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~ジェットコースター克服?体験記~

 ジェットコースターに乗る人の気持ちがずっとわからなかった。そもそも人間はよくできていて、危ないことに関しては恐怖を感じるようにできているはずだ。にも拘わらずわざわざ恐怖(スリルといいかえるのだろうか)を感じにいく神経がわからない。

ただ、苦手な割には遊園地でみんながジェットコースターにのると言えば「一人待つのはいや」と引っ提げ無理やり乗り込むうさぎさんの根性を持つ私。最大限声帯が耐えうるボリュームで叫び泣きわめくことでなんとか恐怖をやり過ごしてきた次第である。

さて先日ディズニーランドに行ったのだが、一緒に行った友人はジェットコースターが大好きである。最初こそ「無理して乗らなくてもいいよ」と言ってくれていた。しかし、だんだんと双方のテンションが夢の国仕様に近づくとあれも乗ろうこれも乗ろうとはしゃぎだす。その過程でやはり「やっぱりじのってみない?ジェットコースター」とお伺いが来た。
私は「いやだなぁ、できれば乗りたくないなぁ」と思いつつすこし考えこむ。

なにせ夢の国への切符は高くつく。かたくなに「乗らない」というのもどうなのだろう。体験できるものはできるだけ体験したいという私のポリシーに反する。くわえて友人の「大好きなジェットコースターにのる」という今しかできない貴重な体験を奪っているのだ。それはいたたまれない。
それに「喉元過ぎれば熱さを忘れる」と言うが、それは恐怖も同じである。
直近で乗ったのはたしか5年前、どうしてあんなに喉が切れるほど叫んでいたのか、その感覚は既に忘れているのだ。なので「今なら乗れるのでは」と軽率に感じてしまう。しかも今なら、そう感じられるだけ決定的な理由がある。

スピードに強くなったのだ。

私は直近で「自動車を運転した経験」を手に入れた。よくよく調べるとディズニーランドの「ビックサンダーマウンテン」は時速40キロ強といったところ。であればまちなかを車で走る速度と変わらない。たしかに自動車学校に通い始めた頃は時速40キロで運転するのも怖かったとことを覚えている。道理でジェットコースターも怖いわけだ。しかし今はその速度に慣れつつあるのだ。「それなら自分でアクセル踏んで操縦していると思っていれば怖くないのでは?」「というか、いままでだって親の車のってたし!JRとか飛行機とかと比べれば全然おそいじゃんね!」私はぼんやりとした恐怖の記憶をめちゃくちゃでがばがばな理論で上書きし、列に並ぶことにした。

         * * * * *

しかし、列に並んでいるうちにだんだんと正気になってくる。何せ1時間待ちである。おしゃべりで適当に気を紛らわせるがどうもぼんやりとした恐怖がくっきりと見えてきたような気がする。まるで某環境大臣。
なので私は前述のジェットコースターの悪口をいいはじめた。あれにのってわざわざ怖がっているやつの気がしれない、と。しかしぐだぐだと言っている間に思い出した。生産性のない悪口はわたしは嫌いだった。もうすでに30分並んでいる。せっかく順番を待ったのにここで逃げ出すのももったいないのである。

そうであるならば考えるのは「ジェットコースターを楽しむ方法」である。

「ねぇ、ジェットコースターの魅力を教えて」

ひとつ友人に教えてもらったのは「風景を楽しむ」である。当たり前と言えば当たり前の事なのかもしれないが目から鱗だった。
「わたし、ずっと目つぶってるかも・・・風景とかわかんないわ」
「え、それはもったいないし逆に怖いよ!」
友人曰くジェットコースターで目をつぶっていると、実際に何が起こっているかわからないので、脳内で勝手に状況を補完してしまうそう、なので実際よりもより速い速度で、えげつない角度で走行していると勘違いしてしまい余計にとんでもない乗り物にのっていると錯覚してしまうのでは?とアドバイスをいただいた。
でも身に覚えがある。怖そうな人に近づいてみると、実は以外にやさしい面、かわいらしい面があるのに似ている。怖そうな人をよく見ずにいると逆に怖いよね。
よし、ジェットコースターに乗っている間は目をかっぴらこう。

腹をくくった私はさらに聞く。
「あとカーブの時ただでさえ怖いのに地面に対して並行じゃなくて斜めになっているのが意味わからん、怖い」
「あれはうちらを守ってるの!並行だったら遠心力でふっとんじゃうから!車道のカーブが斜めになるのと同じだよ。」
「え!はっ!たしかに!自動車学校でならった!」
私はあのカーブの瞬間、内側に傾斜がかかるのを完璧に「いやがらせ」だと思っていた。しっかりつかんでないと地面に投げ出される気がするからだ。しかしどうやら違うらしい。うちらを怖がらせながらきちんと守ってくれるとかツンデレかよ!
よし、カーブの傾斜はともだち、身をまもってくれる。

          * * * * *

さてついに賽は投げられた。順番が回ってきてしまった。
安全バーのカチっという音が鳴る。わりと無防備なのにこの棒一本で「安全」と言えるのがすごいと思う。
安全点検の後「いってらしゃーい」というキャストの合図でアトラクションが動き出す。
ーあ、ちょっと後悔してるかも・・・
こわいものは怖い。ゆっくりと建物の中を進みだす。ついに動き出してしまった。暗闇の中、ゴトンゴトンと音を立てる。恐怖の音にしか聞こえない。
その内私の上体がななめ上に向かった。ー坂を上っている!一筋の光が暗闇を破くのが見えた。天空に腹を見せている。私たちはだんだんと坂を上っているようだ。ダッダと機械音が鳴るたび腹を巡る血が冷えてるような感覚が襲う。ひぁ、と誰よりも先に悲鳴が出た。大丈夫だから、と友人の声が聞こえた。
一筋の光が一枠の青空となった。この洞窟を抜けたら始まる。青空が近づく。ついに時が来てしまった。機関車が暴走する合図である。機械音が悲鳴でかき消される。自分の体が風を切りはじめた。アクセル、アクセル、自分はアクセルを踏んでいる!と思いつつ
やっぱり時速40キロなんて嘘!早すぎ、無理!止まらないドライブ・・・?
カーブに至ると私は身構えて言い聞かせた「カーブは友達」
とにかくこわい。しかし体が地面側に傾くことを厭わない。抗わない。
すると自分の体とジェットコースターの機体が一体化したような感覚を
味わう。体の力が抜けた。体の力が抜けると風と同一化した感覚にもなった。ふと線路に向けていた目線を上げるとごつごつとした茶色の岩肌の山々を駆け巡っていて、19世紀西部アメリカぽくてテンションが上がらなくもない。しかしまた洞窟の中に入って急に暗くなる。次に不意打ちに急降下。やっぱり怖い。目は閉じないとなるとやはり叫ばずには精神を保てなかった。
                    * * * * *

ジェットコースターから降りた。喉はあいかわらずガラガラである。やはり急降下は怖かったしやはり半分記憶がないが初めて目を開けて乗ったのでジェットコースターがどういうものなのかなんとなくわかった気がした。
今までは目をつぶっていたのでジェットコースターがそもそもどういう軌道を走っていたのかもわからなかったし、高速で無防備(?)な乗り物にのるとあんなにも風を感じることもしらなかった。そしてほんの少しだけ肩の力を抜くことができた。二度と乗りたくない、から「まぁ、友達がのりたいっていうなら付き合ってもいいかも」くらいには昇格した気がする。
人生で一番ジェットコースターを楽しめたかもしれない、というと
「いや、あいかわらずやばかったよ、声」とは言われたが・・。

            * * * * *

どうやら怖いものに出会ったときは目をかっぴらいて対象をよく見ること。よく知ること、それが大事なようだ。意外と大丈夫だった。そんなことをあと何回繰り返すのだろう。怖いものがたくさん見えるように生まれてしまった。でも実はそんなに怖くないものがほとんどな気がしている。ぜひともこれからも「怖いもの」に裏切られたい。意外といけるなぁと笑いたい。

しかし意気揚々、これもビックサンダーマウンテンと速度は同じくらいだからまぁ大丈夫でしょう、といって乗りこんだスペースマウンテン、しかしあれはあれでまた別の乗り物で、暗闇の中を走行するのでどこを走っているのかまったくわからないので普通に怖かった。あの空間で平衡感覚を奪われないでいるにはまだまだ修行が必要そうである。

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