ツンツン・ギチギチ・スカスカ・ズブズブ・ハリドリ
転勤してから通っている心療内科がある。
予約は今日の18時だ。
待合に着くと、ツンツンした態度の看護師さんが訊いてくる。
「診察券お持ちですか?」
僕は診察券を無くしていた。が、
「あの・・診察券無くしちゃったんですケド。(上地雄輔)」
と言おうものなら、
「はあ、じゃあ、おうちをもっかい探してもらえます?」
と言われちゃうのを知っていた。「もっかい」を何回もやったわけだが、どうしても無かった。一度「探したけど無かった」旨を伝えたことがある。
「はぁ、念のためもっかい探してもらえます?」
との返答だった。診察券を無くした者は、診察券を無限に探し続ける地獄に堕とされてしまうのだ。僕はこの看護師にツッケンドンな対応をされ、すっかり凹みきったメンヘラを沢山見ているので、抗いたくなかった。どんな心療内科やねんと思う。
こういう理由があり、僕は財布をちょっとガサゴソやったあと、
「いや〜忘れちゃいました、へへ……あの、保険証で………」
と、答えるようにしている。
この男、とんだ大嘘つきである。
僕は心療内科に通うたびに、このまま行くと平然と嘘をつく卑しい人間になるのではないか、いやもうなっているのではないか!?と怖くなる。最近は受診が億劫だ。
看護師さんは保険証を確認したあと、
「はい、じゃあ、下の薬局で待っててください」
とツンツンと返した。
下の薬局?
この心療内科、ビルの一室で経営されているのだが、何と言ってもギチギチなのである。もう院内の待合には入らないのだ。
同じビルの中にズブズブの薬局があり、そこで待てということだ。門前薬局ならぬ門内薬局である。
僕が「下の薬局」に行くと、ここもまたギチギチだった。局内の椅子は埋まり、局外に設置されたパイプ椅子も埋まっていた。こうなるともう立ちんぼを決め込むしかなかった。
あとはもう呼び出されるのを待つばかりだった。しかし、予約したのは18時だが、いつも18時には呼ばれない。どんだけ人気やねんと思う。待ちに待ち続けて、大体19時半ぐらいには呼ばれる。1時間半待ちて。ラーメン二郎かいな。とも思う。ラーメン二郎だったらどれほど良かったことでしょうね。
18時からの待ち時間というのは、つらい。とにかく腹ペコになる。もう受診とかしなくて良いから、はようメシ食わしてくれ〜という気持ちになってくる。このためにわざわざ定時退社しているというのもあり、帰りたくもなる。せっかくの定時退社が丸潰れになるのは、とても勿体無く感じる。
転勤前の心療内科では、待合室で患者同士が接触しないよう、配慮されていた。しかし、こちらの心療内科はもうギチギチだ。スカスカからのギチギチ。これは大変なことだ。
心療内科の待合室でギチギチになるのは、ちょっと緊張感がある。こころに何かしらの課題を抱えている人々が集まっている訳だから、仲間意識のようなものも感じる。変な感情だ。これはもうギチギチ心療内科でしか味わえない。
それにしても、今日はとくに待たされる日のようだ。換気いう名目で窓が開け放たれており、寒気で指の感覚が無くなってきた20時ごろ、ズブズブ薬局の人が「にしむぅさん、院内にどうぞ〜」と声をかけてくれた。ここで勘違いして頂いては困るのだが、この呼び出しは「受診できる」ということではない。「院内で待てる」ということだ。ここからまた待ちが始まる。
何度も受診しているが、やはりここで「まだあるのか…」と肩を落とす。もうラーメン二郎じゃない。ハリウッド・ドリーム・ザ・ライドである。
「お、結構乗り場の近くまで来たからもうすぐ乗れるんじゃね?」
と思ったら、すごく迂回させられた時の絶望感と似ている。かなり仲の良い友達と並んでいたとしても、会話の引き出しは尽き果てて、お互いシコシコと情け無くスマホを触るだけの、虚無の時間になる頃合いだ。
院内で引き続き待っていたところ、今度はトイレに行きたくなった。が、ここで「にしむぅさ〜ん、にしむぅさ〜ん?」となってしまっては、ここまでの待ちが水の泡だ。この辺の緊張感も、ハリドリである。(にしむぅは『横並び』に対する罪悪感に耐えられないので、アトラクションのときにトイレ抜けができないのだ)
空腹、尿意、寒さ、その全てを耐えた先に、受診があるのだ。
さて、20時30分!待ち続けていよいよ受診の時がやってきた!!
「お変わりはないですか?」
「今週もちょっと具合悪くて…」
「お薬ちょっと増やしてみましょうか」
「え、あ、はい」
「お大事にどうぞ〜」
以上!!!!!!!!!!!
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