『眠い奴ほどよく眠る』第六夜




こんな夜中にナースコールが鳴ったらしい。


今、その病室に向かっている。だけど、みんな分かってる、そこに患者なんて居ないことは。


病室のドアを静かにスライドさせたが、やはり綺麗に片付けられたベッドがあるだけ。人の気配はない。消毒液の匂いが漂っている。


でも、間違いなく、この部屋からナースコールが押されたと、私の後ろをついて歩いてきた看護師は、ばつが悪そうに言った。


『また、これか…』


こんな事が時折ある。単なる怖い話だと思う関係者も多いが、そんな簡単な話ではない。


結論から言えば、彼は自覚がないのだ。この世を去ったという自覚が。仕方がない、まだ5歳の男の子だ。


私は、ベッドの側にしゃがみ、見えもしない相手にぼんやりと笑って話し掛けてみせる。


「どうした?痛かった?うん、そうか、そうか。」


この光景を見た、ほとんどの看護師は、顔が強張る。


彼のご家族には、知らせていない。悪い冗談だと思うかもしれない。さらには、からかわれていると怒るかもしれない。


ベッドの横から立ちあがり、看護師に「大丈夫」とだけ伝え、病室を出る。



彼を救えなかったやるせなさを胸に抱え、同時にこれからまだ残る自分の使命を背負い、なんとか首をもたげて当直室に戻る。


廊下が長く、薄暗く見えた。


その時、近くの大通りに、けたたましいサイレンと共に救急車が近づいてきた。そして、そのまま病院の前を通り過ぎて行った。


少しホッとする自分が居た。昔の自分が見たら、モヤモヤするだろうに。



To be conti入眠...


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