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暮らす(20首)

盗まれぬようつながれているペンのそう思ったのは街を出てから


特急が鳴らして入ってくる時にその先を見てしまう感じ


たった今最寄りになった感覚があなたと二人きりを強める


犬のステッカーがいっぱい貼ってある家からとても安そうな犬


引っ越しではじめて使う筋肉そういえばボウリングでも痛かった


視界にはならないところから雨はあなたの鼻歌をともなって


通り雨 通り過ぎれば上空にそれなりのうつくしい多様性


道ばたにはぐれた蝶を踏んづけてしまう蝶結びと公園へ


おびただしい数の鳩から見え隠れするじいさんになる選択肢


今日以上明日未満を話しつつあなたのパンケーキはまだこない


ぬるい水 胸のあたりをするするとありもしない口論の想像


同じ好きなバンドのシャツを干している隣人それだけの連帯の


起きぬけに寝ぐせの向きが同じらしいことを暮らしの手ごたえとして


長男を騙る電話がわたしたちを家族たらしめた 数分間


仙人掌を枯らしてしまう左手にあなた由来の暴力が沿う


飲み干したポカリを軽く泳がせて夏のひかりに満たしてくれる


いつかあなたと焼かれるまでを笑うたびすこしく弾む前髪だろう


割引きはできないと言うおばさんのあなたやわたしより低い声


貸切日らしく子どもと子どもからはみ出すぬいぐるみを見送って


乳牛になれない牛が放たれるいちまいのあおぞらの乾燥に

/暇野鈴「暮らす」


◇本記事は第1回カクヨム短歌コンテスト二十首連作部門最終候補作を再掲したものです

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