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【ハゲ杯】 わたしのおでこ。


どうでもいい話だが、わたしのおでこはちょっと広い。

子どもの頃から周りの子よりもやや広めだったが、35歳を過ぎてからおでこの範囲は少しずつ拡大している。なんなら成長しているのだ。

そんなわたしのおでこが、最近の悩みの種になっている。

わたしのではなく、主人の悩みに。


薄毛にはいくつか種類があるようだ。

わたしはというと、ペナルティのワッキータイプだ。断じてワッキーの髪型ではないけれども。もともと髪の毛の量が多く、今でも美容室へ行くたび「多いですね〜」とかならず言われる。ただ、おでこだけがちょっと広い。はっきり言って、バランスが悪いのだ。おでこはちょっと広いが、フッサフサ。もう、どっちつかず。

でも、わたしはこのおでこが好きだ。なんてったってもう40年のお付き合い。小学一年生のとき、下校中に全速力で走ってきた同級生の男の子とぶつかったはずみで電信柱に激突し、おでこのど真ん中を切った。病院に向かう車の中でぼんやりと「わたし、死ぬの?」と母に聞いたのを覚えている。そして、学校の先生や同級生が病院にきて、大騒ぎだったことも。今でもその時にできた傷は残っている。

今は、いつも前髪を下ろしているから、おでこの傷も、おでこの広さも目立たない。

まぁ、洗顔して鏡を覗くと、洗い流したはずの泡がまだ生え際に残っていることが増えたけど。湯上がり卵肌の、卵の部分がちょっぴり大きくなってきた気もするけど。つるっとしたおでこは我ながらかわいいと思う。今は特に気にしていないし、悩んでもいないのだ。

なのに、主人だけがなぜか気にしている。

朝、わたしの寝癖をちらっと見る。わたしがお風呂上がりに髪を乾かしている姿もちらっと見る。自転車での外回りから戻った時も、ちらっと。常に視線を感じる。でも、彼の視線の先は、わたしの瞳じゃなくて、おでこなんだ。

彼と結婚して8年。出会ってから20年が経つ。きっとわたしよりわたしの顔を見ている。だからこそ、思うところがあるのかもしれない。わたしすら気付かない、何かに。

彼は時々、「おでこ、おでこ」と言っては、前髪をおろすジェスチャーをする。ハイハイ。前髪を整える。わたしはもともと前髪は短めがすきなのだ。それも彼は心配している。周りの人の反応が気になるようだ。当の本人はなんとも思っていない。

わたしはそんな彼の反応が可笑しくて、ちょっといたずらをする。

車に乗った時、窓を少しだけ開けて風を入れる。案の定、わたしのおでこは全開だ。おでこが風を感じて喜んでいる。彼は運転しながら横目でこちらをちらちら見る。ハイハイ。わたしは大笑いしながら窓をしめる。

昨日、道の駅で食事をした。屋外のテーブルで向かい合って豚丼を食べた。外でご飯を食べるのは久しぶり。2人ともお腹が空いていたのであっという間に食べ終わった。さあ、片付けようと立ち上がった瞬間。

その時、わたしたちの間に、気持ちのいい風がぴゅーっと吹いてきた。ーーああ、これは。心に火が灯る。

「ごちそうさま。おいしかったね!」

わたしはおでこ全開で、とびっきりの笑顔を彼に向けた。


彼の視線は、わたしのおでこ。


「隠したほうがいいよ」

ごちそうさまより先に返ってきた。


‥‥よっしゃ。



最後までお読みいただきありがとうございました。

こちらの記事は、マスター・ハゲ様が企画されている、【ハゲ杯】への参加記事となります。(2020年9月13日追記 ※こちらの企画はすでに終了しています。)

このタイミングを逃したらいけない!と思い、書かせていただきました。

すてきな企画をありがとうございました。



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