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合鴨農法の先駆者・古野隆雄さんが語る、これからの農業

合鴨農法とは文字通り、水田で稲と合鴨を同時に育てる方法です。水田に放たれた合鴨はスイスイと泳ぎながら雑草や害虫を食べて育ち、やがて食肉となります。30数年に渡って失敗と成功を繰り返しながら独自の方法を確立させた、福岡県桂川けいせん町の古野隆雄さんにお話をお聞きしました。

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古野隆雄ふるのたかおさん 
合鴨家族 古野農場
1950年、農家の長男として福岡県嘉穂郡桂川町に生まれる。
有吉佐和子著『複合汚染』をきっかけに完全無農薬有機栽培を始める。さまざまな水田の除草法に取り組んだ末、1988年から水田に合鴨農法を導入。試行錯誤を重ね体系化を図る。以降、合鴨はアジアを中心に世界に泳ぎ出す。畑の雑草を取り除く方法「ホウキング」の開発でも知られる。著書に『アイガモがくれた奇跡』など。

3年に及ぶ外敵との闘いなど数多の苦難を乗り越えて

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「合鴨を水田で放し飼いしてから数多くの苦労がありましたが、とりわけ野犬などの外敵に合鴨がやられるのが一番の課題でした。1990年から3年に渡って工夫を重ねた結果、電流が流れる柵で田んぼを囲むことを思いつき、今日に至ります。

合鴨は毎年、田植えが終わって2週間以内、だいたい6月中旬以降に放します。雑草や稲の害虫を食べるだけではありません。糞は田んぼの栄養になり、泥をかき混ぜるなど良い効果がたくさんあります。

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稲穂がつくまでの8月いっぱいまで水田で育ったあと、竹林に放して11月に食肉として出荷します。稲作と畜産を同時に行うため、合鴨水稲同時作とよんでいます」

水田で泳ぐ合鴨の姿を自分が一番みたいから

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「私は田植えをしたらすぐ合鴨を放したくなるんです。なぜなら合鴨が田んぼで泳ぐ風景を早く見たいからです。

仕事を面白くするというのがずっと変わらない私のモットーですが、本来、働くとは稼ぐだけが目的ではなく、楽しむことも含まれているのではないでしょうか。私の場合は鴨を放すのが楽しい。ケージ内ではなく、自由に泳ぎまわっている合鴨は、まるで生きていることを喜んでいるように思えるからです。

アニマルウェルフェア(家畜福祉)という考え方がありますが、田んぼの中にいる合鴨はあらゆる能力を自由に発揮しています。きっと最高な気分でしょう。だから私もその姿に癒されるのだと思います。

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効率化だけを優先させてしまった現代の私たちは、働くという人間の喜びを忘れてしまったといってもいいかも知れません。合鴨を見ていると失ってしまった大切さに気づかされます」

持続性が求められる今、注目に値する合鴨農法

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「草取りは重労働ですから、除草剤は1950年代に生まれてすぐに農家の救世主として受け入れられました。以来、一般には農薬や除草剤、化学肥料に頼った農業が続いています。それまでは手で草取りをしていました。家では牛や豚、鶏を飼い、その糞を堆肥にして使っていました。

いくら除草に役立つとはいえ、合鴨をはじめとする家畜を今さら飼えない、というのが大半の意見かもしれません。しかし経済発展が行き詰まり、温暖化などが懸念される今、私たちはライフスタイルを変える必要があるところまできています。合鴨農法は邪魔者だった雑草や害虫を資源として合鴨が食べ、糞は養分になり、食肉になるという持続性の高い農法です。現代の選択肢の一つになってもおかしくないのです。世界の食糧問題の解決の一つの方法です」

有機農法の広がりに必要なのは除草技術の革新

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「有機農法は二つの柱からなっています。一つは土づくりです。地力維持は機械を導入したり、堆肥を工夫するなどして、ある程度はできます。もう一つは雑草の課題です。こちらは除草剤を除いては、いまだ技術として確立できていません。有機農法はどうしても、雑草を取ったり、害虫から防いだりと手間がかかる。このままでは有機農法は広がりにくいと思います。

前述のように私は水田の雑草は合鴨農法で、畑は松葉ホウキからヒントを得た『ホウキング』という除草道具を使用し、対策してきました。『ホウキング』は株の間にある草を、作物を傷めずに取り除くという画期的なものです。ホウキングは汎用性が高く、あらゆる作物に適応できます。手作りできるのでみなさんにも作ってほしいと願っています。」

子どもが田んぼで魚を釣っていた昔の風景を取り戻したい

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「家族が食べるための安全な農作物を作り、それをみなさんにもお分けするというのがうちの農業です。直接、消費者の方に配達することで、ものとお金の関係ではなくて、人と人の関係を築いてこれたと思っています。

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夢は私の子ども時代のように、子どもたちが田んぼで魚をとるような風景を再生させることです。1950年代には田んぼにナマズやフナ、エビ、タニシなどがたくさんいたんですよ。
水を効率的に使うために、現在の水路は三面コンクリートになっていますし、除草剤などの農薬が原因かもしれませんが、今では魚はもういません。もう一度田んぼに魚がいる風景をよみがえらせたいです。」

【編集後記】

これまで「つくりてを訪ねて」シリーズで何軒もの農家さんを訪れてきましたが、その取材した先々で「合鴨農法と言えば古野さん」と名前が出てくるほど、農家さんの中では有名な古野さん。そんな古野さんとORECとのお付き合いが始まったのは2007年から。「ホウキング」の原理をいかし、機械化に向けて一緒に開発を行ってきました。この機械化についての話はOREC公式Facebookにアップしているので、ぜひご興味のある方はご覧ください。
▶ホウキングとORECのものがたり〈前編〉https://www.facebook.com/orecCorporation/posts/3338002579580871
▶ホウキングとORECのものがたり〈後編〉https://www.facebook.com/orecCorporation/posts/3353796601334802

■古野農場ホームページ
http://aigamokazoku.com/