相続登記の義務化と過料

4月1日から相続登記の申請が義務化される。
https://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/page000275.html

不動産登記法第164条
第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第四十九条第二項において準用する場合を含む。)、第四十九条第一項、第三項若しくは第四項、第五十一条第一項から第四項まで、第五十七条、第五十八条第六項若しくは第七項、第七十六条の二第一項若しくは第二項又は第七十六条の三第四項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。

令和6年4月1日施行


太字が改正部分だが、一見して明らかなとおり、表題登記に関する過料規定は従来から置かれていて、そこに相続登記を追加した格好になっている。
しかしながら、現状、未登記の建物はそこら中にゴロゴロしているのが実態だ。建物を新築した場合でも、担保権設定が不要であれば登記を行う必要性が薄いし、わざわざ金と手間をかけてまで…という気持ちは分からなくもない。だからこそ表題登記の懈怠をについては従来から過料の対象だったわけだが、実際に過料を徴されたケースはない、というのは、実務家の共通認識だったようだ。

法務局が建物の新築を把握できるのか、という問題はあるが、市町村においては固定資産税の賦課業務にあたり、建築確認申請書や航空写真により課税物件を把握している。法務局がその気になれば表題登記の懈怠を把握できないはずはないのだが、実際にはそのような動きはなく、不動産登記法の規定による過料はその実効性に疑問符が付く状況になっている。

相続登記の義務化も、実効性を担保するのであれば、過料の徴収について適切に運用する必要があるだろう。この点、表題登記と同様、いかにして相続登記の懈怠を把握するかが大きな課題といえる。
この点、「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(相続登記等の申請義務化関係 (通達))」には以下の記載がある。

登記官は、次に掲げるいずれかの事由を端緒として、改正不登法第76条の2第1項若しくは第2項又は第76条の3第4項の規定による申請をすべき義務に違反したと認められる者があることを職務上知ったときに限り、申請の催告を行うものとする。

① 相続人が遺言書を添付して遺言内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺言書に他の不動産の所有権についても当該相続人に遺贈し、又は承継させる旨が記載されていたとき
② 相続人が遺産分割協議書を添付して協議の内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺産分割協議書に他の不動産の所有権についても当該相続人が取得する旨が記載されていたとき

要は「遺言書や遺産分割協議書に、申請に係る不動産以外の不動産が記載されていた」ときに「限り」過料徴収の要件である催告を行う、ということになるだろう。相続登記の懈怠を捕捉する方法としては、些か心許ないようにも思う。
つまるところ、「法律上義務化されたよ!」「罰金(的なもの)が科されちゃうよ!」という、アナウンス効果を狙っているのだろう。滞納処分とすれば、不動産の差押えはやりやすくなるかもしれない。もしかしたら。


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