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満足感をつくり資源を守る、寒天のチカラ。

近年、「プラントベース(Plant-based)」が注目を集めています。
英語で“植物由来”を意味するこの言葉について、日本にまだしかるべき定義はありません。しかし海外では既に様々な概念や定義が示されており、代替肉などに代表される健康増進や環境負荷軽減の意志に基づいた植物性食品選択の動きは、今世界各国で加速しています。

この世界的な流れと寒天の関わりについて、伊那食品工業の取締役開発本部長を務める柴克宏さんはこう話します。

「この代替肉の研究は日進月歩で、昨今様々なメーカーから製品化されています。しかしその品質についてはまだ課題があり、特に動物性タンパクならではのおいしさーー味わい、食感、ジューシーさーーを大豆やエンドウなどの植物性タンパクで代用することの難しさが長く指摘されてきました。

ですがこの課題の解決にも、寒天の機能が役立っています。代替肉の原料に寒天を加えることで、食物繊維の“食感をつくる”機能が作用し、植物性タンパクだけでは難しい肉ならではの食感や肉汁感が表現できるのです」

伊那食品工業 研究開発部

さらにもうひとつ、柴さんが挙げたのは、現在世界中の海で問題になっている水産資源の乱獲。国連食糧農業機関(FAO)の2019年の発表によると、世界の水産資源のうちおよそ1/3が獲りすぎ(乱獲)の状態にあり、漁獲枠の余裕はもうあと僅かだと言います。

「このままでは食卓から魚が消えるばかりか、海洋生物の多様性が失われることで地球全体の生産性や回復力、適応力も維持できなくなってしまう。まさに限りある資源ーーですが、一度知ってしまった贅沢は忘れられないのが私たち人間。寒天の“食感をつくる力”は、そんな人間の欲求を満たす上で重要な役割を果たしてくれます」

たとえば、たらこスパゲティをつくる市販のソースの一部に寒天が使われているという事例。たらこの代用として造形された植物由来原料の擬似魚卵は、その原料の一部に寒天を使うことで成形性が高まります。またそれだけでなく、より本物らしい食感の表現や、レトルトパウチなど加工食品を製造する過程で潰れてしまいやすい魚卵の歩留まりを上げる働きも期待できると柴さんは言います。

「何より、寒天など植物由来の原料で水産資源を代用することで、消費者に満足感を与えながら貴重な資源をセーブすることができる。そういった意味でも寒天への期待は大きいのです」

寒天の原料となる海藻のひとつ、天草(テングサ)

素材単体でも、他の食品の食感を増幅するサポーターとしても、日々その役割を拡大し続けている寒天。

「研究開発に携わる私たち自身、いつも本当に大きな可能性を感じています。先人がつくり伝えてきてくれた寒天。その魅力を肌で感じながらさらに深堀りすることで、新たな用途を開拓し、今後も健康増進や食品の品質向上に貢献し続けていきたいと思います」

誕生から350年以上経った現在も進化し続ける、寒天の力。それらは可能性を信じる人々の手によって拓かれ、まだ見ぬ明日への道筋を描き続けています。