『眠い奴ほどよく眠る』第五夜
『もうダメ!!限界だ!!』
肩が痛くて、痛くて…
何をした訳でもないのに…泣けるぐらいに痛い…硬い…
こんなにカチコチの肩で歩き回っているのは、僕か二宮金次郎だけじゃないかと思ったが、あちらは石像だからカチコチなだけか。
そんな事は、どうでも良い。
今まで、湯船に浸かれば何とか肩こりを誤魔化せてきた。でも、もう無理な所まで来てしまった。
肩が悲鳴をあげている。耳の近くだから、とてもうるさい。
人生で初めて、マッサージに行ってしまおうか。
でも、何だかお金がもったいない気がする。いつもその気持ちが肩の痛みを上回って、今まで1度も行った事がない。
これまでは、肩の凝りよりも財布の紐が堅かった訳だ。
運よく、今日このあとは、何も予定がない事に駅前で気づく。駅前なら、マッサージ店なんて、いくらでもあるだろう。
冷たい風に吹かれながら、路地裏を歩いていたら、駐車場の隣にマッサージ店の看板を見つけた。こぢんまりとしたお店のようだ。
マッサージ店の良し悪しも分からないが、肩も限界だし、とりあえず、その店に飛び込んでみた。
━━ チリリン ━━
入り口のドアにかかった鈴が鳴った。
それと同時に僕は驚いた。
僕を迎え入れた整体師は、クマだった。子どものヒグマだ。
『どうしよう…でも、ここで引き返したら、このクマは悲しむよな…』
ほんの一瞬考えて、僕は、その場に残った。
『そもそも、クマにはマッサージが出来ないという考えがおかしい。』
クマは、ただ無言で立ち尽くしている。こちらから話しかけてみるか。
「あ、あの…肩と首周りが凝っていて…」
そう伝えると、クマは、カーテンのかかった個室を指差した。
そちらに向かい、上着を脱ぎ、施術台にうつ伏せで横になった。
ハープで奏でられたBGM以外、物音ひとつしない店内で寝転んで待っていると、段々と眠ってしまいそうになる。
突然、背中をギュッと押された。横目で確認すると、子グマだった。
子グマでも、やはり力が強い。これは良い。子グマで良かったとも言える。時折、爪が当たるのは玉に瑕だが。
相手がクマかどうかは別として、初めてのマッサージだけに、所々くすぐったく、所々痛かった。
『あれだけ凝り固まった体を揉みほぐすのだから、そりゃあ痛いに決まってるかあ。』
一通りマッサージをした後、子グマは、僕の肩をトンと叩き、会釈をした。多分、マッサージが終了したのだろう。
上着を羽織り、レジで会計をしようと財布を開いたら、全くお金が入っていなかった。僕は焦った。
『何で店に入る前に確認しなかったんだろう!最悪だ!』
かすかな希望を込めて、上着のポケットをまさぐると、どんぐりやクルミといった木の実が、パンパンに入っていた。
「あの!木の実でも良いですか?」
咄嗟にそう言って、会計トレーの上にじゃらじゃらと木の実を出して見せた。
『僕は何を言っているんだろう。クレジットカードや電子マネーの支払いなら、ともかく…』
クマは、会計トレーを黙って見つめて、木の実を2つ、3つ取り除き、僕に渡した。
━━ チリリン ━━
この返された木の実が、支払いに使えない木の実だったのか、はたまた、おつりだったのかは、またここに来てみなければ分からない。
帰り道、僕の肩はもちろん、頬までも緩んでいた。
To be conti入眠...
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