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寒天を使った、食べられるフィルムの展望

自社で100種類以上の寒天製品を取り扱う長野県の寒天メーカー、伊那食品工業の取締役開発本部長を務める柴克宏さんが現在、特に期待を持って開発に取り組んでいるのが、寒天をはじめとする植物由来の多糖類でつくる可食性フィルム。伊那食品工業では25年ほど前に、粉末調味料を包む目的でこの可食性フィルムの活用を始めました。

クレール

可食性フィルムの正体は、寒天溶液から水分を抜き取った後に残る緻密な網目構造で形成された薄膜。網目が均一であればあるほど、どこを引っ張っても破れにくい丈夫なフィルムができるそう。伊那食品工業ではこのフィルムを「クレール」や「とんぼのはね」という名で製品化しています。

近年多く見られるようになった生分解性素材のなかでも、食べられるものはまだごく僅か。可食性フィルムは、食の未来をどのように変えていくのでしょうか。

クレールを使用した天ぷらの調理例

「クレールに関して言えば、水分の多い食材をまとめて天ぷらにしたり、タルトやパイ生地に敷くことでその上に重ねるアパレイユやフルーツからの水分移行を防止する目的で使われています。フィルムを間に挟むだけで、水分の多いものを乗せても生地はサクッと仕上がります。
味わいや外観の品質向上につながる縁の下の力持ち的な役割を担うだけでなく、従来不可能とされてきたことを可能にするのがクレールのすごいところです。

また食品の品質向上だけでなく、フィルムの機能を多様化させて用途開発を進めていくと、環境に配慮した使い方も可能になります。まだ研究段階ですが、たとえばもしショートケーキの周りのフィルムがそのまま食べられるものになったとしたら…それって面白いですよね」

素材研究や応用開発は目下進行中。可食性インクで印刷することにより色や形が滲むことなく美しくプリントできる特殊な可食性フィルムなど、新たな市場を切り開く可能性を持った製品も徐々に形になっていると言います。

「食を基点に、環境への配慮という観点でも社会に役立つ素材として、可食性フィルムにはまだまだ可能性があります。素材開発を継続することで、その用途は今後さらに広がっていくはずです」

柴さんの言葉からは、寒天と可食性フィルムでつくる未来への希望が溢れていました。