていた。ぼんやりとした、だが可能性は低いだろうと最終的には落ち着かせるもの。日に日に大きくなっていったが、大多数の人がそうしたように胸の内に留めるだけで声にはしないもの。いつだかに流行ったSARSにしろ、しばらくしたら沈静化したのだから。この予感はいずれ自らの創作物に活用と、そう考えていた。


3月になって、公開予定を間近に控えた劇場作品の延期の報が目立つようになった。それだけでは済まず、映画館では座席間隔を1つ空けての販売方法が開始され、鑑賞券の販売が当日券のみという対処方法が一般的なものとなり始める。毎月4本ほど映画を見る身として、このニュースには大変心を抉られた。

また、推しVtuberのイベントが中止となった。後日イベントの代替という形で配信はなされたものの、このことは自分の身に起こった以上のやりきれなさを感じた。オタクとして、予定していたイベントがなくなってしまうのは寿命に関わるのである。歌手のライブや劇団の公演とイベントの類も中止されることが多くなり、自分が見に行く予定になかったものだとしてもショックを受けた。そこに参加するはずだった友人や知人の落ち込みが理解できたからである。

この頃になると、新型コロナウィルスを扱うことが完全にニュースの本懐となっていた記憶がある。2月から横浜港に停泊していたクルーズ船・ダイヤモンド・プリンセス号の乗員完全下船とその後の対処方法についての報道に始まり、不況を理由とした消費税の減少や撤廃の議論、給付金の是非、生活必需品の買い占めや転売問題、ウィルスに罹患したことをいたずらに謳って店舗を訪れる事件、などなど。国内における新型コロナウィルスの感染数は増え続け、関東圏以外での感染報告も目につくようになっていた。


著名なお笑いタレントである志村けんが新型コロナウィルスで亡くなった3月29日あたりから、色々なものが変わっていくのだろうなという予感は確信へと変わり始めた。

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