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旅の恥はかかぬがよし

恥を忍んで書く。
先日、宿泊したホテルで、間違えてうっかり異性のトイレに入ってしまった。

そのビジネスホテルはできたばかりのようで、施設もサービスも真新しかった。セキュリティ対策がしていて、エレベーターに乗る際には、部屋のカードキーをかざす必要がある。また、各階にアメニティグッズが設置され、必要なものを必要な分だけ受け取る。外国人観光客にも対応したホテルらしく、あらゆるものがわかりやすく、シンプルだ。

朝。予定より早く目覚めたわたしは、夫を起こさないよう部屋を出て、1階の共用トイレへ向かった。

ロビーに着くと、食堂から食器の鳴る音や楽しげな話し声がする。フロントの方と目が合ったので「おはようございます。」とあいさつをした。

食堂横の細い通路を進む。建物にはホテル以外の施設もあり、通路はまるで迷路のようだった。50mほど歩くと「この先トイレ」という立て看板があった。案内通りに突き当りを直角に曲がり、ようやくトイレを見つけた。

トイレは通路の右手側に並んでいて、入口ドアの横には20センチほどのトイレサインがあった。そのサインは男女とも同色(黒)の、いわゆるカラーユニバーサルデザインだったのは覚えている。

歩きながら、トイレサインを斜めに見た。
だけどぼーっとしていて、その「かたち」をよく見ていなかったのだと思う。何気なく扉を開け、個室に入る。清潔感のあるトイレには誰もいなかった。

個室を出ると、向かい側に小便器が3台並んでいた。

へえ、ホテルはユニバーサルデザインで、トイレはジェンダーフリーとは、進んでるなあ。わたしは自分の間違いに気づくことなく、むしろ、この新しい施設にすっかり感心していた。

しかし、手を洗っていると、ふいに違和感がおそってきた。
まてよ。子ども用のトイレならまだしも、大人用は見たことがない。 
……! あわててドアから飛び出し、バッと後ろを振り返る。

壁にあったのは、紛れもない男子マークだった。

あわわわ~!! 
細い通路を速足で歩く。借り物のスリッパで、しゅたたたと、足音を立てずに。

都合のよい思い込みというものは、本当におそろしい。最後まで完璧に間違えた。
トイレに誰もいなかったことが唯一の救いだ。先日、女子トイレからすごすごと出てきた男性が「どうしてここにいるの!」と何人にもきつく言われていたのを思い出した。
いくら悪気がないとはいえ、ばったり誰かと会ってトラブルになっていたらと思うと、眠気が一気に吹き飛ぶ。

この事があってから、公衆トイレの入口を念入りに確認するようになったのは言うまでもない。

旅へ出ると、人と話すのが苦手でも、出会った人と会話を楽しんだり、愛想よくふるまったりする。ふだんより肩の力が抜けるのは、初めての地にいるという開放感からくるのかもしれない。

ただ「旅の恥はかき捨て」という言葉はあれど、やはり恥はかかないほうがいい。羽目を外すことなく、誰にも迷惑をかけることなく、気分よくスマートに旅を楽しみたいものだ。

最後に、この場を借りてお詫び申し上げます。以後じゅうぶん気をつけます、ごめんなさい!

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