晴れない春を抱えたまま <読み切り小説>
まぶたと眼球の間を、羽虫がせわしなく動き回る。鼻腔にも数匹が迷い込んで、飛び回る。定位置にあるはずの目と鼻が、定まらない。
頭全体がぼーっとする。不快で、わずらわしい。
きた、マスクをつけていてもなのか。
空気の冷たさはまだ冬のそれなのに、からだの異変で、春の訪れを感知する。
ん? 違うな。そもそも季節はずっとずっと前からそのままあって、冬とか春とか、あとからやってきた人類が、言葉を授けた。名前があるから、季節にも、明確な境界があるような気がしているだけ。
ゆった