九条の大罪・第1話の損害賠償金額についての解説

九条先生の弁護方針などについても考察した記事がありますので、よろしければそちらも御覧ください

片足1000万円で示談ってあり得る?

九条の大罪で子どもが片足切断しているにも関わらず、お母さんはたった1000万円ポッチで示談しました。

これって通常あり得るのでしょうか?

答えは半分あり得るし、半分ありえないです。

まず半分あり得るほうのお話。
事故を起こすと保険会社は治療終了後示談の話を持ちかけてきます。
その際に裁判基準(弁護士に任せた場合の基準と思ってください)よりもはるかに低い金額での示談を提示してきます。
普通の人は示談金が高いか安いかなんてことは知りません。
そのため、めちゃくちゃ低い金額を提示されて、わからず示談をしてしまうというケースは多くあります。

では、半分のあり得ないほうのお話。
1000万円は安すぎます。
片足を膝より上で切断した場合、九条先生のおっしゃるとおり、4級5号の後遺障害等級が認定されます。
4級5号が認定されると、自賠責保険が1889万円を支払うことになっています(後遺障害部分だけで)。
これ、つまりは保険会社としては、1889万円までであれば支払っても1円も損しないのです。
そのため、自賠責基準を下回る1000万円で示談ということは通常ありえません(自賠責を下回る基準を提示してくる某共済は除く)。
リアリティをもたせるなら1889万円もしくは2000万円とするのがここは良かったですね。

父親死亡の損害賠償金額は?

さて、それでは弁護士に依頼した場合にこの親子がいくらくらい損害賠償金を貰えそうなのか考えていきましょう。
ここで忘れてはいけないのがお父さんが亡くなっているということです。まずはお父さんの損害賠償金額から考えていきましょう。
ここでは裁判所もよく用いる赤い本基準で説明していきます(大阪だけは赤い本基準使わないこと多いのですが)。

(1)死亡慰謝料

一家の大黒柱となる人が死亡しているので死亡慰謝料は2800万円です。

(2)死亡逸失利益

死亡逸失利益というのは、このお父さんが交通事故の被害にあって死亡していなければ稼げたであろうお金のことをいいます。
ただし、人間はお金を稼ぐだけではなくてお金を使いもしますのでその人の生活費を控除したうえでいくらくらい稼げたのかなと計算します。

【計算式】

基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

うん、もう法律の専門家以外はついていけないことになっていってますね。

説明省略して金額の方だけ言っちゃいますね。
なお、基礎収入は通常、休業前のお父さんの年収を使いますが、ここでは不明なので、賃金センサス(男性学歴計・平成30年のデータ)を用います。あと、事故は令和2年4月1日以降と想定しています。

5,527,500×(1-0.3)×15.9369=61,663,850円(小数点以下四捨五入。以下同じ)

(3)葬儀費用

150万円

(4)小括

以上のとおり、お父さんの死亡による損害賠償金は、簡単計算で91,163,850円にもなりました(実際にはこれに死亡までの治療費も加算)。
ただし、作中でもふれられていますが、お父さんは事故前に既に死亡していた疑いがあります。
事故によって死亡したと立証できない限り、これは0円です(このへんは検察官ががんばります、刑事のほうで因果関係が認定されれば民事でもそのまま使えます)。

片足切断の子供の損害賠償金は?

次に、片足切断となった子供の損害賠償金ですが、九条先生は7500万円から交渉スタートだと言っています。
これ、本当でしょうか?
それでは見ていきましょう。

(1)傷害慰謝料

治療費、入院雑費、通院交通費、お母さんの付添看護料、将来の器具費などが認められるでしょうが、このへんの細かいとこは計算できないので省いていきます。

傷害慰謝料としては、入院半年で片足切断ですと、244万円です。

実際には入院が終わったら通院に切り替えてリハビリなども行っていくでしょうから、なんともいえないところはあります。
500万円と言われるとまぁそんなもんかな、でも手術費用や入院費用考えるとちょっと安くない?とも思います。

(2)後遺障害慰謝料

これは単純明快で1670万円です。

(3)後遺障害による逸失利益

さて、金額がとんでもないことになる逸失利益のお時間にいきましょう。

【計算式】

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

さ、またわけのわからない説明なので簡単にいきましょう。

子どもは当然収入なんてないので、この場合には、賃金センサスを用います。平成30年のものを使うと、基礎収入は4,972,000円です。

労働能力喪失率は92%です。
もっとも、保険会社は「片足切断くらいで92%も労働能力喪失したなんて言えんじゃろ、デスクワークならできんだからもっと安くしろよ裁判官」といってきます。
保険会社側の代理人は血も涙もないですね。
当然、被害者側はここは負けられないところですので全力で争います。

労働能力喪失期間ですが、ここは67歳までのライプニッツ係数マイナス18歳までの係数で計算します。
子どもは5歳なので、28.0003-10.6350=17.3653となります。

というわけで、ここは以下のとおりです。

4,972,000×0.92×17.3653=79,433,050円

(4)小括

九条先生は7500万円からスタートだと言っていますが、なかなかにお安いですね。

これに加えて、こういった事案では一歩もひかない姿勢が重要ですので、弁護士費用として損害賠償額の10%、あとは支払われるまで年3%の遅延損害金も請求していきます。

1億円プラスアルファを請求して、被害者の手元に1億円ほど残る形を目指してあげるかなという感じです。

無知は罪ではないがあまりにも軽率

法律を知らないと損をする、無知は罪とまでは言いませんが、作中のお母さんはあまりにも軽率ですね。

損害賠償金額が妥当なのかどうかわからないけどとりあえずハンコ押しちゃうというのはもう大チョンボです。

無知は罪ではありませんが、知らないことは専門家にお金を払ってでも尋ねるという姿勢が重要です。

余談・遺影をもって傍聴することについて

と、ここまで書いたところで気づいたのですが、これ裁判官席に9人もいますね。

つまり、裁判員裁判になっており、検察は危険運転致死傷と判断したということでしょうか。

それで執行猶予を獲得したのであれば九条先生は大したものですし、検察は赤っ恥なのでほぼ100%控訴します。

そして、遺族は遺影を持ち込んでますが、通常、裁判員裁判だと遺影の持ち込みは禁止するケースのほうが多いです。

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