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セイント・テールのお弁当箱

 小学生の頃、私は「なかよし派」だった。

 なんのこっちゃと言われそうだが、1990年代の女子小学生は大体「りぼん」、「なかよし」、「ちゃお」の三大少女漫画雑誌のどれかを読んでいたように思う。自分の周りで一番多いのは「りぼん派」、続いて僅差で「なかよし派」、「ちゃお派」はあまりいなかった。りぼんは恋愛系の話が多くて、読んでいて照れてしまう。なかよしは、恋愛もあるがセーラームーンやレイアースといった戦士ものがあり、読んでいてワクワクした。雑誌の後ろに掲載されている「スーパーちゃめっこクラブ」(スーちゃめ)も面白くて大好きだった。ちゃおはあまり知らない。
 今では考えられないが、各雑誌のテレビCMも流れていて「りぃぼん りぃぼん」「なっ かよし~」「ちゃ ちゃ ちゃ ちゃ ちゃ ちゃ~お」の軽快なリズムとともに各雑誌の付録・応募者全員サービス等が紹介されていた。応募者全員サービスがテレホンカードだった号の「りぼん」のCMで流れていた「こんどは みんなに テレホンカァード」という歌は脳にこびりついたままである。

 さて、そんな少女漫画雑誌がイケイケな時代に小学生だった私は、当時から現在に至るまで「なかよし」の『怪盗 セイント・テール』が大大大好きである。セイント・テールは怪盗なのに人助けを目的に盗んでいるというのも斬新だったし、とにかく芽美ちゃんが可愛い!アスカJr.との恋の行方も気になる…。里奈は二人を邪魔すんな!と当時の私はこの立川恵先生の作品によって感情が揺さぶられっぱなしだった。
 あるとき、セブンイレブンで買ったなかよしをめくったら…なんと応募者全員サービスがお弁当箱だった。セーラームーンとセイント・テールと…あとは忘れてしまったが、いくつかの看板作品のお弁当箱が載っている。もちろん私は大好きなセイント・テールのお弁当箱をもらうため、応募券を大切に保管しておいた(つもりだった)。当時、応募者全員サービスの品をもらうためには2か月分の雑誌の応募券と定額小為替が必要で、応募券だけは絶対に失くしてはいけなかった。
 翌月の号も無事に購入し、応募者全員サービスに応募するぞ!というときに
「あれ…」
「ない…」
「ない!」
前号の応募券を紛失してしまったのである。家中探しても見つからない。切り取らないで雑誌ごと保管すればよかったのだろうけど、そんなこと言ってもあとの祭りである。現在の号の応募券と定額小為替を持って、私は途方に暮れてしまった。どうしてもセイント・テールのお弁当箱が欲しい。でも応募券を失くしてしまった。現在のようにインターネットオークション等で気軽に探せる時代でもなかった。
「そうだ!」
どうしても諦められない私は雑誌の後ろに載っている編集部の電話番号にかけることを思いついた。
その当時は市外電話料金が高かったので、母にばれないよう集合住宅内の電話ボックスから試みた。10円玉をいっぱいもって。
プルルル…
…プルルル
「はい」
出た!男の人の声だ!
 私は事情を説明した。とにかくセイント・テールが、いや「なかよし」が大好きであることをプレゼンし、編集部のなかよし愛に賭けた。私が話し終えたあと、男の人はこう言った。
「分かりました。では、編集部から許可をもらいましたと何かに書いて応募してください」
なかよし編集部様様!
今でもこの嬉しさを忘れることができない。セイント・テールのお弁当箱が手に入ることはもちろん、講談社の人が子どもの話に耳を傾けてくれ、温情に満ちた対応をしてくれた嬉しさを。

 電話のあと、小学生ながらも編集部に気を遣い、付録のレターセット使って手紙を書いた。カードキャプターさくらの便せんを使ったような気がするが、定かではない。手紙、1枚だけの応募券、定額小為替を送り、無事にセイント・テールのお弁当箱をもらうことができた。

 あんなに苦労して手に入れたセイント・テールのお弁当箱だが、もう手元にはない。成長の過程で壊れてしまったか、処分してしまったか。どちらにせよ勿体ないことをしてしまった。

 もう退職してしまったが、「子どもの声を聴く先生になろう」と決意し、教員になった原点はなかよし編集部にあると思う。
 あの時は私の話を聴いてくれてありがとうございました。


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