『眠い奴ほどよく眠る』第二夜

近所に小さな映画館がある。

昔は、沢山の人で賑わっていたのであろう、小さな小さな映画館。


昼間、そこの前を通った時に覗き込んで見るが、いつも、館長らしきおばあさんが一人、陽の当たる入り口に座り、まどろんでいるだけだ。


受付を離れているという事は、客が誰も来ないという訳だろう。

『当館で絶賛上映中!』と貼り出された映画ポスター。お客が居ないのに絶賛されている。誰にだ。。


『潰れてしまわないのだろうか?』と心配になる店が、たまにある。

ABCマートの向かいにある小汚い老舗靴屋、歯医者の隣の駄菓子屋、そして、この映画館。



ある夏の日、夜遅くにこの映画館の前を通った。まだ灯りがついていたが、誰も居ない。お客は勿論、館長のおばあさんも。


いつも通りがかりに見るだけだが、今は誰も居ないから足を止め、公開中の作品ポスターをじっくり見た。聞いた事もないような古めかしい作品ばかりだった。


「こりゃあ、繁盛しないわけだ。」


そう呟いた瞬間、気配を感じた。

入口の奥、薄暗い中、館長のおばあさんが居る。こちらを睨み付けるように見ている。暑さとは別の汗がじっとりと流れた。でも、背中は寒い。


とりあえず無理やりニコッと笑い、会釈する事しかできなかった。少しして、やっと声が出た。


「…こんな時間まで大変ですね。レイトショーってヤツですか。」


「そうなの、一番の稼ぎ時なのよ。」

良かった。さっきまでの鋭い目は、昼間と同じように垂れ下がっていた。

だけど、本当にお客さんが入ってるのか?


「上映されてるのは、何というか、その…味わいのあるものばかりですね。」


「いやぁ、どれも古いもんで、つまんないのよ。チケット買って入った人が、みーんなね、寝ちゃうの。…まぁ、その方が良いしね。」


謙遜してるのか?それにしても『その方が良い』とは、どういう意味だ?いや、そもそも、これは謙遜に当たるのか?


色々考えていたら、おばあさんがニコニコしながら言った。


「うちの映画は、眠たくなるって言ったでしょ。だからね、売店で枕と毛布を売ってるの。これが、まぁよく売れてね!」




成る程、潰れない訳だ。





To be conti入眠...



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