『眠い奴ほどよく眠る』第一夜
僕は、今、慌てて大学に向かってる!
今日、学校に行かないと単位を落としてしまう!しかも1つや2つじゃない、大ごとだ!母親に叩き起こされ、大急ぎで家を出たところ!
焦りながら学校へ向かっていると、誰かが後ろから僕の肩を叩き、「頑張ってますね。」と言った。
その落ち着いた声のする方を見ると、僕よりも背の大きい、丸々としたネコがコートを着て、こちらを見下ろし、ニコリと笑っている。
『ああ、ネコがコートを着てる。そう言えば、冬か。』冬にしては暖かい日だった。
この大きなネコを僕は知っている気がした。嬉しい気持ちになった。
そのネコは、ランチでも、と誘ってきた。
僕は、ふたつ返事で「行きます!」と言ってしまった。大学の事や単位の事、母親に叱られる事なんて、全く頭になかった。
まるで、不思議の国に迷いこんだアリスじゃないか。僕は、白ウサギを追うアリスの背中を追ってしまっていた。
大きなネコと暖かいテラスで、ビーフシチューを食べた。
大きなネコは博識で色んな興味深い話をしてくれる。すごく楽しい。時間を忘れ、このインテリネコの話を聞いていた。
ふと、大学に向かう途中だった事を思い出し、恐る恐る腕時計で時間を確認する。
ただし、面白い話をしてくれているネコが悲しまないように、 瞳だけを動かして。
もう手遅れだった。あと5分で授業が始まってしまう。
でも、学校の授業より有意義な話をしてくれるネコの方が、よっぽど優先すべき存在だと思えた。
忘れていたのは、時間だけではない。
ビーフシチューが冷めてしまっていた。
ぺちゃくちゃと喋っていたネコも、僕の食事の手が止まっているのに気付いた。
「カブは、お嫌いかな?」
『カブ?カブなんて、どこに…』ネコはビーフシチューの器の影から、何の調理もされていないカブを取り出した。僕の座った所からは見えていなかった。
「じゃ、頂くよ。」
ネコは、カブをむしゃむしゃ食べ、口の周りをハンカチで拭った。
そこから、またネコの楽しいお話は続いた。うっとりする時間だ。この大きなネコは頭の良い人が好きだろうに。僕ときたら、学校をサボっている。
そのあとのネコとの別れ際の記憶は無い。ネコの背中も見ていなければ、ネコの「じゃあ、また。」という挨拶も聞いた気がしない。
To be conti入眠...
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