停滞する米朝首脳会談 ~テレビは騒いでいるけれど~

 ※これは架空のインタビューです

 アナウンサー「ただいまベトナムのハノイでは、アメリカのトランプ大統領と、北朝鮮の金正恩委員長による、二回目の米朝首脳会談が行われています。今回はこの会談について、別に専門家でもないオ・リーベ氏にお話をうかがいたいと思います。オ・リーベさん。今回の会談の印象はまずいかがでしょう」

 オ・リーベ「はい。今回の会談を一言であらわすなら、9割のパフォーマンスと1割の交渉というのが本当のところだろうと思います」

 アナ「つまりあまり大きな進展は期待できないということですか。なぜでしょう」

 オ「そもそもこの米朝協議がどのようにしてはじまったかということを思い出してください。
 北朝鮮が米国に首脳会談を打診し、これをトランプ大統領が受けたのは昨年の3月のことです。
 しかし、その前月までアメリカと北朝鮮はともに激しい批判の応酬を重ねていました。
 それが急遽対話路線へと舵を切った。実はすべての問題はそこにあるのです」

 アナ「第一回の首脳会談については米国国内でも批判が出ていたようですね」

 参考:米朝首脳会談に米国内から批判の声 トランプ擁護にCIA長官らやっき|ニューズウィーク日本版 https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/03/cia-10.php?t=1

 オ「この会談は双方の事務方によって綿密に計画されていたものではありません。
 あくまでトランプ大統領と北朝鮮とが中心となり、比較的に早い期間にまとまり、そして実現までこぎつけたものです。それだけにセンセーショナルでした。
 そこにトランプ大統領の狙いがあったのではないかと思います」

 アナ「トランプ大統領の狙いというのは?」

 オ「これは『外交的に』というのではありません。彼の性格、ある種のスタイルの話です。
 トランプ大統領は候補者選挙のときから激しい言動で注目されてきました。
 こうした激しい、ときに過激な主張が有権者の一部に受け入れられてきたのは、その内容がわかりやすいものだったからです。
 実際、大統領に就任してからのトランプ氏の行動、とくに外交を見ても『TPPからの離脱』、『パリ協定からの脱退』など、少しでも自国の不利益になると判断したもの、あるいはそうなると彼が主張しているものに関して次々に事前の公約通りに実行しています。
 こうした彼の態度は、綿密な駆け引き・・・事務方の交渉の上に成り立つものではなく『まず行動する」という信念に基づいて行われているからです。
 北朝鮮に対して当初アメリカがとった態度にも同じことがいえます。
 まず軍事行動を示唆するような動きをとり、さらに強力な制裁をかけた上でそれに耐えきれなくなった相手の譲歩を待つ。これが彼の戦略だったわけです」

 アナ「そうしますとトランプ大統領があれほど早く首脳会談を決めたのは自分の外交が成功したという確信があったというわけですか」

 オ「はい。しかし、問題はそこに三者の思惑が絡んでいたことです。
 ひとつはもちろん北朝鮮から譲歩を引き出そうと考えていたトランプ大統領。
 次にアメリカの制裁を解除させたい北朝鮮。
 そして両者の間に入った韓国です」

 アナ「韓国の思惑というのは」

 オ「米朝首脳会談の開催が決まった際、事実上両国の間に立っていたのは韓国でした。
 トランプ大統領に対して、金正恩委員長のメッセージを伝えたのも韓国の特使団です。
 すでに当時一部の専門家はこうした韓国の特使団が伝える北朝鮮の声明が果たしてどれだけの信ぴょう性を持つのか、かなり懐疑的な見方をしていました」

 参考:BBCニュース - 米朝首脳会談 発表時の奇妙な光景 https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-43340391

 アナ「韓国としてはアメリカと北朝鮮との融和をなんとかして実現させたい、という考えがあるということでしょうか」

 オ「もちろんです。米朝の関係が悪化すればその最前線になるのは韓国です。
 また韓国政府は開城工業団地や、金剛山観光の再開をアメリカに対して、北朝鮮の非核化の工程表に盛り込むよう要望するなど経済的にも大きな期待を寄せています。
 ですが、こうした韓国の姿勢は必ずしもアメリカの考えとは一致していません。
 アメリカ側、何よりもトランプ大統領は、そうした南北の利害関係よりも、外交上のよりはっきりとした成果を引き出したいと考えているからです」

 「韓国政府、ビーガン代表の平壌行き直前に開城工業団地・金剛山再開方案を提案」(中央日報日本語版) - Yahoo!ニュース https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190221-00000023-cnippou-kr

 アナ「アメリカが期待していたことというのはなんなのでしょうか」
 
 オ「北朝鮮がすぐにでも核兵器を廃棄するというはっきりとした態度を示すことです。
 先ほどの韓国の特使が述べた声明を読めば、北朝鮮はすでに非核化への決意を表明し、しかも核、ミサイルの実験を控えると約束しているわけですから、アメリカとすればその次は当然北朝鮮が具体的にどのように核兵器を廃棄し、それを国際社会が査察などにより確認するかを示す工程表を提出することを求めていくことになります。
 しかし北朝鮮はこれに対して明確な期限などを設けず、今日にいたるまで協議もまとまっていません。
 そうした中、むしろ北朝鮮は現在も引き続き核、ミサイルの開発を続けているという分析が相次いで報告されています。
 現在行われている会談でも当然これは焦点になるでしょうが、この一年あまりの動きを見ても、果たして工程表が作成されるのか、またそれが示されたとしても今後両国の合意が守られていくのかは未知数です」

 参考:北朝鮮、核能力「隠している」と国連報告書 https://www.cnn.co.jp/world/35132344.html

 アナ「北朝鮮の思惑というのはどのあたりにあるのでしょうか」

 オ「北朝鮮には核開発というカードしかありません。もしもこれを放棄してしまえば今後アメリカ政府と交渉するための手立てがないのです。
 その上で彼らはすでにアメリカに対してできる範囲での譲歩はしていると考えているでしょう。
 それは核、ミサイル発射の実験を凍結しているという点です。
 そのため、できるだけ長くアメリカと交渉を行い、表面上は非核化を進めていく態度を見せるにせよ、経済援助や、制裁の解除といった手土産を要求してくるのは間違いありません」

 アナ「北朝鮮はやはり核開発を続けるとお考えですか」

 オ「現在のアメリカの情勢を見ても、安易に北朝鮮側が妥協することはないでしょう」

 アナ「アメリカ側の情勢が重要になると」

 オ「これはあくまでもトランプ政権と北朝鮮による交渉であるというのが重要です。
 トランプ大統領は自身の外交が非常に上手くいっていると繰り返していますが、一方でアメリカ国内からは今の政権の姿勢について冷ややかな声が聞かれます。
 核廃棄への道標が不確かな中で、アメリカ側が北朝鮮になんらかの譲歩をするのではないかという懸念があるからです。
 過去のアメリカと北朝鮮の交渉を見ても、非常に大きな転換点になり得る出来事がいくつかありました。
 94年、クリントン政権は北朝鮮の核開発放棄に対する見返りとして軽水炉建設の支援や、燃料供給の合意をしました。また2003年から行われた六者協議の場でも、北朝鮮の核開発をめぐって様々な駆け引きが行われましたが、現状を見てもわかるように、北朝鮮は核開発を継続し続けてきたのです。
 こうした中でトランプ政権が北朝鮮に対して安易な妥協を行えば、議会から反発が起こる可能性も十分にあるわけです。
 そうした事情から今回の会談は『両国の交渉は順調である』という姿勢を示すためのパフォーマンスを双方ともに意識しているのが現状なのです」

 参考:アングル:北朝鮮との非核化対話、「失敗の歴史」繰り返すか https://reut.rs/2FEDOZ9

 アナ「北朝鮮の狙いは」

 オ「少しでもアメリカから有益な妥協を引き出すことです。すでに多くの専門家が不安視しているように、トランプ大統領が外交の成功を強調するために何か大きな手土産を与えるのではないかというのが一番のポイントです。
 しかし、北朝鮮にとってもトランプ政権との関係はやや難しい局面を迎えているのも事実でしょう」

 参考:焦点:米政府、2度目の首脳会談で北朝鮮に「要求切り下げ」か https://reut.rs/2NyASyZ

 アナ「北朝鮮にとっても、というのはどういうことですか」

 オ「お話してきたように今回の一連の会談はアメリカ政府、とりわけトランプ大統領の意向のもとで行われてきました。
 しかし、大統領個人の意向が強く反映されているだけに、北にとっては交渉の相手がどれだけ信用できるか、ということが非常に重要になります。
 今回の会談で上手くアメリカから大きな手土産を獲ることができたとしても、アメリカ国内で批判が起きた場合にそれを翻さないとは限らないわけです。
 また、何らかの合意に至った場合でも、近い将来にアメリカの政権が代わるということになれば、これまでの交渉が継続できるかは難しくなります。
 アメリカは非核化の後に経済援助を行うといっていますが、それが将来的に確実に行われることを保障するものも何もありません。
 トランプ政権の難しいところとはそういうところなのです。
 彼には本来強い政治基盤がありません。
 そのため継続的なひとつの方向性として見るよりも、国内外の世論を意識した駆け引きの一環であると考えた方が私はいいと思うわけです」

 アナ「ありがとうございました」


・オ・リーベ氏紹介。日系日本人。バーチャルユーチューバー評論家。

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