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サンエイト貿易 | おいしい、のその先を選ぶ

パティシエにとって材料を選ぶことは、未来を選ぶこと。
世界の製菓材料を扱う東京・青山の商社、サンエイト貿易は13年前、フランスのオーガニックフェアトレードチョコレート、KAOKAを初めてプロに販路開拓し、原種の保護や途上国との格差是正など、製菓材料選びの新しい視点を提唱してきた。
安全性や味は前提で、そこから先が問われる時代。つくり手と使い手との間を行き来する第二走者に、これからの製菓材料の価値について聞いた。

“先物買い”で風を起こす。

サンエイト貿易の歴史は、多くのプロから熱い信頼を集めるチョコレートブランド、ヴァローナの発見から始まる。1978年、当時総合商社のフランス駐在員だった創業者が現地で食べたボンボンショコラの味わいに衝撃を受け、その原料であったヴァローナチョコレートの輸入を開始、翌年に設立された。

「その頃は輸入チョコレートブランドが数えるほどしかなかった時代。ヴァローナに関しても当初は『こんな酸っぱいチョコレート使えないよ』という反応もありました」と、サンエイト貿易商品管理本部長の小川裕一郎さん。しかし海外シェフからの技術指導やフランスでの修業経験者が増え、その味わいは徐々に受け入れられ始める。

1986年に発売開始したカカオ分70%のブラックチョコレート『グアナラ』や、1990年発売の『マンジャリ』を皮切りとする産地限定カカオを使ったシングルオリジンシリーズで、ヴァローナは日本のチョコレートの概念に変革を起こした。(※)

その変革が広く普及した頃、サンエイト貿易は新たな価値をもつブランドを見出す。それがKAOKAだ。

サンエイト貿易商品管理本部長 小川裕一郎さん。

つくり手の情熱を、使い手に浸透させる。

KAOKAの創業者アンドレ・ドゥベール氏は、環境と生産者に配慮したチョコレートづくりに情熱を掲げる現場主義者で、農薬・化学肥料不使用、土壌を回復させながらカカオを栽培する森林農法を用い、いかなる非常時にもカカオを買い支え、カカオ生産者から絶大なる信頼を置かれていた。

しかし農家に寄り添うあまり、その情熱は商売には注がれず、当時のKAOKAが扱っていたのは小売用チョコレートのみであった。

KAOKAの創業者のチョコレートづくりへの情熱に魅せられた、サンエイト貿易の創業者は、業務用チョコレートの製造を提案。KAOKAはそのオファーを受け入れ、コインタイプの製造及びオーガニック認証の充填工場を探索し、2008年に日本で販売を開始した。

だが、発売当初の売れ行きは決して順調ではなかったという。

特に日本の市場においてチョコレートは滑らかさ、口溶けの良さを求められる。カカオバターの追油が少なく、頑なにカカオの味を生かす製法を採るKAOKAのチョコレートはテクスチャーが物足りないという声もあった。さらに“オーガニック=高くておいしくない”というイメージも根強く、またプロのパティシエたちにとってフェアトレードがどのような価値となり得るのか、当時の市場は理解も薄かった。

そこでサンエイト貿易では、KAOKAを選ぶことの真の価値を目に見える形で伝える活動に着手する。企画したのはパティシエたちのエクアドルのカカオ農園ツアー。当時としては画期的な試みだった。

1番右がKAOKA2代目社長、ギー・ドゥベールさん。右から3番目が小川さん。
KAOKAのチョコレートで作った自分のお菓子を農園の生産者に手渡すパティシエ。

ツアーは2006年からほぼ毎年継続し、延べ62名のシェフが参加。なかには、農園で出会った「将来はカカオの生産者になりたい」という少年の思いに感銘を受け、彼の成長をできるだけ長く支えられるようにとKAOKAのチョコレートを仕入れ始めたシェフもいた。そのチョコレートは店の定番商品に採用され、今日まで継続的に使われている。

持続可能な価値を育む。

さらにサンエイト貿易は、カカオ産業の再生産可能な仕組みづくりも買って出る。「販売と同時に『Happy Organic Cacao Project』を立ち上げました。サンエイト貿易のチョコレートの売り上げの一部を、KAOKA基金を通じて継続的に寄付するシステムです」
資金はカカオの苗木購入のほか、生産者の様々な生活のサポートに充てられる。2021年3月までに、累計1384万円がエクアドルの生産者の元へと届けられた。

2018年にはKAOKAとの共同出資でエクアドルに7.5haの試験農園「アンドレ・ドゥベール農園」も開園。カカオの優良品種の選定などを行う研究機関、INIAP(国立農場試験場)とも連携し、カカオの生産力向上に大きく貢献している。

「Happy Organic Cacao Project」では、パティシエがチョコレートを使うことで植えられる1本の苗木から、カカオ70%のチョコレート1kgが作られ、それがまたパティシエに届く、という循環を生む。
アンドレ・ドゥベール農園。アロマティックな特徴と生産性をあわせもつ新品種の育成などを行う。

つくり手と使い手の間に立ち、様々な観点からKAOKAの価値を守り、伝え続けるサンエイト貿易。その実直な姿勢はやがて実り、今日の若きシェフが選ぶ「社会的意義のあるチョコレート」としても一目置かれる存在に成長している。

消費者からの共感を力に。

これからの製菓材料選びについては、「味のクオリティが高く、ストーリーに共感できる材料を使い、シンプルに仕上げる。それが今後の洋菓子のスタンダードとなっていくでしょう」と小川さん。どんな小さなパティスリーでも、材料選びで未来に続く活動に貢献できる。パーツや工程数の多い菓子づくりも、何かひとつのアクションでモチベーションが変わる。

ただフランスと日本のパティシエでは、例えばカカオに関する情報量ひとつとってもかなり違いがある。「良いカカオはどうしてもヨーロッパへ回り、手にできる知識にも雲泥の差がある。サステナブルを謳う商品でも、それを選ぶことがどんな未来につながるのか、そのような認識にも大きな差があると思います」。企業単位ではフードロスやSDGsへの取り組みは進んでいるが、個人店で取り組んでいるところはまだごく僅か。「その差を埋めるのが、我々の使命です」

ゆえに活動の幅は一層広げる予定だ。「昨年(2020年)からマーケティング課を開設しました。味だけではない。その味がどういう動きで実現されているのか。背景を伝えられたら」

そんな彼らが目下挑むのは、消費者からの共感、という価値提案だ。

「KAOKAの思想をシェフたちに伝え、次にシェフがつくるお菓子を通じて、サステナブルな食の在り方に関心の高い消費者へKAOKAに対する共感を促す。共感した消費者は、それを材料に使うパティスリーをさらに支持する。そんな循環をつくれれば、KAOKAを使う意義をシェフたちにもっと感じてもらえると考えています」

そのために、サンエイト貿易ではパティスリーに並べるKAOKAのリーフレットの製作や、KAOKAの紹介サイトに誘導するQRコード付きタブレットチョコレートを商品化。シェフたちをサポートしながら、KAOKAを“伝える手段”を多様化させている。

土壌を守る、ロスを減らす、輸送コストや保管のエネルギー効率を下げる、消費者と価値観を共有する・・・おいしさのその先に、使い手が目を向けるべき価値はまだたくさんある。それがサンエイト貿易の考え方だ。

彼らは決して製菓材料だけを供給しているのではない。未来につながる大切な価値を、シェフたちに提供し続けているのだ。

(注釈)
ヴァローナは、1995年以降はヴァローナ ジャポンにより輸入販売。サンエイト貿易でも引き続きヴァローナの販売を手掛けています。


サンエイト貿易
〒107-0062 東京都港区南青山1-1-1 新青山ビル西館22階
https://www.sun-eight.com/

*text by Miyo Yoshinaga / photographs by Sai Santo