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※本当の話です

※本当の話です
甲状準拠のETIZEN-Volgaと名乗る男が現れた。その風貌は人間のそれとは似ても似つかなかったが、何となく男だと分かった。いや正確には知らないが何故か男に見える、男にしか見えないーかかる状況からしてオスに見えるという形容の方が正確かもしれない。こいつが現れたそれ以前のことは本件にとって頗るどうでもよく、先ずは取り敢えず取り急ぎ現れてしまったからには仕方がないので、何らかの対応関係を(なんと、大体の事柄だ!)取ることにする。

「こんにちは」

「お前は地球人か それは本当か」

これより地球人なことないよ。

こいつは俺のどこに非地球人要素を見出したのだろう。
確かに我が身を振り返ってみてこいつの振り見て我が振り直す……いやこいつと比較して直そうとすると流石に超平々凡々な地球人と言えるが、普通の意味において、全てにおいて平々凡々かと言われるといささかの疑問がある。とは言え少なくとも外見においては超一般的日本人のそれであるからやはりよくわからない。というかどちらかというとそれは俺のセリフだ。
後まだ何も言ってない。

何も言っていないならばと、(そんなことはあり得ない!)俺が何かを言い出そうとした矢先、そいつは手中?否……手と形容するのも何となくモヤモヤするがとにかくそれらしい部位に対応していそうなそれらしい場所からそれ不相応な炎を出してくれた。


「……」


「ほ‐むら【炎・焔】 ① ほのお。 火炎。 ② 転じて、心中に燃えたつ怨み、怒り、嫉妬、または欲望、情熱などのたとえ。」

だから何だよ。
いやだから何だよってのも変だが、何なんだ。

「俺はお前の望む通りお前とお前の父親との対応関係を取る。対応関係の取り方はお前に対応する父親に穴を開ける形で行う。」

「よく分からないがやめてくれないか」

「如何にか、ふむ。開けられる限り最も大きい穴を開けるのがセオリーであるから、穴の開け方は一通りで、お前の肉親を三次元空間に投影した時のそれそのものの大きさ・形の穴を開けることになる」

……何が"如何にか"、だ!

「方法じゃねえよ!」

「よくわからなかったということか」

「それもそうだがそもそも理由がわかれば許可するって意味じゃねえよ、ボケ!」

埒が明かない。

「取り付く島もないな」

「地上権ぐらいは設定してやってもいい」

「ふむ」

そう言うと男(?)は何やら突然変な動きを始めた。こいつの動きを表現する語彙を俺は残念ながら持ち合わせていないらしい。なんというか境界面をそもそも錯綜させるように動くんだよな……こいつ……三次元がどうとか言ってたが、実際に見えない次元や見える次元、二次元n次元なんでもござれと言ったご尊顔で全てを相成り申しているようにも見えてくる。他所でやって欲しい。

「完了」

次の瞬間、これまで経験したありとあらゆる眩暈を濃縮して圧縮して一気に解放したかのような眩暈ーいや、起きたのは単に「振動」なのかもしれない。ここにはこいつと俺しかいないから、ここにおいて主客の概念を持ち出すことに意味を見い出すことは難しい。目眩即振動、振動即目眩。かくて世は尚の如し。

フラフラと、フラフラというのは重みの分散にかなり親和性の高い概念ではあるものの、なおのことこの、この重みと両立して確実なそう重苦しい不快感を以てしてして立ち現れるああ気持ち悪い、胃の中の内容物全部みたいな瞼を搾り上げるような感覚で瞼を開く。

瞼を開くと俺たちは無人島にいた。なんてことだ。至らないことがあればぜひご教授願いたい。確かに無人島ではないかもしれない。放火犯人が放火した家にいても人がいる建造物に放火したことにはならないから同じ理由で許せ。

「ここが取り付く島だ」

死ね。
死ね以外の感想がない。
強いてあるとしたら……なんだろう。死ね。

「今この瞬間から、"取り付く島"とはこの島のことを指すことと相成り申した」

絶妙に俺の内言語と語彙被らせてくんのやめてくんねーかな。
何?いつもお前のこと見てるぞってこと?お前の(脳内の)こと見てるぞってこと?匂わせなんだろ?語彙被せてくるの俺の思考盗聴の匂わせなんだろ?なあ5Gアルミホイルカルト教団安心安全真心の

「取り付く島のイデアを物理世界にスケールダウンして持ってきた、とでも言えば通じるか」

ふーん。と俺は言った。正確には言ってないけどどうでもいい。ふーん。という感じ。
ふーん、という心持ちの穏やかさとは対照的に
俺は全身の気持ち悪さを堪えつつ自暴自棄気味に砂浜へと向かっていく。何度か足がもつれてずっこけたが気にしない。砂浜に到着して砂浜を無造作に全身で蹴り上げる。こうなってくると全てが曖昧になってくる。砂浜即自分。自分即砂浜。そんなことはない。適当言うな。

「性行為によって自他境界が曖昧になるとか言うアレに近い話か」

きめーこと言ってくんじゃねえよ気持ち悪い。

お前超越存在みたいな感じだったじゃん、世界観ずれんだよ気持ちわりい。いや気持ち悪いのはそこだけじゃないが、いやむしろ逆にその単なる物理的近接のみをもってそう誤解するのは神みたいな奴の感性なのかもしれないとも思えてきた。何も近くねえしそもそもそんなアレはない、というかそれに準えると単に物理的に近いとそうなるみたいな話になるだろ バカがよ 俺は常に空気とセックスしまくりとでも言うのか?空気とは近いがその意味ではまるで近くないしそれがお前のアレと俺の話が近くないってこと傍証だろうよいや違う!そもそもそんなアレは無えんだよ!ゴミが!

「これにより取り付く島が顕現した。」

あ、聞こえてるだろうクセに無視するんだ。ふーん。思考盗聴仄めかしたり仄めかさなかったり平仄を合わせたりで大変ですねえ。イヤハヤご苦労なこった。

「取り付く島は存在する。よって、お前の父親に穴を開けられる。」

ふーん。

ふーん。と思った。もう好きにしてくれ。

「というか既に開けている。既に開けていたことに後からなった。」

「遡及効じゃねえか」
思考盗聴してんだろ?なぁ……

「これが今のお前の父親だ」

俺の視界上にけったいなUIを以ってして立ち現れるは「父親シュミレーター」なるものである。父親が3D モデルのデフォルメされたキャラクターとして表現されており(ちなみに5頭身。絶妙すぎる)上下反転着せ替え色変えなんのものだった。今すぐにでも俺は父親色変え界隈の先駆者としてデビューできること間違いない。物理学ありがとう。きっと心は身体に器質的に宿るんだね。

「で、これが何なの」

俺は父親にフリフリのドレスを着せて大きなリボンもつけてやる。めちゃくちゃ不格好かと言われるとデフォルメされてるからそうでもないが、まあ普通に不愉快ではあるよねーといった程度の形相を醸し出している。ことごとく絶妙なラインだ。

「これが全てだ」

「父親って無事なん」

「ああ」

ふーん、
ならいいや。

俺は左下にある「保存して印刷」のボタンを思弁的にクリックし、何らかの上位存在に向き直る。

「お前何?」

今更も今更も今更だが、こうして単刀直入に申し入れるより他にすることもなかった。

「俺は正解する存在だよ。言わば実在性そのものだ。俺が取り付く島を構成した。俺が実際に父親全てに穴を開けた。それらは全て本当であり、本当であるということはお前らとは独立に動く」

「父親はなんか変わったの?」

「何も」

「はあ。じゃあ全てに穴を開けるって何よ」

「父親の全身に穴を開けたということだ」

「それってなんかドーナツの穴は存在しないみたいな百万回ぐらい言われてる話に近い?だったらお前つまんないよ」

「おそらく近くない。部分を観念できないものに穴は開けられないという話だ」

「父親の部分は観念できるだろ」

「父親全てに穴を開ける時、そこに部分はない」

「はあ。」

はあ。

埒が明かない。

「なんかしんねーけど心配だからさ、父親のいるところに取り敢えず返してくんない?」

「完了」

完了、って……と思うのも束の間、先程と同様視界が飛び跳ねる。


---

「で、いい加減話してくれないか」

「だから言えない。俺だってこんなこと言いたくないんだ」

「言わないならずっとこの部屋に居座る」

「……取り付く島もねえなあ」

深夜2時、俺は父親に詰められていた。こんな時間までどこにいた、玄関から入ってきた形跡がないがどう入ってきた。だとか、そういうくだらない些事が主な内容だ。
しかし、……取り付く島もない、か。
俺は何やら色々言っている父親を尻目に考える。
俺が取り付く島がないと発した際に、その取り付く島の指示内容が実際にあいつが作ったあの島になった、というのがあいつの言う「これが正解である」ということの意味なのだとしたら
確かにそれは何の影響も与えない。それが正解であるという事実(?)が何らかの形に超越的に担保されているとして……それに確かに何の意味があるというのだろう?
……
尻目にしていた父親に目を戻す。

「言わないと追い出すぞ」

ハッ!その気もないクセに。そんな脅しが通用するほど俺は厳しく育てられちゃあいないね。幼少期は確かに酷かったが、それはともかく、中学上がったぐらいからもうほぼ関わりなかったじゃないか。
こいつの全身に穴が空いているとして、俺にとっては何も変わらないのだろうか。

「何か悩みでもあるのか」

……


あーめっちゃ話したい。めっちゃ話したいけど非現実的すぎて信じてもらえないだろう、頭のおかしい奴だと思われて終わりだ。こういう類の話によくある神秘体験を全く信じてもらえず勘違いされる不快なフェーズが飽きもせず繰り返しれるのだろう。し、実際ただの幻覚だと判断する方が自然だとも思う、でも俺は玄関以外からどこからともなく現に現れてしまっているらしいからタチが悪い。どこかの誰かが言っていた気がするが、玄関を開けてから部屋に入るべきで、部屋に入ってから玄関を開けるというのは、あまり賢明だとは言えそうにない。
それに、その上、誤解されるならされるとしていかんせんオチが弱い。だからあーこの感じで行くと最終的になんやかんやあって神みたいなやつは最初に出した焔に巻き込まれて焼死したとか言ってオチつけるんだろうな。

「何でも話してくれ」

……

どう焼死に持って行こうか。今考えている。

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