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お茶づくりは“天地人”と共に

​​「お茶づくりは“天地人”、全ての要素が揃って初めて成立するんです」。日本有数のお茶処として知られる福岡県八女市星野村にある星野製茶園の山口真也さんはそう語る。万物の声にじっと耳を傾け、品質の高いお茶作りに心血を注ぐ彼らは、何を見つめているのだろう?どんな未来を描いているのだろう?

かつて星野製茶園で山口さんのもとで勤務し、現在は福岡の日本茶専門店「茶舗 ふりゅう」でお茶の魅力発信を行っている田代亮平さんと共に星野村を訪れ、山口さんに質問をぶつけた。(聞き手:田代亮平/語り手:山口真也)

土が美味しさを決める

ー八女で茶づくりをする上で大切にしていることって何でしょうか?

八女茶の全国シェアは約3%。規模の大きい産地と同じことをやっていても負けてしまうからこそ、小さな地域であることを生かすお茶づくりが重要だと思ってます。農家さんたちとももうずっとその話をしてますね。

土地ならではの強みで言うと、土の豊富さ。八女には有機物の含有量が多くて柔らかな「黒ボク土」もあれば、保水性、排水性、保肥性に優れた粘土質の「赤土」もあって、全体的に質が良い。色んな土でつくった色んな香りの茶葉を組み合わせることでバランスの取れたお茶づくりができるし、ブレンドの幅も広がるんです。

ー以前から土について専門的な研究もされていましたよね。

お茶の木は土質を選ぶ植物。土が美味しさを決める、と言っても過言じゃないと思っています。八女の土は全体として水はけがよく、微量要素のバランスがちょうど良い。旨味豊かなお茶づくりにぴったりの環境なんです。数値的に優れた土壌だからといって必ず良いお茶ができるとは限らないけど、気になった畑は都度調査して、成分のバランスを見ながら村全体の土の傾向を把握するようにしていますね。

「大切なのは土づくりじゃなくて土選びだ」ってよく言っていますが、どれだけ良い肥料を与えて土を肥やしても、結局もともとの土質の良さにはかなわない。育てたい品種があったとして、それにあわせて良い肥料を与えて土を肥やすより、畑の土をまるごと入れ替えてしまった方が早いと判断することもあります。

村の未来のための品種選び

ー星野製茶園で今後期待されている品種は「きらり31」と「せいめい」のふたつと聞きました。品種はどのようにして選んでいるのでしょうか?

どちらも2015年前後に登録された比較的新しい品種で、選ぶ基準はやはり村の土との相性です。それぞれの産地が自分たちの土地を活かしたお茶づくりで品質を上げながら切磋琢磨してきたからこそ、日本の茶業は高いレベルを維持できてきた。

たとえばある農家さんでは、良いお茶ができると評判の品種を植えたのにあまり良くならなくて、「なんでだろう?」と調べてみたらやっぱり土との相性の悪さが原因だった、なんてこともあります。お茶屋はとにかく自分たちの土地に合う品種を見極めることが大切なんです。

それに、品質が良いからって古い品種にこだわるのも良くない。やっぱり新しい品種のほうがいろんな面で強いので、常に先を見据えて情報収集していかなければいけないと思っています。
良いお茶ができれば農家が潤う。彼らの収入が増えれば、後継者不足の不安解消にもつながるはずです。

後継者がいなければ、畑は荒れます。畑は一度枯らすとその後2、3年はまともなお茶が採れないから、産地を守るためには「畑を続ける」ことが何より大事なんですよ。その点、最近は「お茶を学びたい」という田代くんのような若手が外から入ってきてくれることも少しずつ増えてきて有難いなと思いますね。