海が見たかったの
実家へ帰省して、3日目のこと。
朝食を済ませ「ちょっと散歩してくる。」と母に伝えました。
倉庫の鍵をもらい、扉を開けてガサゴソ奥へ入ります。「お父さんに出してもらおうか?」「大丈夫、自分でできるよお。」
よいしょ、と引っ張り出したもの。
3つ下の弟が高校生の頃に乗っていたらしい、ブリヂストンのマウンテンバイク。かれこれ20年ものです。
先日、自転車屋さんで全部整備してもらったそうで、チェーンもハンドルもぴかぴか。庭で試しに乗ってみたら、後ろのギアもゆっくりながらも変速できます。うん、これなら大丈夫。
日焼け止めを多めに塗り、母から白いTシャツと、麻のリラックスパンツを借りました。そして、ショルダーバッグにミネラルウォーターを入れて出発です。「行ってきまーす。」
朝7時だというのに、すでにかんかん照り。生暖かい風を感じながら、町の目抜き通りを下っていきます。
あ、お習字の先生のお宅、まだ残ってる。ピアノ教室は、取り壊されたんだ。そういえば、あの子のお母さん元気にしてるかな。懐かしい記憶をたどりながら、ゆっくり、ゆっくり走ります。
そして、港へ着きました。
天然の入り海。
小学生の頃、写生会が毎年この場所で行われていました。クラスメイトと一緒に重たいベニヤの画板を持って、白い大型漁船や釣り船、深緑色の海を眺めては描き…。
港は震災の復旧工事がようやく終わり、きれいに整備されていました。ほっと安心しつつ、ビュースポットの奇岩が防潮堤で囲まれていて、少しさびしさも。
港をあとにして、細い路地へ入ります。
民宿が立ち並ぶ、だらだらした上り坂。ギアを少しずつ軽くして、なんとか登りました。登り切ったところで足を止め、水をごくごく。息を調えます。
そして短いトンネルを越え、同級生のお家が経営している民宿の前を通ります。玄関先にある歓迎ボードには、たくさんのお客様の名前。うん、よかった。
なだらかな坂をつーっとくだると、潮のかおり。
見えてきたのは、海。
初日の出を見に両親と訪れる、大好きな、大好きな場所です。ここにくるのは、4年ぶり。
駐車場に自転車を停め、堤防へと向かいます。
北も
南も
東も、ぜーんぶ海。
ざざーっ
あっ
ざぶーん
水はひんやり冷たくて、サンダルも足の裏も砂だらけ。駐車場に戻り、自転車を押して砂浜へ向かいます。
砂浜には一組のカップルと、わたしだけ。
聞こえるのは、ざぶん、ざぶん、波のおと。
穏やかに見えるけど、波打ち際から先はずんと深くなっていて、近づくのはここまで。海育ちでも足がすくみます。波をじっと見ていると吸い込まれそう。
足あとと、わたし
ここは鳴き砂だと、後になって知りました。
日差しが強くて、暑い暑い。滞在時間は10分ほどだったけれど、海を見ることができて、うれしかったです。
生まれ育った町の、大切な海。
初めてここに来た夫が「プライベートビーチだね。」と言ってくれた、とっておきの海。
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