定年間近のドクター、キレる

それは、私がインチャージ(チームの責任者)だったある週末の出来事。

私たちのユニットは、レポート(申し送りかな?) を、受け持ちナースとその週の病棟担当のドクターー(アテンディング)と、インチャージのナースの3人で午前中にその日の計画を話し合います。ナースが、その患者さんを30秒くらいでプレゼンし、その後、治療計画やその他の計画をアテンディングと受け持ちナースで話合うのです。

その日は、血液検査の結果が揃っていない患者さんが多く(私たちのフロアでは血液検査を朝の6時に行い ます。このミーティングまでに結果が出ているように)アテンディング、キレ気味でした。揃っていなかった原因はただ一つ、そのアテンディングがオーダー(指示)を出すのを忘れたのです。このアテンディング、もうお年なので、なかなかコンピューターのシステムに慣れることができなくて、この失敗、このドクターと働くとよくあるパターン。

そして、全ての患者さんのレポートが終わって、ついに、彼女はキレた。

「忘れたのは、私が悪いのはわかってる。でも以前のあなたたちだったら、ちゃんとフォローしてくれたじゃない?どうなっちゃったの?」

そうなんですよね。私たち古い世代、このアテンディングとずーっと、紙に指示を書いて、読めないミミズのような筆記体を、暗号解読のようにしながら読めるようになって、という時代から一緒に働いてきました。指示忘れがあったら、先回りして、「やっておいたから指示出しておいてくださいね」ってことをなん度もやってきました。でも、時代は変わってしまったのです。

こういうやり方は、正当ではないんですね、だから、それをやりなさい、って若いナース達に強制することはできないのです。私たち古い世代がそれをやっていたのは、「もうしょうがないなあ。」とちょっとした親切だったのです。それを強制することはできませんよ、というと、そのドクターは、ため息をついて、いいました。
「いつからこうなっちゃったの?研修医もそうよ、気が利かないし、自分の仕事じゃないことは決してやってくれないし。助け合い、みたいなことはもうなくなってしまったの?」

そこから、色々と年寄り同士(笑)の愚痴が始まりまして…

でもちょっと面白い切り口だな、と思ったのは、彼女のこの意見。
「今は、医学部でも実際の医学の勉強を始める前から、まずセルフケアを教えるのよ。看護学部もそうでしょう?その結果が今現場で出始めているんだと思う。自己犠牲は確かに度が過ぎるとよくないけど、自己犠牲をあまり厭わない人たちがヘルスケアのインダストリーに入ってくるのに、その人たちまで自分ファーストになったらどうなっちゃうのかなあ」

実はこの医学部のセルフケアのプログラムに私はちょっと首を突っ込んでいて、それを日本の医療者教育に持っていこうという動きを応援しているのですが、予期しないところから予期しない切り口を見ました。

さて、モントリオールの医療現場にはこの後どんな未来が待っているのか、乞うご期待ですよ。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?